293 / 362
二百九十三話
しおりを挟む
朧、ヒイキ、曹純と将を倒し、残すは西軍大将のマナシのみとなった。
唯一の懸念は、リュウマがいることだが、ジャスベンダーが上手く対応していると信じるしかない。
ギデオンたちは、そのまま混沌の化身の下へと走り、己が練功武装を発動させた。
「まさか、ここまで来るとはな……月の呪いですら耐えうる貴様は何物だ?」
「ワイルドハンターのギデだ。聞かれれば、こう答えるさ。呪いだか何だか知らないが僕には届かないぞ、残念だったな」
「早まるな、小僧。ムーンフェイズだけが、このマナシの能力ではないわ」
極端な不快感を示しながら、マナシは次の手を打ってくる。
時計の文字盤の針が丁度、十二時を指し示すと円を描く数字が唐突に回転しだした。
「ルーレットと洒落こもうではないか」
「どういうつもりだ?」
「1~12、いずかの数字が時計の文字盤の頂点に止まる。その数字によって貴様らの命運が決まる」
「アンタと遊んでいる暇はないんだよ!!」
「同感だ。貴様らに構っている暇はない……すでに賽は投げられた。因果応報により裁かれるが良い。パニッシュメントゲイザー」
ガラガラガラガラ……ガコン! 時計の頂点に五の数字が止まった。
それからほどなくして、どこからか黒い野鳥たちがやってきた。
まるで、この戦場に流れる人の血の臭いに引き寄せられるようして集まっている。
人の目にも似た模様を翼に持つそれらは、美しくも儚げな影絵である。
まるで生きているように見えるが、生き物とは別の存在だ。
混沌の力により、カタチを成した災禍である。
野鳥たちは羽ばたきながら、良からぬモノをまき散らしていた。
それは人体にとって毒性のある鱗粉、呼吸器に入るまでもなく皮膚から浸透していく。
発症するまで自覚症状などない。
発症すれば、それこそ地獄だ。
未だ、治療法のなく薬剤もない。急速に身体を蝕み、内側から細胞を壊死させる。
「ううっ……ぜ、全身に力が入らない。なんだか、とても気怠い」
「く、うるじぃぃぃぃぃ――――誰か、回復魔法、を」
早速、影響が出始めた。
一部の兵士たちが、聞くにたえない苦痛を訴えだした。
誰一人として、それが何なのかも分からないまま衰弱してゆく。
惨事が拡大する中でギデオンの剣が、マナシの喉元かすめた。
それまで、余裕を見せていた混沌の王が初めてギョっとした表情を浮かべていた。
「――――やはりな」確信するギデオン。
マナシが動じた理由は主に二つある。
まず、パニッシュメントゲイザーを含む、呪術がギデオンには一切通用しないこと。
考えられるとすれば、蜜酒の効果だろう。ギデオンは魔力や気力の回復薬として定期的に蜜酒を摂取している。
その証拠に、最初にムーンフェイズの状態異常を受けてしまったパスバインも、今度は無事だ。
蜜酒の効果については、ほぼ確定だと見て間違いない。
マナシを震撼させたのは、それだけではない。
斬撃に対する耐性だけは無いと見てもいい。
首元を剣の切っ先がかすめただけなのに、小さな切り傷がなかなか再生できないでいる。
四凶の能力を踏まえれば、不自然すぎるまでもある。
「効かぬか……ならば再度、運命を回すのみ」
「上空へ逃げるつもりか!」
「私が奴の動きを封じます。ベツレームクライシス、ハァアアアアアアア――――」
パスバインが放つ、螺旋の拳撃がマナシの下へと飛びかう。
臍帯を縮め、ギデオンたちから距離を置こうとしていた彼だが、大技を前にしてさすがに対応せざるを得なかった。
防御結界を張り闘気の塵旋風を押さえこむ。
それを三度重ねて、ようやく耐えうる強度になった。
その間に文字盤のルーレットが再び、停止した。
今度は11が出ると、天候がどんよりと曇りだし金色の雪がシンシンと降り始めた。
季節の変化がないドルゲニアにおいては、明らかに異常気象だ。
その上、金色に輝く雪など自然界の摂理に反している。
本物の雪ではない……そう思うギデオンたち身にも変化が生じた。
どうやら、呪いの類ではないらしい。
金の雪は皮膚に付着すると剥がし落とせないものだった。
いくら爪先で引っ搔こうが患部がツルツルと滑り上手くいかない。
「ステータスオープン……石化ならぬ金属化だと! しかも物理攻撃か」
「ギデ殿、このままでは全身が固まり身動きが取れなくなります。その前にマナシを倒さなければなりません」
「ああ、分かっている。ひとまずは、奴をここから遠ざける。そのためのイメージは練り上がっている」
「イ、イメージですか……?」
「まぁ、見ていてくれ」ギデオンは魔獣ガルムの銃身を額につけ、心を鎮めるように瞳を閉じた。
唯一の懸念は、リュウマがいることだが、ジャスベンダーが上手く対応していると信じるしかない。
ギデオンたちは、そのまま混沌の化身の下へと走り、己が練功武装を発動させた。
「まさか、ここまで来るとはな……月の呪いですら耐えうる貴様は何物だ?」
「ワイルドハンターのギデだ。聞かれれば、こう答えるさ。呪いだか何だか知らないが僕には届かないぞ、残念だったな」
「早まるな、小僧。ムーンフェイズだけが、このマナシの能力ではないわ」
極端な不快感を示しながら、マナシは次の手を打ってくる。
時計の文字盤の針が丁度、十二時を指し示すと円を描く数字が唐突に回転しだした。
「ルーレットと洒落こもうではないか」
「どういうつもりだ?」
「1~12、いずかの数字が時計の文字盤の頂点に止まる。その数字によって貴様らの命運が決まる」
「アンタと遊んでいる暇はないんだよ!!」
「同感だ。貴様らに構っている暇はない……すでに賽は投げられた。因果応報により裁かれるが良い。パニッシュメントゲイザー」
ガラガラガラガラ……ガコン! 時計の頂点に五の数字が止まった。
それからほどなくして、どこからか黒い野鳥たちがやってきた。
まるで、この戦場に流れる人の血の臭いに引き寄せられるようして集まっている。
人の目にも似た模様を翼に持つそれらは、美しくも儚げな影絵である。
まるで生きているように見えるが、生き物とは別の存在だ。
混沌の力により、カタチを成した災禍である。
野鳥たちは羽ばたきながら、良からぬモノをまき散らしていた。
それは人体にとって毒性のある鱗粉、呼吸器に入るまでもなく皮膚から浸透していく。
発症するまで自覚症状などない。
発症すれば、それこそ地獄だ。
未だ、治療法のなく薬剤もない。急速に身体を蝕み、内側から細胞を壊死させる。
「ううっ……ぜ、全身に力が入らない。なんだか、とても気怠い」
「く、うるじぃぃぃぃぃ――――誰か、回復魔法、を」
早速、影響が出始めた。
一部の兵士たちが、聞くにたえない苦痛を訴えだした。
誰一人として、それが何なのかも分からないまま衰弱してゆく。
惨事が拡大する中でギデオンの剣が、マナシの喉元かすめた。
それまで、余裕を見せていた混沌の王が初めてギョっとした表情を浮かべていた。
「――――やはりな」確信するギデオン。
マナシが動じた理由は主に二つある。
まず、パニッシュメントゲイザーを含む、呪術がギデオンには一切通用しないこと。
考えられるとすれば、蜜酒の効果だろう。ギデオンは魔力や気力の回復薬として定期的に蜜酒を摂取している。
その証拠に、最初にムーンフェイズの状態異常を受けてしまったパスバインも、今度は無事だ。
蜜酒の効果については、ほぼ確定だと見て間違いない。
マナシを震撼させたのは、それだけではない。
斬撃に対する耐性だけは無いと見てもいい。
首元を剣の切っ先がかすめただけなのに、小さな切り傷がなかなか再生できないでいる。
四凶の能力を踏まえれば、不自然すぎるまでもある。
「効かぬか……ならば再度、運命を回すのみ」
「上空へ逃げるつもりか!」
「私が奴の動きを封じます。ベツレームクライシス、ハァアアアアアアア――――」
パスバインが放つ、螺旋の拳撃がマナシの下へと飛びかう。
臍帯を縮め、ギデオンたちから距離を置こうとしていた彼だが、大技を前にしてさすがに対応せざるを得なかった。
防御結界を張り闘気の塵旋風を押さえこむ。
それを三度重ねて、ようやく耐えうる強度になった。
その間に文字盤のルーレットが再び、停止した。
今度は11が出ると、天候がどんよりと曇りだし金色の雪がシンシンと降り始めた。
季節の変化がないドルゲニアにおいては、明らかに異常気象だ。
その上、金色に輝く雪など自然界の摂理に反している。
本物の雪ではない……そう思うギデオンたち身にも変化が生じた。
どうやら、呪いの類ではないらしい。
金の雪は皮膚に付着すると剥がし落とせないものだった。
いくら爪先で引っ搔こうが患部がツルツルと滑り上手くいかない。
「ステータスオープン……石化ならぬ金属化だと! しかも物理攻撃か」
「ギデ殿、このままでは全身が固まり身動きが取れなくなります。その前にマナシを倒さなければなりません」
「ああ、分かっている。ひとまずは、奴をここから遠ざける。そのためのイメージは練り上がっている」
「イ、イメージですか……?」
「まぁ、見ていてくれ」ギデオンは魔獣ガルムの銃身を額につけ、心を鎮めるように瞳を閉じた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【 完 結 】言祝ぎの聖女
しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。
『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。
だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。
誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。
恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる