異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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ニ百八十八話

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 全身が地ベタに吸い寄せられる。
 未だ、体験したことのない感覚がギデオンの動きを拘束する。
 厄介、極まりないことに抗うほど、魔力が体内から放出されてしまう。
 魔力操作が不得意な彼にとっては、もっとも相性の悪いトラップだ。

「どうやら、万策つきたようだね。その命、取った!」

 ヒイキが連続して矢を放つ。
 その場から一歩たりとも動けないギデオンは、バハムートでの迎撃により急場をしのぐほかなかった。
 取り敢えずは、何とかなる。
 そう思わせるタイミングで、発動するのが罠というモノの怖さだったりもする。
 飛んできた杭の矢のうち数本は撃ち落とすと油が飛散し、ギデオンのほうへと降りかかってきた。

「マズイぞ……この状態で火気が飛んできたら、火傷では済まないな」

「もう遅い! 我が火矢とくと、その身で受けてみよ」

 弓から離された、炎が立ち込める紅蓮の矢。
 この戦いにピリオドを打つべく、業火は解き放たれた。

「戦う前に僕が言ったことを覚えているか? 生半可な気持ちではなく全力でかかってこいと言ったはずだ。でなきゃ……後悔するとなぁ!!」

 ギデオンはバハムートの砲身を真下に向けて、極小サイズグラバスターを数ヶ所に分けて打ち込んだ。
 それはナンダとの戦いでも見せた足場崩しだった。
 今回の場合、壊すのは橋そのものではない。足場に埋め込まれたヒイキの杭を木っ端みじんにするのが狙いだ。
 攻守反転させるほどの強力な一手が、再びギデオンの機動力を目覚めさせた。

 ガツンと!! 鈍い振動とともにギデオンの飛び膝蹴りがヒイキの顔面に届いていた。
 怒涛の襲撃にヒイキの身体は、剣璽橋の中央部から遠く離れた端ほうまで吹き飛ばされてしまっていた。

「な、何も見えな……カハッ!! な、なんだコレは――――!?」

「ボクの動きを封じたのなら、即座に爆破式の奴を使用するべきだったな。アンタは道具を過信しすぎた、頼りすぎるがゆえに非効率なことになっても着実な方法を選んでしまう」

「それの何が悪い?」

「悪いことさ。言い換えれば自分を信じ切れていないのだから、アンタは基本、自己を過小評価する傾向がある。そのせいで可能性の芽まで潰してしまっている」

 横たわっていたヒイキが、辛うじて起き上がってきた。
 ボタボタと大量の鼻血を垂れ流しながら、相対する敵の方を睨みつけてきた。

「ようやっとか、隠し手を出す気になったみたいだな」

「コイツを使うのは、非常時でも特にヤバイ時だけだ。覚悟しろよ、ボクにもこの能力は制御できない、コオッオオオォォッォ――――!!」

 大量の空気を吸い込んでゆくヒイキ。
 理屈以前に、彼の闘気が増加してゆくのを肌でピリピリと感じ取れる。
 肩幅の広い体格が、より一回り大きくなり、肌は紅葉と同じく緋色に変色していた。
 獲物を狙う縦長に伸びた瞳孔と、鋭く伸びた手足の爪。

 この姿にギデオンは見覚えがあった。
 容姿の変化こそ、若干の違いはあるがファルゴ・エンブリオンが戦いの最中、見せた変身に酷似している。

「驚いて声もでないか? これこそドルゲニアの民の証、龍神族の末裔まつえいである我らの、もう一つの姿なり」

 ニッと口元を緩めると、先程のお返しだと言わんばかりにヒイキが襲い掛かってきた。
 得意の弓も放り投げて、まさかの肉弾戦に持ち掛けてきた。
 岩よりも強固な拳のラッシュを、ギデオンに叩き込んで反撃する間を与えない。

「くらえぇぇ、君がどれだけ驚異的な存在だったとしても、この勝負とは関係のない話だ。絶対に、負けるわけにいかないんだ。でなければ……の期待には答え―――――――」

 敵将ヒイキの額にギデオンのかかと落としが炸裂した。
 どれだけ肉体を強化しようとも気が散漫になっているようでは、相手の動きなど読めるはずもない。

「今度は、自分の身体能力を過信しているな。どうして、インファイターの僕にその雑な攻めが通用すると思ったんだ? これなら最初の集中していた時の方が余程、マシだ」

「いい気になるなよ! 練功だって、この通りだ! 轟拳去来」

 苦し紛れの一撃を、ギデオンは掌底で軽く受け流してみせた。
 失意のどん底に追い込まれた敵将は、もはや成す術もなく、口を半開きにしたまま身を強張らせていた。

「その手は人を殴るのは向いていないな。打撃というのは、こういう物だ」

 ギデオンが上半身をひねりながらタメをつくる。
 しなやかな筋肉の動きを、余すところなく拳に乗せて押し出す。
 それは、銃の機構を想起させるような一撃だった。
 練功という火薬により弾丸である拳が加速する。
 研ぎ澄まされた肉体の動きが重みと破壊力を乗算し、龍神化したヒイキのボディに打ち込まれた。

 大気が破裂する音とともに、敵将はギデオンに覆い被さるように沈んでゆく。

「ここまで……ここまでチガウものなのか、よ」

 そう呟くヒイキが動かなくなったのを確認すると、南北の兵士たちから歓声をあげた。
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