異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百八十一話

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「ふぅ、今日は曇りな日かもしれないな」

 貴族のジャスベンダーにとって、強敵と一戦交えることは決して喜ばしいとは言えない。
 争い事を好まない性格上、戦場に駆り出される度にアンニュイな気分になる。
 そんな時、彼は自身の気持ちを天候に差し替えて表現する。
 他の誰にも伝わらない上流階級の言葉遊びのようなものだ。
 その遊戯に意味があるのかと、周りから問われれば「私に自分が存在する理由を問おうとするのか?」と一蹴するだけだった。

 曇りと表現したのは、ジャスベンダーならでは皮肉である。
 天属性のリュウマは、地属性を操るジャスベンダーにとって相性最悪な相手だ。
 いつもなら、出会った瞬間に撤退を要求するのだが今日は違う。
 ジャスベンダーはリュウマと遭遇した瞬間から、慙愧の剣豪の異変に気づいていた。

「龍剣一刀流、残角斬り」

 刀身を鞘から引き抜くと、鋭角を描きながらリュウマは剣圧の斬撃を放ってくる。
 素早く、刀を振り回しこちらに向かって全速前進していた。

「やはりな……」何か、納得したようにジャスベンダーは呟いた。
 真横にいる銃皇が不可思議そうな視線を送っているのを見て「フッ」と口元を和らげると、彼は主に告げた。

「真っすぐです。気にせず真っすぐ走って下さい、若! 必ずや道を通しますので」

「おうよ。お前がそう言うのなら俺は迷わないぜ!!」

 向かってくるリュウマを恐れず、銃皇は門を目指して駆け出した。
 そのすぐ後を追いギデオンがジャスベンダーの横を通過してゆく。

「ギデオン! 貴公に頼めることではないが、若に無茶をさせないでくれ!! あの方はドルゲニアにとって必要な光だ」

「気が向いたらな!」

 素っ気ない返事が、微かに聞こえたような気がした。
 ジャスベンダーは、一呼吸おいて夜叉のように殺意を放ちながら刃物を振りかざす男に狙いを定めた。

「紅葉とは愛と黄金から産み落とされた争いの象徴……故郷という黄金を守るため、人としての慈愛を捨てるか、修羅道よ。だが、それもまた愛なり……愛する者、宝を欲するがゆえに夜叉と化す。なんと、健気ではないか!」

 胸元を手をあてがいながら、詩人のように詩を紡ぐ魔術師。
 時間にしてコンマ五秒、瞬きを一回する間に、彼の詠唱を完了していた。

 ヘキサグラム・グランディア―――六芒星を象る無数の柱が、縦横上下問わず、ランダムで対象を攻撃してくる。
 いくら、不規則に攻撃を仕掛けてもリュウマにそれは通用しない。
 向こうもデタラメな速度で反撃をしてくるからだ。
 それを理解しながら、ジャスベンダーは敢えてこの魔法を使用した。
 攻撃目的ではなく、慙愧の動きを制限するのに選んだ悪手だ。

 奥へと伸びてゆく柱の一つに飛び乗った銃皇とギデオンの背中がチラリと見えた。
 作戦が成功したのを確認しながら、彼はリュウマに言葉を投げた。

「身体を治療できても経脈けいみゃくはボロボロだな。練功が使えないのによく私の前に出てこれたものだ」

「グフフフッ、笑止。戻る場所を失うかもしれない瀬戸際で誰が引き下がれようか」

「その割には、彼らをあっさりと通しましたね。わざとでしょう?」

「ワシに聞くな。それを求めるのはマナシの奴だ。あ奴が何をどう考えているのかワシにも読めん」

 ヘキサグラムの柱を飴細工ように、ブツ切りし終えたリュウマが、大きく間合いを詰めて斬りかかってきた。
 魔法で生成した土壁が剣豪の攻撃を阻害する為、幾重にもなり一つなる。

 そこから、放たれた残響音は、金属同士がぶつかり合い互いの肌に触れあった証だ。

「ぬぅぅ、貴様! 単なる、土属性使いの術師ではないな」

「まぁ、単体でもとことん魔法を突き詰めれば、オリジナルになるとでも……言っておきましょうか」

 土壁の外皮が欠け落ち中から紫水晶アメジストが顔をのぞかせていた。
 ジャスベンダーが操れるのは土だけでない、地中から鉱物を生成することができる。
 ここまで、一つの魔法を極められた者は、アルテシオンにおいてもごく稀である。

 大抵は成長限界というモノがあるのだが……この魔術師にはそれがない。
 限界を知らないからこそ、物の本質へと近づける。

 それは、東門に到達した彼らにも求められていた。

「武装練功! カイザーグラブ」

 門に着いて間もなく、銃皇は門の内からギッチリと詰まっている肉塊に苦戦していた。
 何度、殴ろうが、蹴ろうが、ゴムのような弾力性によって攻撃が通らず、表面すら破壊することができない。

「ダメだ、ビクともしねぇ――。どうすれば、この向こうへといけるんだ?」

「向こうでなく、この中だろう。離れていろ、ジャンクショット」

 神威モードの猟銃を構えながらギデオンは発砲してゆく。
 ある程度は予測していたが銃弾が表皮に着弾するなり、表部分の柔軟性により威力は相殺されてしまう。
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