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二百八十話
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「くそ、どこへ消えた。これでは、忍びである拙者の方が、良いように弄ばれてしまっているではないか」
オボロは即座に、ギデオンの気を追った。
追うとは、すなわち周囲に漂う相手の闘気を自分のものにあてがう行為だ。
一時的に体外へと放出し、直に触れさせることで流れや量を肌で感じ取れることができる。
感覚的には嗅覚で匂いを辿るのと同じ、対象に近づけば近づくほどに明確に濃くなってゆく。
「何だこれは! あ奴の闘気が、そこら中に舞っておる。なんという、出力と燃費の悪さなんだ……そんな状態でいればものの五分と身が待たんだろうて。むぅ、力つきて橋から落下したか……」
眼下の光景を眺めながら、オボロは静かに合掌した。
「勝手に弔うなよ。僕はここにいるぞ!」
「んぐぇ!!」
声に反応し振り返ろうとする、忍びの首に輪っか状になった糸が巻き付いた。
明らかに、自分のキラーストリングだと気づいたオボロがすぐに練功を解除した。
「ゲホッゲホッ、ガッァ―――――」
糸を外したはず、なのにキラーストリングは消滅することなく、オボロの首を圧迫し続けていた。
自体が飲み込めず、ギデオンの方に目をやった彼は、鬼気迫る形相していた。
金魚のように口をパクパクと動かし、口元からヨダレを垂らす。
ほつれた闘気の糸が、ギデオンのあしもとに束となって落ちていた。
「悪いが、お前に時間を割いてやるわけにはいかない!」
首を絞め付けられていたはずのギデオンだが、何事もなかったように毅然としていた。
首元をきつく締め上げていた糸は、すでにどこかへ消えていた。
キラーストリングは刃物程度では斬り裂くことができない。
強度は高く、一度糸が絡んでしまったら、どうやっても抜け出せない。
ならば、コチラ側から操ることはできないのか? ギデオンは機転を利かせ糸の先端を手でつかんだ。
そのまま気を送ると見事、自分の意志で操作することに成功した。
「まさに偶然の産物だったが、上手くいって良かったよ。それじゃな」
ギデオンが真下にある川へ向かって飛び降りた。
それと同時に、首の絞めつけはさらに強くキツクなってゆく。
オボロの身体が橋の脇まで引っ張られた。
踏ん張って堪えたが危うく真下に川へと落ちてしまうところだった。
しかし、それは彼にとって致命的なミスとなった。
無理に力の流れに逆らった、その首は支点であり、より付加がかかった。
バキンという、木の枝が折れたような生々しい音をたててオボロの首は通常では、あらぬ方向に曲がってしまった。
その身は祈るようにして座ったまま、橋の上で動かなくなってしまった。
「よっ……と」
糸の伝って落下移動するギデオンは、反動をつけて一気に東門正面へと飛び移った。
一万近くに膨れ上がった自軍が随分と遠くに見えていた。
ひっきりなしに銃声が聞こえているが……門左側に布陣していた敵の将は、取り敢えずは討ち取った。
将たる自分が不在であっても、エイルが指揮を取るなら、北軍にとっては救いの女神だ。
難なく左の橋を渡ってゆけるはずだ。
オボロが失ったことで西軍の士気は下がり切るだろう。
そう考えるギデオンは油断しきっていた。
一人、橋の真ん中に立って見た光景は、決して気分の良いものとは言えなかった。
脈打つ、肌色の塊が門全体をおおっていた。
門の周囲には、人影もなく誰もいない。
それどころか、銃撃の雨に打たれたはずなのに死体も肉片すらも、何ひとつ残ってはいない。
「生き物なのか……」
おそらく西軍の兵士たちは無傷のままだ。
この肉塊によって保護され、南の集中砲火に耐えきったのだ。
「ギデオン・グラッセよ。あれこそが西の総大将、マナシが四凶化した姿だ」
「アンタはジャスベンダーとかいったな……それと、王子様か」
兵を従えた南軍の主力が、後方からやってきた。
自分たちよりも先にギデオンが橋に到達したことは気にせず、険しい顔つきで終始、門の方を睨みつけている銃皇。
自分の誇る火力兵器がまったく通じない相手に、辛酸をなめされられた苛立ちを隠しきれていない。
「おい! 北の。俺たちは今から総攻撃を仕掛け正門を突破する。お前も、加われ!」
「加わるも何も、ここは敵陣のど真ん中だ。嫌でも戦うはめになるだろう」
「その通りです。私が路を作ります、その隙に二人は門を通過して下さい」
「問題は、その門を開くことが出来るかどうかだがな」
「フン、どうやらその心配はなさそうだ」
南軍が門を開ける前に、西軍側が東門を封鎖を解いた。
その様子を見ながら銃皇は、乾いた笑みを浮かべていた。
物々しい音を立てて開かれた門の中から、下駄を鳴らしながら飛び出してきたのは、倒したはずの剣豪だ。
「若、やはり出て来ましたね。リュウマか……奴は私が抑えます」
「ああ、期待しているぞ。お前が負けるところなど想像もできんがな」
迎え撃つはの帝国最高機関に所属していた男、エリート魔術師、ジャスベンダー・ステラである。
オボロは即座に、ギデオンの気を追った。
追うとは、すなわち周囲に漂う相手の闘気を自分のものにあてがう行為だ。
一時的に体外へと放出し、直に触れさせることで流れや量を肌で感じ取れることができる。
感覚的には嗅覚で匂いを辿るのと同じ、対象に近づけば近づくほどに明確に濃くなってゆく。
「何だこれは! あ奴の闘気が、そこら中に舞っておる。なんという、出力と燃費の悪さなんだ……そんな状態でいればものの五分と身が待たんだろうて。むぅ、力つきて橋から落下したか……」
眼下の光景を眺めながら、オボロは静かに合掌した。
「勝手に弔うなよ。僕はここにいるぞ!」
「んぐぇ!!」
声に反応し振り返ろうとする、忍びの首に輪っか状になった糸が巻き付いた。
明らかに、自分のキラーストリングだと気づいたオボロがすぐに練功を解除した。
「ゲホッゲホッ、ガッァ―――――」
糸を外したはず、なのにキラーストリングは消滅することなく、オボロの首を圧迫し続けていた。
自体が飲み込めず、ギデオンの方に目をやった彼は、鬼気迫る形相していた。
金魚のように口をパクパクと動かし、口元からヨダレを垂らす。
ほつれた闘気の糸が、ギデオンのあしもとに束となって落ちていた。
「悪いが、お前に時間を割いてやるわけにはいかない!」
首を絞め付けられていたはずのギデオンだが、何事もなかったように毅然としていた。
首元をきつく締め上げていた糸は、すでにどこかへ消えていた。
キラーストリングは刃物程度では斬り裂くことができない。
強度は高く、一度糸が絡んでしまったら、どうやっても抜け出せない。
ならば、コチラ側から操ることはできないのか? ギデオンは機転を利かせ糸の先端を手でつかんだ。
そのまま気を送ると見事、自分の意志で操作することに成功した。
「まさに偶然の産物だったが、上手くいって良かったよ。それじゃな」
ギデオンが真下にある川へ向かって飛び降りた。
それと同時に、首の絞めつけはさらに強くキツクなってゆく。
オボロの身体が橋の脇まで引っ張られた。
踏ん張って堪えたが危うく真下に川へと落ちてしまうところだった。
しかし、それは彼にとって致命的なミスとなった。
無理に力の流れに逆らった、その首は支点であり、より付加がかかった。
バキンという、木の枝が折れたような生々しい音をたててオボロの首は通常では、あらぬ方向に曲がってしまった。
その身は祈るようにして座ったまま、橋の上で動かなくなってしまった。
「よっ……と」
糸の伝って落下移動するギデオンは、反動をつけて一気に東門正面へと飛び移った。
一万近くに膨れ上がった自軍が随分と遠くに見えていた。
ひっきりなしに銃声が聞こえているが……門左側に布陣していた敵の将は、取り敢えずは討ち取った。
将たる自分が不在であっても、エイルが指揮を取るなら、北軍にとっては救いの女神だ。
難なく左の橋を渡ってゆけるはずだ。
オボロが失ったことで西軍の士気は下がり切るだろう。
そう考えるギデオンは油断しきっていた。
一人、橋の真ん中に立って見た光景は、決して気分の良いものとは言えなかった。
脈打つ、肌色の塊が門全体をおおっていた。
門の周囲には、人影もなく誰もいない。
それどころか、銃撃の雨に打たれたはずなのに死体も肉片すらも、何ひとつ残ってはいない。
「生き物なのか……」
おそらく西軍の兵士たちは無傷のままだ。
この肉塊によって保護され、南の集中砲火に耐えきったのだ。
「ギデオン・グラッセよ。あれこそが西の総大将、マナシが四凶化した姿だ」
「アンタはジャスベンダーとかいったな……それと、王子様か」
兵を従えた南軍の主力が、後方からやってきた。
自分たちよりも先にギデオンが橋に到達したことは気にせず、険しい顔つきで終始、門の方を睨みつけている銃皇。
自分の誇る火力兵器がまったく通じない相手に、辛酸をなめされられた苛立ちを隠しきれていない。
「おい! 北の。俺たちは今から総攻撃を仕掛け正門を突破する。お前も、加われ!」
「加わるも何も、ここは敵陣のど真ん中だ。嫌でも戦うはめになるだろう」
「その通りです。私が路を作ります、その隙に二人は門を通過して下さい」
「問題は、その門を開くことが出来るかどうかだがな」
「フン、どうやらその心配はなさそうだ」
南軍が門を開ける前に、西軍側が東門を封鎖を解いた。
その様子を見ながら銃皇は、乾いた笑みを浮かべていた。
物々しい音を立てて開かれた門の中から、下駄を鳴らしながら飛び出してきたのは、倒したはずの剣豪だ。
「若、やはり出て来ましたね。リュウマか……奴は私が抑えます」
「ああ、期待しているぞ。お前が負けるところなど想像もできんがな」
迎え撃つはの帝国最高機関に所属していた男、エリート魔術師、ジャスベンダー・ステラである。
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