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二百七十九話
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「彼の言う通りだ! ここで、立ち止まっていても事態は悪くなるだけだ!!」
他の仲間を励ますために、その場を収めていた男が率先して呼び掛けた。
力強い響きに、それまで下を向いていた者に、活力が戻ってきた。
再度、武器を手に取り胸を張る。満願の闘士ここにありといった風体が彼らの中に見える。
「さぁ、行きましょうぞ」
橋の方を指し示し、男はギデオンが乗った馬の鼻筋を撫でていた。
誰もが視線を橋の方へと移した一瞬だった。
甲高い金属音すると共に、男の手をからクナイが弾け飛び地面へと突き刺さった。
「よくぞ、見抜いたな。少年」
負傷した右手をさすりながら男が薄ら笑いを浮かべてみせる。
ギデオンは、片足を伸ばしたままの状態で彼を睨みつけて言った。
「そんなことだろうと思ったぞ。大将不在の状態でガリュウの名前を出したのは、失敗だったな。そもそも、共闘を持ち掛けたのは第二王子だからな」
「クククッ……調べが足りんかったか。なら、やむを得なし我こ「エイル! 南の兵に扮した奴らがいる、見分けることは可能か!?」
ヘルムを脱ぎ捨てた男は、自らの正体を明かそうとしていた。
しかしながら、ギデオンにとって彼は雑兵の一人にすぎない。
気にも留めず、通信機でエイルに連絡を取る。
その姿に放置された当人は、子供のように短髪の頭をくしゃくしゃに掻きながら、額に血管を浮き上がらせていた。
『該当データあり、歩行の音により判別が可能です。敵は西軍隠密部隊、足音を立てないように行動するのが特徴です』
「よし、ここに混じっている偽物の相手は頼むぞ。僕は先に橋へと向かう。可能性は低いがパンテノールが見つかるかもしれない」
『了解しました、残り十五秒ほどでそちらに到着します』
「我はオボロ!! 西軍隠密起動部隊の将であ――――る!!!」
「な、なんだよ……いきなり大声で」
まったく相手にされなかったのが、よほど屈辱だったのだろう。
オボロを名乗る男は、草の者でありながらも、自ら素性をさらけ出す失態をかましてしまった。
彼の突発的な暴走に、敵味方問わず皆が翻弄されていた。
特に隠密部隊の苦悩っぷりは尋常ではない。将自らが、敵であること宣言してしまった以上、彼の守りに入らないといけなくなった。
「邪魔だ!」 せっかく、防御を固めようと集まってきた部下を、容赦なく蹴散らしたのは、他の誰でもないオボロ自身だった。
彼は一度、火がつくと自制心のコントロールが利かないタイプの忍びだった。
将としても、隠密としても不完全な男だった。
基本、すべてが無茶苦茶である……にも関わらず、彼が将として抜擢されたのは、単純に他の追従を許さない強者だからである。
くわえて、何事も有言実行する漢でもあり、マナシから絶大な信頼を得ているからだ。
「ん? なんじゃああああ、ありゃ―――!? 馬鹿デカい黒飴が空から落ちてくるぞ! 全体、回避行動を取れ」
ズゴゴゴンンン!!! 大地が揺るがす振動と一緒に、クロオリがギデオンたち北軍の前に到着した。
中央部のハッチが空気圧音を吐き出しながらと開いてゆく。
その中から出てきた人影に南も西も全員、言葉を失っていた。
中から出てきた少女の動向が、どうしても気になってしまう。
そう言わんばかりに、一同の視線は釘付けになってしまっていた。
注目を浴びるエイルに、気まずさというデータは、現状インプットされていない。
脇目をふらず、クロオリから武装を取り出し両腕に装着してゆく。
「ガンナーモード起動。これより目標を捕捉し討伐にあたります」
「エイル、逃げる者は必要以上に追いかけるな。後は頼んだぞ!」
兵士たちを引き連れ移動を開始するギデオン。
だが、それよりも先にオボロが仕掛けてくる。
「逃がさん! 武装練功、キラーストリング」
糸上の闘気がギデオンの首元に絡まり、一気に締め上げようとする。
咄嗟に硬壁でガードするも、首に食い込んだ糸が、外れる気配はまったくない。
「一本釣りだぁああああ!!」
手元から伸びる糸をつかむとオボロが橋のたもとに向けてギデオンを投げ飛ばした。
脅威的な膂力で、馬から引きずり降ろされ、あれよという間に橋の上に転がり込む。
その反動を利用し糸を短くしたオボロが後を追ってくる。
「これで誰も邪魔は入らない。心ゆくま―――わああっと! 近距離から、ぶっ放すんじゃない。拙者でもかなんわん!!」
空かさず無情の銃撃がなり響く。
身体をくねらせながら、器用に回避行動をとるオボロであった。
ふと気づくと、つい今し方までいたギデオンの姿が橋の上から消えている。
急いで周囲を探ると、彼の糸は、橋下へと落ちていた。
他の仲間を励ますために、その場を収めていた男が率先して呼び掛けた。
力強い響きに、それまで下を向いていた者に、活力が戻ってきた。
再度、武器を手に取り胸を張る。満願の闘士ここにありといった風体が彼らの中に見える。
「さぁ、行きましょうぞ」
橋の方を指し示し、男はギデオンが乗った馬の鼻筋を撫でていた。
誰もが視線を橋の方へと移した一瞬だった。
甲高い金属音すると共に、男の手をからクナイが弾け飛び地面へと突き刺さった。
「よくぞ、見抜いたな。少年」
負傷した右手をさすりながら男が薄ら笑いを浮かべてみせる。
ギデオンは、片足を伸ばしたままの状態で彼を睨みつけて言った。
「そんなことだろうと思ったぞ。大将不在の状態でガリュウの名前を出したのは、失敗だったな。そもそも、共闘を持ち掛けたのは第二王子だからな」
「クククッ……調べが足りんかったか。なら、やむを得なし我こ「エイル! 南の兵に扮した奴らがいる、見分けることは可能か!?」
ヘルムを脱ぎ捨てた男は、自らの正体を明かそうとしていた。
しかしながら、ギデオンにとって彼は雑兵の一人にすぎない。
気にも留めず、通信機でエイルに連絡を取る。
その姿に放置された当人は、子供のように短髪の頭をくしゃくしゃに掻きながら、額に血管を浮き上がらせていた。
『該当データあり、歩行の音により判別が可能です。敵は西軍隠密部隊、足音を立てないように行動するのが特徴です』
「よし、ここに混じっている偽物の相手は頼むぞ。僕は先に橋へと向かう。可能性は低いがパンテノールが見つかるかもしれない」
『了解しました、残り十五秒ほどでそちらに到着します』
「我はオボロ!! 西軍隠密起動部隊の将であ――――る!!!」
「な、なんだよ……いきなり大声で」
まったく相手にされなかったのが、よほど屈辱だったのだろう。
オボロを名乗る男は、草の者でありながらも、自ら素性をさらけ出す失態をかましてしまった。
彼の突発的な暴走に、敵味方問わず皆が翻弄されていた。
特に隠密部隊の苦悩っぷりは尋常ではない。将自らが、敵であること宣言してしまった以上、彼の守りに入らないといけなくなった。
「邪魔だ!」 せっかく、防御を固めようと集まってきた部下を、容赦なく蹴散らしたのは、他の誰でもないオボロ自身だった。
彼は一度、火がつくと自制心のコントロールが利かないタイプの忍びだった。
将としても、隠密としても不完全な男だった。
基本、すべてが無茶苦茶である……にも関わらず、彼が将として抜擢されたのは、単純に他の追従を許さない強者だからである。
くわえて、何事も有言実行する漢でもあり、マナシから絶大な信頼を得ているからだ。
「ん? なんじゃああああ、ありゃ―――!? 馬鹿デカい黒飴が空から落ちてくるぞ! 全体、回避行動を取れ」
ズゴゴゴンンン!!! 大地が揺るがす振動と一緒に、クロオリがギデオンたち北軍の前に到着した。
中央部のハッチが空気圧音を吐き出しながらと開いてゆく。
その中から出てきた人影に南も西も全員、言葉を失っていた。
中から出てきた少女の動向が、どうしても気になってしまう。
そう言わんばかりに、一同の視線は釘付けになってしまっていた。
注目を浴びるエイルに、気まずさというデータは、現状インプットされていない。
脇目をふらず、クロオリから武装を取り出し両腕に装着してゆく。
「ガンナーモード起動。これより目標を捕捉し討伐にあたります」
「エイル、逃げる者は必要以上に追いかけるな。後は頼んだぞ!」
兵士たちを引き連れ移動を開始するギデオン。
だが、それよりも先にオボロが仕掛けてくる。
「逃がさん! 武装練功、キラーストリング」
糸上の闘気がギデオンの首元に絡まり、一気に締め上げようとする。
咄嗟に硬壁でガードするも、首に食い込んだ糸が、外れる気配はまったくない。
「一本釣りだぁああああ!!」
手元から伸びる糸をつかむとオボロが橋のたもとに向けてギデオンを投げ飛ばした。
脅威的な膂力で、馬から引きずり降ろされ、あれよという間に橋の上に転がり込む。
その反動を利用し糸を短くしたオボロが後を追ってくる。
「これで誰も邪魔は入らない。心ゆくま―――わああっと! 近距離から、ぶっ放すんじゃない。拙者でもかなんわん!!」
空かさず無情の銃撃がなり響く。
身体をくねらせながら、器用に回避行動をとるオボロであった。
ふと気づくと、つい今し方までいたギデオンの姿が橋の上から消えている。
急いで周囲を探ると、彼の糸は、橋下へと落ちていた。
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