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二百七十八話
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本隊を囮とし右翼、左翼が同時に進軍を始める。
黒仮面ことパスバインの隊は勢いに乗って出来たばかりの橋へと登ってゆく。
次から次へと、大門を突破しようとやってくる南の兵士に対し、西軍もただただ気圧されているわけではない。
パスバイン隊を迎え撃つために門の内側から梯子をかけ、橋の反対側から全力疾走してきた。
門の右側は、早くも交戦状態となっていた。
その最中、銃皇隊の歩兵とジャスベンダー隊の法術師たちは、共同で消火活動にあたっていた。
依然として、東門正面口は燃え盛る炎によって通行不能になっていた。
着実に消化はできているも火の回りは、それ以上の速度で拡がっている。
部隊の中心で指揮をとる銃皇にも焦りの色が見えてきた。
戦場を移動するギデオンたちからも彼の怒声がはっきりと聞き取れた。
「ギデ、間もなく目標地点です」
先陣を切って走行するエイルの知らせとともに合戦の音が鳴り響いてきた。
そこは門左に位置するパンテノール部隊がいた場所だ。
ギデオンは常に、戦況を観察しながら戦況がどのように動くのか? 熟考していた。
無論、武将としても、軍師としても経験は皆無。
素人同然だが、ワイルドハンターであるおかげで勘だけは異様に鋭い。
南軍がどうやって都に攻め入るのかは分からない。
西が門の向こうで、どれほどの兵力を集結させているのかも定かではない。
それでも、天性の嗅覚は勝利の予感も嗅ぎ取る。
戦場全体を一望して場の揺らぎを見つける。発見したら、即座にその場所へと駆けつける。
あくまで怪しい動きだけを察しワンテンポ早い状態で部隊を動かしていた。
特に怪しいのは、橋の前に放たれた火矢だった。
炎で敵軍の様子が見えなくなるのは西も同じ、本当に時間稼ぎしかメリットはない。
その上、敵の進路上だけではなく、広範囲に渡って火矢を放ち続けていた。
西の狙いが何なのか、ギデオンにはすぐに分かった。
だからこそ、真っ先に対処しなければならない相手を止めるために、わざわざ自軍を二手に分けた。
「早速、お出ましのようだな」
騎馬を加速させギデオンは、さらに川岸奥へとむかう。
橋の前では、すでにパンテノール隊が敵部隊の伏兵に包囲されていた。
西の連中がどこからきたのか、そのずぶ濡れた忍装束をみれば誰でも気づく。
この兵士たちは都から川を渡って南軍の傍まで忍びよってきた。
思いがけない、敵襲に部隊としての連携が上手く取れず左側は、苦戦を強いられていた。
肝心のパンテノールの姿がどこにも見えない。
彼らの様子を見て駆けつけたギデオンは、パンテノールが不測の事態に陥っていると悟った。
「エイル、伏兵どもを追い払ってくれ! 僕たちは、そこにいる兵たちを拾う」
「はい。では、状況がクリアになり次第、再度合流します」
特大サイズの鉄球クロオリが西の兵らを狙い、猛スピードで転がってくる。
「罠だ! ガリュウのやつら、得体の知れない罠を持って持っているぞぉお!!」
戦場を縦横無尽に走りながら自分たちを押し潰そうする異質な塊に当然、敵方は混乱していた。
蜘蛛の子を散らすように走り出しながら、草の者たちは次々に川へと飛び込んでゆく。
「上手くいったようだな……大丈夫か?」
「お、お前は! 北の―――」
声をかけた途端、パンテノールの部下が騎乗したままのギデオンに剣を向けてきた。
昨日のことで南の者たちの心象は最悪になってしまったらしい。
あきらかに敵意を向けてきている。
「ヤメロ! 今はそんなことをしている場合じゃないだろう」
しばらく、そのままでいると別の兵士が仲間をなだめるためにやってきた。
「我々は今、北と共闘中だ。剣をおさめろ! お前はガリュウ様に恥をかかせるつもりか?」
「くっ……こんな奴らに頼らないといけないなんて!」
憤りを込めて兵士は剣を地面に突き立てた。
感情で動くことは、決して悪いことではないと、ギデオンは今まで信じて疑わなかった。
しかし、それは諸刃の剣である。
周囲に間違いを正してくれる人物がいなければ、判断を見誤る可能性が高い。
この男は幸運だとギデオンは思った。
その先にある闇に堕ちてしまったら二度と元の場所には戻れない。
彼は、そのことを知っていた。
「ダル……パンテノール殿は何処にいった?」
「それが、西の奴らによって川に引きずり落されてしまい―――」
自分たちの将を見失った、兵士たちの表情に陰りが見えた。
先が見えないことへの不安と自身が置かれた過酷な現実に、彼らの心はすっかり折れてしまっていた。
一度戦意を失えば、兵として再帰するには時間が要る。
「うつむく暇はないぞ! 生きて故郷に帰りたいのなら、死に物狂いで僕についてこい!!」
荒療治であるが、再度、戦う意味を思い出される。
人が持つ生への執着心は、この程度で砕けてしまうほど脆くはない。
特に戦地に立つ彼らは、こんな所では終われないと強く実感しているはずだ。
ギデオンはソコに賭けることにした。
黒仮面ことパスバインの隊は勢いに乗って出来たばかりの橋へと登ってゆく。
次から次へと、大門を突破しようとやってくる南の兵士に対し、西軍もただただ気圧されているわけではない。
パスバイン隊を迎え撃つために門の内側から梯子をかけ、橋の反対側から全力疾走してきた。
門の右側は、早くも交戦状態となっていた。
その最中、銃皇隊の歩兵とジャスベンダー隊の法術師たちは、共同で消火活動にあたっていた。
依然として、東門正面口は燃え盛る炎によって通行不能になっていた。
着実に消化はできているも火の回りは、それ以上の速度で拡がっている。
部隊の中心で指揮をとる銃皇にも焦りの色が見えてきた。
戦場を移動するギデオンたちからも彼の怒声がはっきりと聞き取れた。
「ギデ、間もなく目標地点です」
先陣を切って走行するエイルの知らせとともに合戦の音が鳴り響いてきた。
そこは門左に位置するパンテノール部隊がいた場所だ。
ギデオンは常に、戦況を観察しながら戦況がどのように動くのか? 熟考していた。
無論、武将としても、軍師としても経験は皆無。
素人同然だが、ワイルドハンターであるおかげで勘だけは異様に鋭い。
南軍がどうやって都に攻め入るのかは分からない。
西が門の向こうで、どれほどの兵力を集結させているのかも定かではない。
それでも、天性の嗅覚は勝利の予感も嗅ぎ取る。
戦場全体を一望して場の揺らぎを見つける。発見したら、即座にその場所へと駆けつける。
あくまで怪しい動きだけを察しワンテンポ早い状態で部隊を動かしていた。
特に怪しいのは、橋の前に放たれた火矢だった。
炎で敵軍の様子が見えなくなるのは西も同じ、本当に時間稼ぎしかメリットはない。
その上、敵の進路上だけではなく、広範囲に渡って火矢を放ち続けていた。
西の狙いが何なのか、ギデオンにはすぐに分かった。
だからこそ、真っ先に対処しなければならない相手を止めるために、わざわざ自軍を二手に分けた。
「早速、お出ましのようだな」
騎馬を加速させギデオンは、さらに川岸奥へとむかう。
橋の前では、すでにパンテノール隊が敵部隊の伏兵に包囲されていた。
西の連中がどこからきたのか、そのずぶ濡れた忍装束をみれば誰でも気づく。
この兵士たちは都から川を渡って南軍の傍まで忍びよってきた。
思いがけない、敵襲に部隊としての連携が上手く取れず左側は、苦戦を強いられていた。
肝心のパンテノールの姿がどこにも見えない。
彼らの様子を見て駆けつけたギデオンは、パンテノールが不測の事態に陥っていると悟った。
「エイル、伏兵どもを追い払ってくれ! 僕たちは、そこにいる兵たちを拾う」
「はい。では、状況がクリアになり次第、再度合流します」
特大サイズの鉄球クロオリが西の兵らを狙い、猛スピードで転がってくる。
「罠だ! ガリュウのやつら、得体の知れない罠を持って持っているぞぉお!!」
戦場を縦横無尽に走りながら自分たちを押し潰そうする異質な塊に当然、敵方は混乱していた。
蜘蛛の子を散らすように走り出しながら、草の者たちは次々に川へと飛び込んでゆく。
「上手くいったようだな……大丈夫か?」
「お、お前は! 北の―――」
声をかけた途端、パンテノールの部下が騎乗したままのギデオンに剣を向けてきた。
昨日のことで南の者たちの心象は最悪になってしまったらしい。
あきらかに敵意を向けてきている。
「ヤメロ! 今はそんなことをしている場合じゃないだろう」
しばらく、そのままでいると別の兵士が仲間をなだめるためにやってきた。
「我々は今、北と共闘中だ。剣をおさめろ! お前はガリュウ様に恥をかかせるつもりか?」
「くっ……こんな奴らに頼らないといけないなんて!」
憤りを込めて兵士は剣を地面に突き立てた。
感情で動くことは、決して悪いことではないと、ギデオンは今まで信じて疑わなかった。
しかし、それは諸刃の剣である。
周囲に間違いを正してくれる人物がいなければ、判断を見誤る可能性が高い。
この男は幸運だとギデオンは思った。
その先にある闇に堕ちてしまったら二度と元の場所には戻れない。
彼は、そのことを知っていた。
「ダル……パンテノール殿は何処にいった?」
「それが、西の奴らによって川に引きずり落されてしまい―――」
自分たちの将を見失った、兵士たちの表情に陰りが見えた。
先が見えないことへの不安と自身が置かれた過酷な現実に、彼らの心はすっかり折れてしまっていた。
一度戦意を失えば、兵として再帰するには時間が要る。
「うつむく暇はないぞ! 生きて故郷に帰りたいのなら、死に物狂いで僕についてこい!!」
荒療治であるが、再度、戦う意味を思い出される。
人が持つ生への執着心は、この程度で砕けてしまうほど脆くはない。
特に戦地に立つ彼らは、こんな所では終われないと強く実感しているはずだ。
ギデオンはソコに賭けることにした。
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