異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
267 / 362

二百六十七話

しおりを挟む
「元気そうだな、安心したよ。すまない……僕のいざこざに君を巻き込んでしまった。詳しくは話せないが、カナッペを二度も危険にさらしてしまった。もっと不足の事態に備えていれば、こうはならなかったはずだ」

「ギデ君」カナッペの人差し指がギデオンの鼻頭にチョコンと触れた。
 少し驚き瞬きをする彼に、変わらない微笑みを向けている。

「君の悪いところは、そうやって何でも一人で抱え込んじゃうところだよ。少なくとも私が、今ここにいるのはギデ君のせいではないの。君と同じで私だって、誰かに話せない事情があるから……謝らないで。誰かが悪いとかではなく、これは私個人の問題。まぁ、連れ去らわれるのは……もう、勘弁してほしいけど」

 カナッペの口にした事情。
 その一言が何を含んでいるのか? ギデオンも、おおよそ勘づいてはいた。
 だからこそ、次の言葉を持ち出すのに、かなりの迷いが生じていた。
 それでも、この言葉を伝えなければならない……その為に彼は、公国の西側までやってきたのだ。

「僕と一緒に皆のところに帰ろう、カナッペ」

 二胡にこを抱え持つ、彼女の指先がギュっと力んだ。
 カナッペにとってそれは、一番聞きたかった言葉だった。
 けれど、今は一番、心苦しい言葉に様変わりしてしまった。

 これから先も、として共和国で暮らしたかった。
 勇士学校で、大切な友人もできたというのに、過去はいつまでも彼女自身を追いかけてくる。
 公国に連れ戻されてしまった時点で、どうにもできない盤上に立たされてしまった。
 いくら、ギデが助けに来てくれたとしても、首を縦に振ることは許されない。

「皆は話してないけど、私ね……この国の大王の娘なの。おかしいよね、こんな地味な私がお姫様だなんて……そんなの無理よ、私には不釣り合いよ。妾の子だから要らないって、一度は国から追いやったくせに。今度は必要になったから、また戻ってこいですって……」

 その声はか細く、唇は震えていた。
 今までカナッペ自身が押さえつけていた心のタガが外れた。
 親しき者に知らたくない出生の秘密……運命に翻弄ほんろうされて生きてゆくことの不安と恐怖。
 誰にも言えなかった、それをギデオンにうち明かしたのは、彼が自分に近しい境遇の持ち主だからだ。

「ギデ君も王位継承権を持っているんでしょう?」

「ああ、でも……僕は」

「あたらめて、自己紹介するわ。私の名はフキ=セドラ=ドルゲニア。ドルゲニア、第一王女にして西の主、マナシの支持を受ける者。私は、西域を護るために王位継承戦に参加します!」

 王女としての生き方を選ぶ……それがカナッペの出した答えだった。
 彼女の境遇を聞く限り、誰がどう見ても、お飾りの王でしかない。
 他に名乗り出せる人間がいなかったから、適当にあてがっただけの話。
 聡明なカナッペならそこに気づかないわけがない……。
 事実を知っていてもなお、それを手に取る。
 そうまでしても護りたい何かが、この地にあるのだろう。
 リュウマ然り、西域の都は民に愛されている場所なのだと感じる。

「それが君の本心か?」

「ええっ」

「後悔はないんだな……」

「勿論よ、ここには私にしかできないことがある。皆、必死なの……明日を生き残るためにね」

「一つだけ訊きたい。どうして、この国は地域ごとで争おうとするんだ?」

「それを、説明するためにトクシャカ様が―――って! ギデ君!!」

 バランスを崩し屋根の上から滑り落ちるギデオン。
 その身は、すでに限界を迎えつつあった。
 リュウマに刺された傷が悪化し、ついに意識を失ってしまった。
 屋根から転落しそうになる彼の身体を、フキ姫がかぶさるように抱き留めた。
 二人の身体は落下する手前で辛うじて静止した。

「カナデ! そこにいるの?」

「はい……って! 姫様ぁあああ――――!! どどど、どうして屋根の上なんかにいるんですかぁ――!?」

「驚くのは後にして、助けを呼んできて。あと、トクシャカ様も起こしてちょうだい」

「わ、分かりました」

 軒下から現れた侍女に命を下すと、すぐに人が集まって来た。
 ギデオンは屋根の上から下ろされると、すぐに奥の院まで運ばれることとなった。

「彼の容態は?」

「まだ、息はありますが酷い熱です。姫様、この方が……」

「そうよ、トクシャカ様のお客人よ。大丈夫よ、カナデ。あの方の治癒術ならすぐに元気なるから、ね?」

 西の蓬莱渠、そのすぐ隣に御美束おみつかと呼ばれる小さな山がある。
 その頂には、神が住まうとされる扶桑院ふそういんが建てられていた。
 神の名はトクシャカ。
 大地に豊穣の恵みを与え、冥道を開くと云われている女神は、人々から厚い信仰を受け崇拝されるも、類まれないイケメン好きとしても有名だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

聖獣達に愛された子

颯希
ファンタジー
ある日、漆黒の森の前に子供が捨てられた。 普通の森ならばその子供は死ぬがその森は普通ではなかった。その森は..... 捨て子の生き様を描いています!! 興味を持った人はぜひ読んで見て下さい!!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...