異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百六十五話

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 足元が覚束ないまま、リュウマは低くうなっていた。
 神酒を体内に直で取り込んだのだ。
 いかなる酒豪も、まともに立てないほどの強い酔いに溺れている。

「どうする剣豪? もう、まともに動けやしないだろう。ここで、潔く敗北を認めるか?」

「だぁ、黙れ! 味な……真似をしおって! ワシを見くびるなよ」

 ギデオンに挑発されたリュウマは暴挙に出た。
 ランドルフによってつけられた傷口に指先を突っ込み、かきむしるようにして穴を広げてみせた。
 飛び散る鮮血により、酒気が全身に行き渡る前に流し出そうという魂胆だ。
 勝利への執着心が、彼を狂人へとかり立てている。
 斬鬼が自身の敗北を宣言することなど期待するだけ無駄だ。

「いい加減に刀を放せ……」

 ギデオンの右肩を蹴り飛ばし、リュウマは強引に妖刀を取り返す。
 刃は完全に身体を貫通していた……にも関わらずギデオンはすぐに立ち上がってきた。
 苦痛に顔を歪ませることもなく平然としている。
 到底、真っ当とは言えないギデオンの状態に、リュウマはさらなる危機感を覚えた。
 こうした手合いが、手強いのだと剣士して熟知しているからだ。

「平気なのか? ギデ」

「身体に穴ができたが、硬壁で急所は保護したから大丈夫だ」

 脇腹を血で染めたギデオンは余裕を持って微笑するも、実際は軽傷ではなかった。
 極度の興奮状態が続く中、彼の尋常ではない集中力が合わさり、脳が痛み取り払ってしまうほど身体の感覚が痺れていた。
 今は練功で無意識に止血しているものの、いつ倒れてもおかしくはない。
 このまま戦いが長引けば、命を危険にさらすことになる。
 皮肉にも、当人はそのことにまったく気づいていない。
 周りの変化には敏感でも、自分の方へと意識が向かないのは欠点とも言える。

「まったく……お前と言うヤツは、恐ろしいほどに器用なことをする」

「蜜酒を剣先に付着させたまま攻撃できる奴の言うことじゃないな……あれこそ、反則技だ」

「たまたま、攻撃できる条件が揃っただけさ……もう、あの男には通用しないぞ、どうする?」

 抜き身の刃を頭上にかかげるリュウマが次の大技の構えに入っていた。
 時間が残されていないのは、向こうも同じ。この一撃で戦いを終わらせるつもりだ。

「どうするって決まっているだろう」
 ギデオンがランドルフに一瞥いちべつを投げる。

「奇遇だな、私も同じ考えだ」
 呼応しながら、ランドルフは両手に刃を握り締める。


「「あとは、全力でぶち抜くのみ!!」」

 想いを重ね、意識を一つにし同時に切り込む。
 今の二人に言葉は無用、互いの視線の動きだけで己が何をどうすべきか? 最適解を導きだす。
 ギデオンの戦術にランドルフの機転、双方の特性が合わされば、公国最強の一角に匹敵する。
 そう信じて全力を叩き込む。

「その意気や良し!! だが、剣の重みはワシの方が遥かに上回る! オマエたちのそれでは、越えられぬ壁があると知れ。秘奥義、天下五剣の太刀」

 究極の一刀は五つの剣閃に変わる。
 星型のペンタクルを描くように切り刻まれる連撃が、ギデオンたちの命を狩り取ろうとする。
 紙一重の攻防……双方の間にて剣戟が空を割く。
 決して、後には引けない。わずかでも、迷いが生じれば刹那に斬り捨てられる。
 お互い相手をねじ伏せるためには、寸分たぐわぬ一手で討ちあい手数を減らしてゆく。
 その上で、刃を残した方が勝者となる。

「童子切……」初手の刃をレイピアが激しく穿つ。

「大典太」スコルが吐き出す火炎を斬撃で吹き飛ばす。

「数珠丸!」カトラスがその一撃に耐える。

「鬼丸」二つの天属性が交わり風が吹き荒れる。

「一太刀だけ足りなかったようだな……三日月」

 弧の一刀が、ギデオンの身におおい被さってくる。
 ここまで、すべての斬撃を防ぎきった。
 しかし、残り一刀が足りず手の打ちようがない。

 このままでは、剣も満足に振るえない右腕を頼ることとなる。
 力が入りきらない以上、この腕では耐えしのぐのも困難だ。
 失敗すれば、すべて水泡に帰す。

「言っただろう! ぶち抜くと!!」

 斬鬼の妖刀が地面に突き刺さった。
 突然のことに、リュウマは絶句したまま立ち尽くしていた。
 相手側の最後の一刀が、まさか自身の中から出てくるなどと誰が予想できようか……。
 突如として、身体から出現した白い山犬が彼の腕に噛みつき刀を奪い取った。

「切り札は土壇場で使え」という、かつての友の忠告を思い出し含み笑いをする。

 剣を持たない以上、武装練功するしかない。
 しかし、時は無情だ……迷いが生じ動きを止めたリュウマには、すべてが遅すぎた。
 若き剣士たちの一閃が交差し、その身に十字を刻みつけた。
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