異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百六十三話

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 業火の一刀を振り下ろした直後、ギデオンが叫んだ。

「仕損じた……ランドルフ! 上だ!!」

 燃えたのはリュウマの編み笠のみ……利き手での袈裟ではなかったがゆえに生じた、わずかな遅れ。
 羅刹と呼ばれた漢が、それを見逃すわけがない。
 刃の切っ先でギデオンの剣閃をそらすと、跳躍し彼らの頭上を越えようしていた。

「逃がすか!」空かさず、ランドルフのレイピアが突き上げてくる。
 その先には両腕を広げМ字開脚するリュウマの姿があった。
 奴僕どぼくを体現する動きは、高貴な生まれの二人に向けたリュウマなりの嫌味でもあった。
 片や騎士、片や王位継承権を持つ者。
 全盲であるが為に、人の動きでその者の成り立ちを知ってしまう。
 当然、ギデオンたちがそれに気づくことはない。

 髪の一本に宿る気の流れを感じ取ることができる豪鬼に死角などない。
 いくら高速連撃を放とうが所詮、一本の枝葉にすぎない。
 すべてさばき通す自信がある。

「浮雲」下駄の歯から小太刀の練功が伸び、ランドルフの剣を受け止めた。
 したり顔で下方の青年を見下ろすと、すぐさま千の刃を突きつけた。

「千手山嵐ィィィ!」素手ではなく蹴りによる刺突、下駄にぶら下がる小太刀がランドルフを襲う。

「あの時の再現でもするつもりか……いいだろう! 貴様は千で百を超えた……なら、私は百で千を超えてみせる」

 ランドルフが極限の無呼吸の構えに入った。
 アネアリミットブレイクは彼が持つ天性のベースアビリティ、神速の糧から生み出された奥義だ。
 呼吸を止めれば、わずかな時間のみ時の超越者となる。
 その間、1秒半。
 体感時間で150秒を圧縮した一撃が百の牙となる。

「秘剣、蛟偃月ミズチエンゲツ!!」

 以前とは違う、そう言わんばかりに青年の眼光は鋭さを増していた。
 水の闘気が、身体を伝ってレイピアと重なる。
 練功により、奥義は更なる高みへと至った。千を超えるのは百の折れない刃だ。
 所詮、一本なら数など問題ではない。
 千を相殺する一撃を撃ち込むだけだ。

 封じの剣と仕留めの剣が再度、激突する。
 火花を散らした剣戟が苛烈に舞う。斬り裂く風が、両者を包み鮮血が霧となる。
 それでも剣士たちは手を止めない。
 己が信念を貫こうとする意思が、彼らをどこまでも突き動かしてゆく。

「ハァ……ハァ……まさか、互角の勝負とはな」

「よくぞ、凌いだ。かすり傷でもワシに傷を負わせるとはな……やはり、生かした甲斐があったぞ」

「ああ、貴様に敗北したおかげで急成長したよ」

「成長? そうではなかろう。ランドルフとか言ったな、それはオマエが持って生まれた資質というモノ。今まで自身を過小評価し続けてきたオマエがふたをした実力だ。ワシは、その外し方を教えたにすぎん。死線を越えた以上、刃を交えることに迷いは無かろう」

「まるで、師のような口ぶりだな。悪いが私に練功を授けて下さったのは大元先生だ。断じて貴様などではない」

「誰が師であろうが些末さまつなことよ。ワシがオマエに感謝しているのは、そこの奴に引き合わせてくれたことだ」

 リュウマが視線を向けたのは、ギデオンだった。
 年齢にそぐわないほどの剣技は、完全に我流……。
 剣豪であれば欲するのは、さらに優れた剣術というもの。
 卓越した技巧を生みだす才能は個人によって限度差がある。
 一を知るは全であり、全を知るには一を学ばないといけない。
 世代の流れとともに剣のカタチは変わってゆく。
 ギデオンの持つ、それはリュウマにはまったくもって無いものだった。
 不規則すぎる剣でありながらも、独特のリズムを持っている。
 ただ闇雲に剣を振るっているのならば、ここまでのやり辛さを感じることはない。

「童、名を聞こう」

「ギデ……いや、ギデオン・グラッセだ」

「フッ……本名をさらすか。よほど、ワシを仕留めたいようだな。オマエと剣を交えて分かったのは、オマエに動きは剣技ではない! 剣そのものだ、全身を刃として放つ一撃は脅威でしかない。今まで、存在しなかった技巧なのも頷けるぞ。誰一人として真似することができない妙技だからな」

「さすがに剣聖レベルのアンタにはバレるか……僕も剣豪リュウマの強さの秘密が分かったよ。その剣は攻めではなく守りの剣だ。後の先を徹底昇華した攻守両立型の剣技だ。だから、僕たちの太刀を容易く回避できる……どこに攻撃を仕掛ければ、相手の動きを阻害できるのか? 相手の安地がどこにあり、どう逃げてゆくのか? すべて予測し、先読みしている。怪物とは、アンタのことだ」

 ギデオンの回答に額に手を当てながら、リュウマは天を仰ぐ。

「素晴らしい、素晴らしいぞ! ギデオン・グラッセ!! 間違いなくオマエは次代の剣聖となる者だ」 
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