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二百六十二話
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「ランドルフ、受け取れ」
ギデオンが蜜酒の入った小瓶を手渡した。
僅かしか入っていないが、着つけ薬には充分な量である。
一口煽ると手の甲で唇を拭いながら、ランドルフは鞘からレイビアを引き抜いた。
「無駄な口上は無粋というわけか、それもまた剣の真なり! 刃のみが己がすべてをさらけ出す……刮目せよ! 極天無抜刀・残花」
シュッと水平を描く蒼の一閃は、千子刃の刃文を身に宿していた。
神刀、邪刀あれど、使い手次第では魂を得るとも言われている。
リュウマが手にする一振りは、明らかに現世の理を絶つ異質な存在感を放つ。
肉を斬り、骨を削ぎ、血を啜る……悪鬼の化身。
それが妖刀というものだ。
使い手の精神を蝕みながらも魅了し、他者の生命を吸い続け何よりも美しく咲き誇る。
繊細なる美と恍惚感に満ちる輝きが、至宝とも呼べる。
「くかかぁかっ! コヤツめ、若い男の生き血が欲しゅうて、たぎっておるわ」
「同属性の練功だと、極天蒼炎鸞!」
「水滸鏡月ノ舞……奴に一撃でも出さないように行くぞ! 私に合わせてくれ、ギデ!!」
両腕から肩と背中にかけて、螺旋に絡みつく水闘気をまといながら、ランドルフが先陣を切った。
地に吸い付くように姿勢を傾け、リュウマへと真っすぐに飛び込む。
「ピアッシングウェイブ!」
レイピアの刃先から撃ち込まれる水の刺突が変幻自在にうねりながら、リュウマの肩口を狙う。
一発だけには留まらず、連射されるピアッシングが蜿蜒と飛びかいながら、退路を塞いでゆく。
刺突を物ともせず弾きながら剣豪は口元を二カッと緩める。
「ほぅ、少しは考えたようだな。力量の差がある相手に先手を取ろうと小細工を仕掛ければ、以前のように返り討ち似合う。ならば、真っ先に仕掛けて動きを封じる……シンプルだが、それゆえ地力があるとも言える」
「おしゃべりしていて大丈夫なのか? お前の相手は、私だけではなかろうに!!」
ランドルフの影からギデオンが躍り出る。
左手に武装練功した剣を握りしめ、大きく振りかぶろうとしていた。
自身の妖刀を縦に構え剣戟に備えるリュウマ。
しかし、ギデオンの繰り出した次の一撃は彼の度肝を抜いた。
「うおっ、あの態勢からの後ろ回し蹴りだと……!? この童、どういう身体能力をしている?」
「だから言っただろう。大丈夫かって! スラッシュプライヤー」
上半身をそらして、スレスレで蹴りを回避した所に、水玉に覆われたカトラスが迫ってきた。
いくら、斬鬼のリュウマであっても立て続けに攻められれば、しのぎ切れなくなる。
「今だ! 一気に畳み掛けるぞ」
「笑止、避けられぬのなら、絶てばいい事! ぬん!!」
極天の闘気を鞘代わりにした神速抜刀が炸裂した。
ギデオンとランドルフの合間を割り裂くように飛行した斬撃が背後にある岩壁を真っ二つに裂く。
二人の闘気も一瞬にして、剣圧で散らされてゆく。
重厚な一撃とは、まさにこのことである……。
「ランドルフ、怯むな! すぐに追撃がくるぞ」
「……陽炎の太刀」突きの型に構えられた長刀が、押し出される。
点であるはずの攻撃は、風圧の杭となり二人の身を貫こうとする。
「チッィィィィィ! 水鏡よ、我らを護る盾となれ」
ランドルフの闘気により生成された、水の大盾が瞬く間に破壊されてしまった。
反射的にでも防御に転じたおかげで、陽炎の太刀の直撃をまぬがれることができた。
「それ、どうした!? この程度で終わるのではなかろう?」
煽り口調の剣豪が、第二、第三の斬撃を生み出す。
防戦が続く中で、頼りになるのはランドルフの水盾のみだ。
しかしながら、リュウマの一撃を喰いとめるだけで至難の業だ。
ランドルフの気力、体力がじわじわと消耗してゆく。
「このままだと……奴に主導権を握られてしまう!」
ここに来て、ギデオンが捨て身の策を講じた。
幸い、ランドルフが中近距離まで相手に接近してくれた為、好機を見出すことが可能であった。
「孔壁鳳突牙―――!!」
目には目を、極天の突撃には天の返し刃を……
剣戟を放つ速度なら、ほぼ同程度だ。あとは、足りない技量を気力で補うしかない。
「うらららあああぁぁ――――!! これ以上は好き勝手させるかぁ――」
ガシィッ―――ン!!! と闘気と金属の刃が共鳴する。
大技の競り合いの末、ついにギデオンはリュウマの喉元にまで距離を縮めることに成功した。
「ワシの弱点を見事についたというわけか……。むぅ……確かに、これは身動きするのに不憫だ。悪いが退いてもらうぞ!」
「させるかよ! 蒼炎魔晄剣」
刹那に燃え盛る練功の剣、気の流れに沿わせるように魔力を注入すると威力が格段に上昇する。
反面、負荷が大きい分……使えて数秒、一撃分の余裕しかない。
渾身の斬撃が悪鬼の身を大火で焼き尽くす。
ギデオンが蜜酒の入った小瓶を手渡した。
僅かしか入っていないが、着つけ薬には充分な量である。
一口煽ると手の甲で唇を拭いながら、ランドルフは鞘からレイビアを引き抜いた。
「無駄な口上は無粋というわけか、それもまた剣の真なり! 刃のみが己がすべてをさらけ出す……刮目せよ! 極天無抜刀・残花」
シュッと水平を描く蒼の一閃は、千子刃の刃文を身に宿していた。
神刀、邪刀あれど、使い手次第では魂を得るとも言われている。
リュウマが手にする一振りは、明らかに現世の理を絶つ異質な存在感を放つ。
肉を斬り、骨を削ぎ、血を啜る……悪鬼の化身。
それが妖刀というものだ。
使い手の精神を蝕みながらも魅了し、他者の生命を吸い続け何よりも美しく咲き誇る。
繊細なる美と恍惚感に満ちる輝きが、至宝とも呼べる。
「くかかぁかっ! コヤツめ、若い男の生き血が欲しゅうて、たぎっておるわ」
「同属性の練功だと、極天蒼炎鸞!」
「水滸鏡月ノ舞……奴に一撃でも出さないように行くぞ! 私に合わせてくれ、ギデ!!」
両腕から肩と背中にかけて、螺旋に絡みつく水闘気をまといながら、ランドルフが先陣を切った。
地に吸い付くように姿勢を傾け、リュウマへと真っすぐに飛び込む。
「ピアッシングウェイブ!」
レイピアの刃先から撃ち込まれる水の刺突が変幻自在にうねりながら、リュウマの肩口を狙う。
一発だけには留まらず、連射されるピアッシングが蜿蜒と飛びかいながら、退路を塞いでゆく。
刺突を物ともせず弾きながら剣豪は口元を二カッと緩める。
「ほぅ、少しは考えたようだな。力量の差がある相手に先手を取ろうと小細工を仕掛ければ、以前のように返り討ち似合う。ならば、真っ先に仕掛けて動きを封じる……シンプルだが、それゆえ地力があるとも言える」
「おしゃべりしていて大丈夫なのか? お前の相手は、私だけではなかろうに!!」
ランドルフの影からギデオンが躍り出る。
左手に武装練功した剣を握りしめ、大きく振りかぶろうとしていた。
自身の妖刀を縦に構え剣戟に備えるリュウマ。
しかし、ギデオンの繰り出した次の一撃は彼の度肝を抜いた。
「うおっ、あの態勢からの後ろ回し蹴りだと……!? この童、どういう身体能力をしている?」
「だから言っただろう。大丈夫かって! スラッシュプライヤー」
上半身をそらして、スレスレで蹴りを回避した所に、水玉に覆われたカトラスが迫ってきた。
いくら、斬鬼のリュウマであっても立て続けに攻められれば、しのぎ切れなくなる。
「今だ! 一気に畳み掛けるぞ」
「笑止、避けられぬのなら、絶てばいい事! ぬん!!」
極天の闘気を鞘代わりにした神速抜刀が炸裂した。
ギデオンとランドルフの合間を割り裂くように飛行した斬撃が背後にある岩壁を真っ二つに裂く。
二人の闘気も一瞬にして、剣圧で散らされてゆく。
重厚な一撃とは、まさにこのことである……。
「ランドルフ、怯むな! すぐに追撃がくるぞ」
「……陽炎の太刀」突きの型に構えられた長刀が、押し出される。
点であるはずの攻撃は、風圧の杭となり二人の身を貫こうとする。
「チッィィィィィ! 水鏡よ、我らを護る盾となれ」
ランドルフの闘気により生成された、水の大盾が瞬く間に破壊されてしまった。
反射的にでも防御に転じたおかげで、陽炎の太刀の直撃をまぬがれることができた。
「それ、どうした!? この程度で終わるのではなかろう?」
煽り口調の剣豪が、第二、第三の斬撃を生み出す。
防戦が続く中で、頼りになるのはランドルフの水盾のみだ。
しかしながら、リュウマの一撃を喰いとめるだけで至難の業だ。
ランドルフの気力、体力がじわじわと消耗してゆく。
「このままだと……奴に主導権を握られてしまう!」
ここに来て、ギデオンが捨て身の策を講じた。
幸い、ランドルフが中近距離まで相手に接近してくれた為、好機を見出すことが可能であった。
「孔壁鳳突牙―――!!」
目には目を、極天の突撃には天の返し刃を……
剣戟を放つ速度なら、ほぼ同程度だ。あとは、足りない技量を気力で補うしかない。
「うらららあああぁぁ――――!! これ以上は好き勝手させるかぁ――」
ガシィッ―――ン!!! と闘気と金属の刃が共鳴する。
大技の競り合いの末、ついにギデオンはリュウマの喉元にまで距離を縮めることに成功した。
「ワシの弱点を見事についたというわけか……。むぅ……確かに、これは身動きするのに不憫だ。悪いが退いてもらうぞ!」
「させるかよ! 蒼炎魔晄剣」
刹那に燃え盛る練功の剣、気の流れに沿わせるように魔力を注入すると威力が格段に上昇する。
反面、負荷が大きい分……使えて数秒、一撃分の余裕しかない。
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