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二百六十一話
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「本当に大丈夫なのか?」
まだ、年端も行かない子供が一人でリザードドラゴンと対峙している。
その光景に兵士たちからは不安の声が上がっていた。
ギデオンとランドルフは、すぐに騎乗する陸龍の進路を変え、別ルートへと兵たちを誘導してゆく。
シユウに関しては、二人ともまったくもって心配する素振りを見せていない。
なぜなら、彼らはシユウの実力をよく知っている。
三大導士、大元の下で練功を学んできたシユウは、気の扱い方に関してはギデオンたちよりも上手く使いこなせる。実際、ランドルフに練功の稽古をつけていたのは、大元ではなく彼の方である。
「ひぎゃやや!!」と威嚇の声を鳴らすリザードドラゴンは、小型ではあるが陸龍よりも一回り大きく、並みの刃では斬り裂くことができないほどの分厚い表皮におおわれていた。
性格も獰猛で動きも機敏。
肉食で、家畜や人を襲うことも珍しくない。
「よし、よし、怖がらんでもいいべ。オイラはオマエさ、友達だば」
気性が荒いリザードドラゴンに、シユウは平然と近づいてゆく。
群れではなく、単体で現れたので、まだ何とかなりそうだ。
だとしても……危険な生き物には変わらない。一部の兵士たちは、進軍中であることさえ忘れて、少年の動向を見守っていた。
目と鼻の先まで近寄ってきたシユウに、リザードドラゴンは逃げ出すことも襲うこともなく、つぶらな瞳でジッと彼を見詰めていた。
「ほら、皆! コイツは、もうオイラが手懐けたから人を襲うことはな――――」
「わあああああ! 喰われた!! 少年ぇえええんんんん」
一瞬、後方へと顔を向けた隙に、リザードドラゴンが鋭い顎を広げてシユウの上半身にかぶりついた。
思わぬアクシデントに、その場は騒然となり兵士たちは急いで長槍を構えた。
「やはり、野生の龍など調教できるわけがないんだ……くっ、少年! すぐに助けるからなっ!」
「その必要はねぇ―――!! オイラは竜騎士だ。空でも陸でも海でも関係なくドラゴンは全部、仲間にするんだ。コイツだって少し興奮しているだけだ。ちゃんと話せば、分かってくれるはずだ」
手でドラゴンの分厚い首筋の皮膚をそっと撫でる、こうすれば龍の気分は落ち着く。
はず……なのだが、龍は噛みついたままシユウを離そうとしない。
「いつまで、吸い付いてんだぁあ―――!! オイラは乾きモノじゃねぇんだぞ!」
早駆けの馬よりも筋肉質な龍の体躯が真っ逆さまになって岩肌へと投げ飛ばされる。
とんでもないことに、シユウは龍に噛まれたままの状態で、リザードドラゴンを意図も容易く持ち上げてしまった。
「ひでぇ……全身、唾液まみれだ。皆、ここはもう大丈夫だから! 先にいってちょ。」
傷一つ負っていない少年の姿に、今し方、襲われていたのが嘘のように思えてくる。
圧倒的な力を見せつけられた、兵士たち一同は目を丸くし、本能で敗北を悟ったリザードドラゴンは、自らシユウに顔を擦り寄せてきた。
なんとも、末恐ろしい竜騎士にどこからともなく歓声が巻き起こる。
彼がいれば、百人力だ。
もう龍の咆哮を耳にしても脅かされず済む。なんと心強いことだろう。
軍全体の士気が最高潮に達しようとする中で、まずギデオンが足を止めた。
続いて、ランドルフも全軍に一時停止命令を下し、この先にある路の一つをジッと睨んでいた。
「ギデ……気づいたか?」
「嗚呼、来ている。レプラ将軍! 皆を連れて、そこの隘路へ行ってくれ。エイルは将軍のサポートを頼む!」
「了解しました。マスターも気をつけて」
「自分も構わんが……どういうことだ?」
「説明している暇はない! 今すぐ、向こうへ移動しろ。死にたくないだろっ!?」
切羽詰まったギデオンの様子に、さしものレプラゼーラも只事ではないと慌てて、進路変更を兵士たちに告げる。
手懐けたばかりのリザードドラゴンの背に跨り、シユウがシンガリを務めることとなった。
「なぁ? 勝てる見込みはあるか……?」
「さぁな? ただ、ことを急いて単独で動くなよ。一発でやられるぞ!」
カランコロン、カランコロン……路の奥から下駄の音が近づいてくる。
敢えて、音を鳴らしているのか? 自らの存在をアピールする響きは、ギデオンたちの不安を煽ろうとする。
カラン…………「ふむ、ネズミが入り込んだと聞いていたが、貴様らだったか……」
「その節は世話になったな!」
「ほぉー、あの時の若造か……。せっかく拾った命を、むざむざと棄てにこようとは愚か者めが!」
「以前の私だと思うなよ。今度こそお前の剣をへし折ってやる」
「くっははああは! できるものならやってみるが良い。その威勢ごと、かみ砕いてやろう」
現れたのは、ドルゲニア公国一の剣豪、斬鬼のリュウマ。
最強と名高い、この羅刹は今まで幾度となく死屍累々を築き上げてきた。
どうやら西軍は、すでにコチラの動きを察知していたようだ。
北軍の出鼻をくじくために、初戦から切り札を投入してきた。
まだ、年端も行かない子供が一人でリザードドラゴンと対峙している。
その光景に兵士たちからは不安の声が上がっていた。
ギデオンとランドルフは、すぐに騎乗する陸龍の進路を変え、別ルートへと兵たちを誘導してゆく。
シユウに関しては、二人ともまったくもって心配する素振りを見せていない。
なぜなら、彼らはシユウの実力をよく知っている。
三大導士、大元の下で練功を学んできたシユウは、気の扱い方に関してはギデオンたちよりも上手く使いこなせる。実際、ランドルフに練功の稽古をつけていたのは、大元ではなく彼の方である。
「ひぎゃやや!!」と威嚇の声を鳴らすリザードドラゴンは、小型ではあるが陸龍よりも一回り大きく、並みの刃では斬り裂くことができないほどの分厚い表皮におおわれていた。
性格も獰猛で動きも機敏。
肉食で、家畜や人を襲うことも珍しくない。
「よし、よし、怖がらんでもいいべ。オイラはオマエさ、友達だば」
気性が荒いリザードドラゴンに、シユウは平然と近づいてゆく。
群れではなく、単体で現れたので、まだ何とかなりそうだ。
だとしても……危険な生き物には変わらない。一部の兵士たちは、進軍中であることさえ忘れて、少年の動向を見守っていた。
目と鼻の先まで近寄ってきたシユウに、リザードドラゴンは逃げ出すことも襲うこともなく、つぶらな瞳でジッと彼を見詰めていた。
「ほら、皆! コイツは、もうオイラが手懐けたから人を襲うことはな――――」
「わあああああ! 喰われた!! 少年ぇえええんんんん」
一瞬、後方へと顔を向けた隙に、リザードドラゴンが鋭い顎を広げてシユウの上半身にかぶりついた。
思わぬアクシデントに、その場は騒然となり兵士たちは急いで長槍を構えた。
「やはり、野生の龍など調教できるわけがないんだ……くっ、少年! すぐに助けるからなっ!」
「その必要はねぇ―――!! オイラは竜騎士だ。空でも陸でも海でも関係なくドラゴンは全部、仲間にするんだ。コイツだって少し興奮しているだけだ。ちゃんと話せば、分かってくれるはずだ」
手でドラゴンの分厚い首筋の皮膚をそっと撫でる、こうすれば龍の気分は落ち着く。
はず……なのだが、龍は噛みついたままシユウを離そうとしない。
「いつまで、吸い付いてんだぁあ―――!! オイラは乾きモノじゃねぇんだぞ!」
早駆けの馬よりも筋肉質な龍の体躯が真っ逆さまになって岩肌へと投げ飛ばされる。
とんでもないことに、シユウは龍に噛まれたままの状態で、リザードドラゴンを意図も容易く持ち上げてしまった。
「ひでぇ……全身、唾液まみれだ。皆、ここはもう大丈夫だから! 先にいってちょ。」
傷一つ負っていない少年の姿に、今し方、襲われていたのが嘘のように思えてくる。
圧倒的な力を見せつけられた、兵士たち一同は目を丸くし、本能で敗北を悟ったリザードドラゴンは、自らシユウに顔を擦り寄せてきた。
なんとも、末恐ろしい竜騎士にどこからともなく歓声が巻き起こる。
彼がいれば、百人力だ。
もう龍の咆哮を耳にしても脅かされず済む。なんと心強いことだろう。
軍全体の士気が最高潮に達しようとする中で、まずギデオンが足を止めた。
続いて、ランドルフも全軍に一時停止命令を下し、この先にある路の一つをジッと睨んでいた。
「ギデ……気づいたか?」
「嗚呼、来ている。レプラ将軍! 皆を連れて、そこの隘路へ行ってくれ。エイルは将軍のサポートを頼む!」
「了解しました。マスターも気をつけて」
「自分も構わんが……どういうことだ?」
「説明している暇はない! 今すぐ、向こうへ移動しろ。死にたくないだろっ!?」
切羽詰まったギデオンの様子に、さしものレプラゼーラも只事ではないと慌てて、進路変更を兵士たちに告げる。
手懐けたばかりのリザードドラゴンの背に跨り、シユウがシンガリを務めることとなった。
「なぁ? 勝てる見込みはあるか……?」
「さぁな? ただ、ことを急いて単独で動くなよ。一発でやられるぞ!」
カランコロン、カランコロン……路の奥から下駄の音が近づいてくる。
敢えて、音を鳴らしているのか? 自らの存在をアピールする響きは、ギデオンたちの不安を煽ろうとする。
カラン…………「ふむ、ネズミが入り込んだと聞いていたが、貴様らだったか……」
「その節は世話になったな!」
「ほぉー、あの時の若造か……。せっかく拾った命を、むざむざと棄てにこようとは愚か者めが!」
「以前の私だと思うなよ。今度こそお前の剣をへし折ってやる」
「くっははああは! できるものならやってみるが良い。その威勢ごと、かみ砕いてやろう」
現れたのは、ドルゲニア公国一の剣豪、斬鬼のリュウマ。
最強と名高い、この羅刹は今まで幾度となく死屍累々を築き上げてきた。
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