異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百六十話

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 大軍の進行を阻む狭い道は、陸龍二頭がすれすれで入れるほどの幅しかない。
 この難所を進むには、列をなしてゆくしかなかった。
 進軍が大幅に遅れることも問題点ではあったが、特にギデオンが危惧したのは敵軍との遭遇である。
 こうも縦横無尽に道が分かれてしまっていると、待ち伏せを喰らった際、西軍から挟撃されてしまう可能性は大いに考えられる。

 道が多いのなら、兵を分散させて対応すればいいとも思えたが……マタギからワイルドハンターへとクラスチェンジした恩恵により、ギデオンの直感力はさらに磨かれれていた。
 強化された能力によって、近場に仕掛けられたトラップの気配をも探ることができるようになった。
 その直感が、しきりに告げている……ほとんどの路はダミーであり渓谷を渡る正解の路は限られている。

 手間ではあるが、ここは全員で同じの場所から渓谷の中へと侵入したほうが、隊列を分断されずに済む。

「こんなら、飛竜でも呼んで空から向かったほうが幾分マシでねぇーか?」

 後方の部隊から意見を述べる者がいた。
 威勢よく、手を上げている少年の姿に、ギデオンとランドルフは互いに顔を見合わせていた。
 少年の正体は、大元導士の一番弟子にあたるシユウ。
 そういえば、閑泉を奪還して以降、彼の姿を見かけることはほとんどなかった。
 このようなカタチで、軍に加わってくるのは、予想外すぎるのもいいところだ。

「シユウ、まさか……僕たちについてきたのか?」

「おう! 兄ちゃんたちと一緒に戦いたくてさ。心配すな! ちゃんと先生の許可は貰っているし]

「先生もよく、了承してくれたな」

「まぁ~、兄ちゃんたちに手を貸せないことを、先生も気に病んでいただよ。これは、埋め合わせのようなモンさ! 早速、飛竜を使って辺りの様子を探ってみるかい?」

「そんなことをしたら、西軍にコチラ側の動きが筒抜けになるぞ……」

 浮足立つシユウをランドルフがいましめる。
 若干、呆れた顔を覗かせるもランドルフは、どこか嬉しそうだった。
 まるで歳の離れた弟の世話を焼く兄のようにシユウに接している。

「ランドルフの兄ちゃん! けどさ、相手がどこにいるのか分からないと困るんでねぇーか?」

「リスクは元より覚悟の上だ。西軍に我々の動きを悟られないように慎重に行動するしかない。シユウには、野生のドラゴンが現れた時に、対処できるよう備えておいて欲しい」

「むむむ……なんか、良いように言いくるめられている気がするだ」

 飾らないシユウの言葉に周りからドッと笑いが飛び出す。
 ここまで、急げ急げと先へと進むことばかり考えていた兵士たちとっては、力みすぎた肩の力がようやく抜けた一時だった。

「これより、西最大の防壁を突破する。全員、僕の後についてこい! ルートが限定される以上、敵との鉢合わせも充分ありえる。各個、細心の注意を払って移動してくれ」

「オオオオオ―――!!」

 ギデオンを先頭に、西地区侵攻が開始された。
 いくら綺麗ごとで誤魔化そうとも、他者の日常を脅かそうとしているのには変わりない。
 戦争には正当な理由が必要であっても、必ずしも公正な手段が求められるわけではない。

 そのことを踏まえれば、少数で攻め入るギデオンたちは非常に手緩い手段を用いている。
 下手を打てば、相手に反撃の口実を与えてしまう。

 もっとも、今回のような王位継承をかけた戦いでは勝敗は勿論こと、王としての資質が問われる。
 民衆から支持を得られないのであれば、大王になっても国を維持することはできない。
 不利な戦局を少数でひっくり返せば、候補者の中での相対的な評価は大きく上昇する。
 ことドルゲニアの民には、武力を重んじる傾向にある。
 要約すると、より強い者に惹かれやすいということだ。

 人としての甘さが場合によっては、力を誇示する結果につながる。
 当事者であるギデオンは特に意識してはいなくとも、戦況次第では支持者が増加し兵力が強化されることも充分にあり得る。

「止まるな! 一気に進むんだ」

 崖の上から岩石がしきりに落下してくる。
 正規のルートを辿っても巧妙なトラップが張り巡らされている。
 ここまで、被害がほぼほぼ出ていないのは、ギデオンのトラップ回避能力とエイルの計算予測おかげである。
 罠の位置と、発動までの時間、効果範囲さえ分かれば脅威でも何でもない、ちょっとしたハプニングだ。
 ただし、罠の中には例外もある……。

「うっわああああ! リザードドラゴンだぁああ―――」

 大渓谷の中に生息する魔物たち、それだけは自力でどうにかするしかなかった。

「シユウ、早速だが頼めるか?」

「任しておけ、ギデの兄ちゃんたちは他の兵が手を出さないように指示してくれよ!」
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