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二百五十一話

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 胴着に袴と武術向きの出で立ち。
 その上から覆い被さった羽織ものは、艶やかな絹の光沢を帯びている上物。

 若人わこうどが着衣として身にまとうには、およそ似つかわしくないほどの物々しい服装。
 まるで、どこぞの高官を思わせる。
 それだけで、クドと呼ばれた少年が只者ではないことが見てとれる。

 ギデオンとは、また違った存在感を放つ彼に、シゼルやブロッサムは言葉と一緒に固唾を飲んでいた。

「俺のこと、覚えていてくれたんだ。嬉しいよ、シルキー……まさか、こんな所で再会するとはね、これもまた女神の思し召しおぼしめしだな」

「うん、ずいぶんと見違えたね。クド、君だとすぐには分からなかったよ!」

「最後に会ったのが聖歌隊が解散した時だからな。あれから、お互い色々と変わっているさ」

 懐かしい友人との再会に二人は手を取り合いながら顔を綻ばせていた。
 二人が言葉を交わすのは実に三年ぶり、聖歌隊では同じチームに所属していたシルクエッタとクドは、昔から仲が良かった。
 止む無い事情でクドが聖王国を離れたこともあって、今でずっと疎遠になっていた。
 こうして無事に会えたのは喜ばしいことだ……語り合いたいことは幾らでもある。
 シルクエッタの脳裏はたくさんの思い出で埋め尽くされていた。
 どれもこれも、大切な宝物。
 幼き頃、皆とともに過ごしてきた楽しい日常は今もまだ、色あせることなく彼女の中で生き続けている。

「ところで、君たちはこんな所で何をしていたんだい? 見た目、役人のような恰好をしているけど……」
 不意にシルクエッタが視線を外し、ススキの奥を見詰めていた。

「ああ! すまん。紹介するのが遅くなってしまった……二人とも、出て来てくれ」

 クドが手を叩いて合図を送ると鈴ススキ穂が騒がしくなった。
 ススキの合間をすり抜けてきたのは、長耳の小柄な少女と重たそうに目蓋を開く亀顔の男だった。
 二人はクドほど、心を許してはいない。シルクエッタたちに疑惑の眼差しをむけていた。

「あれ、エルフだ! キュピちゃん」

 少女を見るなり、それまで口を半開きにしていたシゼルがはしゃぎ出した。
 キュピちゃんはすでにお眠らしい? シゼルの肩に乗ったまま、ウトウト微睡まどろんでいる。

「ねぇ、ねぇ? エルフって普段は何してんの? 野菜しか食べられないって本当なの?」

 一度、興味を持ったものはとことん知りたい、役者のころに覚えてしまった悪癖である。
 シゼルの質問攻めに、最初こそ無視を決め込んでいた少女だが……沈黙していることを良いことにシゼルの指先がチョッカイをかけてくる。
 あちらこちらと遠慮なしに突かれていることに、耐えかねた少女はついにブチ切れ出した。

「さっきから……エルフ、エルフと……。いいいいいやあぁあああ!! うちは由緒正しきホビット族だぞぉ!! お前、ほんとーにジャマ。 ジャマするヤツは消す、これチルルたちのシゴト」

「へぇ~、チルルンね。シゼルだよ、この子はキュピちゃん! ヨロね」

「かってに自己完結するな……うちは、お前たちと仲良くする気はない。 なぁ? オルドレール」

 隣にいる仲間の方を向いた途端、チルルの目が点になった……。
 がっしりと握りあった手、こともあろうことか……亀顔のオルドレールはブロッサムと意気投合していた。

「ん? どしたん?」
 首をかしげるオルドレールにチルルの白い眼が向けられる。

「この……裏切り者」

「えっ? うぇええええ!? オイはただ、同士とルチャリブレについて熱く語っていただけばい!」

「やっかましいわあぁあああ! このボケナス」

「二人とも、ケンカしている場合じゃないぞ……」

 平静さを欠いたチルルにクドがストップをかけた。
 ただでさえ、王位継承権で国政が荒れている、今の状況……シルクエッタたちの来訪はドルゲニアにとっては迎合できないモノになりつつあった。

「動乱が続く社会を正すために俺らがこの東地区の要になっている。戦闘が本格的に始まると北側の間者は必ず、ここを通って入り込んでくる。だから、ここで人の入りを監視し不審な奴を取り押さえてきた」

 突然、クドが握っていた右手を広げた。すると、その手のひらの上に見覚えがあるカタチをした通信機が乗っていた。

「ボクの通信機! いつの間に……」

「悪いけど、コイツは預からせてもらう。ここでは地脈の影響で機能しないが街中では通信できてしまうからな」

「クド、ボクたちをどうするつもりなの?」

「そう不安そうな顔をするなよ。君たちの身柄は、天楼閣で保護することとなった。ここはじきに戦場となる。悪い事は言わない、しばらくは大王の庇護下に入ってほしい……首都にいてくれたほうが君たちの安全を保障できる」

 真剣な面持ちで語るクドだが、そのやり口はどう見て強引でしかなかった。
 あまりの横暴さに真っ先意義を申し立てたのは他ならぬブロッサムだ。

「少し宜しいですかな? クド殿、貴方の言い分は分かりもうした。ですが我々には為すべきことがあって、それを果たすために公国まで足を運んできたのですぞ。これから、どう動くかはこちらの意思で決めさせてほしい。必要と判断すれば、そちらの意向に従いますゆえ」

「それで構わない。一応は首都まで同行してもらうけれど、あくまで形式的なモノだ。その後、どうするのかは君たちにお任せしよう」

 本当に信用していいのだろうか? クドの態度に、シルクエッタは一抹の不安を感じずにはいられなかった。
 選ばせているようで選ぶことができない。
 それは選択肢がないのと何ら変わりない……クドと出会った時から、すでにシルクエッタたちは奈落の底へと足を踏み入れてしまっていた。
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