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二百四十九話
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動乱が加速するドルゲニア公国。
そこには様々な人間の思惑が乱立していた。
小波に過ぎなかった対立は、時間とともに拡大してゆく。
その流れは公国だけに留まらず、近隣諸国をも巻き込もうとしていた。
ギデオンたちの行方を捜索する彼らもまた、己が宿命のもと時代の奔流へと飲まれつつあった。
楽園の星ユナテリオンはたとえ、夜の帳がなくとも、桃花褐の空に朧気に浮かんでいる。
まるで、公国の行く末を見届けているかのように……。
「ふひぃ~、ねぇ? シルクン。シゼルたち、どこまで歩けばいいの? 南陽門を抜けてから大分、歩いてきたと思うんですけど~」
脱力した両腕をブラブラさせながら、シゼル・アマンは項垂れていた。
南陽門を通過してから、すでに五時間。
公国の地理に明るくないシゼルたちは紅葉の森にて道を見失い、早くも遭難しかけていた。
「シゼル殿! もとを辿れば身から出た錆。貴女が自分に任せろと好き勝手に動いた結果ではありませぬか! 教官殿に文句を言うの筋違いなのでは……」
「ああ、そうやってブロチンはシゼルのことをイジメるんだぁ~。ヒドォ~イよ、グスン……キュピちゃんもそう思うでしょ?」
「気をつけて……悪い男とブロッサム――――キュピピピピピピピッ!!」
「い、いや我は決してシゼル殿を責めているのでは…………教官殿、助けて下され!」
他者の言葉を真に受けてしまうブロッサムは純真すぎた。
元舞台役者であるシゼルの泣き真似に、いいように翻弄され、オウムのキュピちゃんにすら揶揄われている始末だ。
タジタジとなってシルクエッタに涙目で訴えてくる。
そんな、生徒たちの慌ただしいやり取りに彼女は口元に指をあてがいクスッと笑っていた。
元聖歌隊のメンバーであるシルクエッタにとって道に迷うことなど、別段珍しくもなかった。
任務先でジャングルや湿地帯など土地勘もなく彷徨い続けるのは、これまで幾度となく経験してきた。
それら比べれば、この森は危険も少なく容易に抜け出せられる。
シルクエッタはすでに紅葉の森から脱出ルートを探りあてていた。
マッピングスキルがあれば時間を浪費しなかったのだが、生憎そのようなモノは持ち合わせていない。
数時間で正解のルートを見つけられただけでも御の字だ。
「二人とも、じきに森を抜け出せるからそれまでの辛抱だよ」
「左様ですか!? ほら、シゼル殿。もう一踏ん張りですぞ」
「はぁ~、足が棒になって疲れたよ。二人とも、体力ありすぎ!」
「アハハッ……森を出たら休憩するから、ね? ゴメンね、シゼルさん。君を連れていくようにジェイクさんに頼まれているんだ。それにホワイトナイトの能力自体、代替えが利かないほど有用なもの。ギデオンたちを見つけ出すには君の協力が必要不可欠なんだ」
シルクエッタに宥められ渋々と歩きだす。
シゼルが素直に喜べないのには、わけがある。
ギデオンやオッドを捜索する今回の作戦、ルヴィウス勇士学校は関与していない。
学校側からできるだけの支援は受けているのだが……共和国と公国が現在でも対立関係である以上、共和国出身者は国境を通過できない。
シルクエッタを中心に限られたメンバーで選ばれたのが国籍のないシゼルと西大陸出身者のブロッサムだった。
バージェニル・ミリムスとはともかく、クォリスは途轍もない才覚の持ち主だ。
この軍事国家の争乱に参戦すれば、神威使いの少女は一線級の戦士として一躍、名を轟かせるだろう。
所詮、自分のオーソライズキャリバーは神威の下位互換……補充要員にすぎない。
歴然たる実力差からシゼルは劣等感に苛まれていた。
とはいえ、ガルベナールの目論見が公となった共和国の現状は散々たるモノだ。
他国の一宰相が共和国にて、悪逆の限りをし尽くせたのは、現グランドルーラーが共謀者となっていたからである。
自身の財を肥やすため、意味のない内戦を継続していた。
その事実が発覚してから、一部の国民は暴徒化し解放軍を名乗るレジスタンスの元に集結している。
日を追うことに急速に増大する新勢力は、国家権威の簒奪へと乗り出していた。
もはや、誰の手にも負えない騒動を鎮静化するため、いち早く動き出したのが勇士学校とその生徒たちだった。
武力衝突ではなく、講和を進め法の下で然るべき判決を下す。
勇士学校は、そのつなぎ役を自ら買って出た。
だが、その努力のかいも虚しく、一度火をつけた人々から憤怒の炎が消え去ることはなかった。
最悪なことに、共和国軍が無理に沈静化を図ろうし市民へと砲身を向けたのだ。
恐怖による支配は、すでに脅しとして機能していなかった……。
首都ルーツグウ方面に向けて拡がる戦火……勇士学校側の願いは人々の耳には届かず、ついに抗争は共和国軍と解放軍による全面対決に持ち込まれた。
そこには様々な人間の思惑が乱立していた。
小波に過ぎなかった対立は、時間とともに拡大してゆく。
その流れは公国だけに留まらず、近隣諸国をも巻き込もうとしていた。
ギデオンたちの行方を捜索する彼らもまた、己が宿命のもと時代の奔流へと飲まれつつあった。
楽園の星ユナテリオンはたとえ、夜の帳がなくとも、桃花褐の空に朧気に浮かんでいる。
まるで、公国の行く末を見届けているかのように……。
「ふひぃ~、ねぇ? シルクン。シゼルたち、どこまで歩けばいいの? 南陽門を抜けてから大分、歩いてきたと思うんですけど~」
脱力した両腕をブラブラさせながら、シゼル・アマンは項垂れていた。
南陽門を通過してから、すでに五時間。
公国の地理に明るくないシゼルたちは紅葉の森にて道を見失い、早くも遭難しかけていた。
「シゼル殿! もとを辿れば身から出た錆。貴女が自分に任せろと好き勝手に動いた結果ではありませぬか! 教官殿に文句を言うの筋違いなのでは……」
「ああ、そうやってブロチンはシゼルのことをイジメるんだぁ~。ヒドォ~イよ、グスン……キュピちゃんもそう思うでしょ?」
「気をつけて……悪い男とブロッサム――――キュピピピピピピピッ!!」
「い、いや我は決してシゼル殿を責めているのでは…………教官殿、助けて下され!」
他者の言葉を真に受けてしまうブロッサムは純真すぎた。
元舞台役者であるシゼルの泣き真似に、いいように翻弄され、オウムのキュピちゃんにすら揶揄われている始末だ。
タジタジとなってシルクエッタに涙目で訴えてくる。
そんな、生徒たちの慌ただしいやり取りに彼女は口元に指をあてがいクスッと笑っていた。
元聖歌隊のメンバーであるシルクエッタにとって道に迷うことなど、別段珍しくもなかった。
任務先でジャングルや湿地帯など土地勘もなく彷徨い続けるのは、これまで幾度となく経験してきた。
それら比べれば、この森は危険も少なく容易に抜け出せられる。
シルクエッタはすでに紅葉の森から脱出ルートを探りあてていた。
マッピングスキルがあれば時間を浪費しなかったのだが、生憎そのようなモノは持ち合わせていない。
数時間で正解のルートを見つけられただけでも御の字だ。
「二人とも、じきに森を抜け出せるからそれまでの辛抱だよ」
「左様ですか!? ほら、シゼル殿。もう一踏ん張りですぞ」
「はぁ~、足が棒になって疲れたよ。二人とも、体力ありすぎ!」
「アハハッ……森を出たら休憩するから、ね? ゴメンね、シゼルさん。君を連れていくようにジェイクさんに頼まれているんだ。それにホワイトナイトの能力自体、代替えが利かないほど有用なもの。ギデオンたちを見つけ出すには君の協力が必要不可欠なんだ」
シルクエッタに宥められ渋々と歩きだす。
シゼルが素直に喜べないのには、わけがある。
ギデオンやオッドを捜索する今回の作戦、ルヴィウス勇士学校は関与していない。
学校側からできるだけの支援は受けているのだが……共和国と公国が現在でも対立関係である以上、共和国出身者は国境を通過できない。
シルクエッタを中心に限られたメンバーで選ばれたのが国籍のないシゼルと西大陸出身者のブロッサムだった。
バージェニル・ミリムスとはともかく、クォリスは途轍もない才覚の持ち主だ。
この軍事国家の争乱に参戦すれば、神威使いの少女は一線級の戦士として一躍、名を轟かせるだろう。
所詮、自分のオーソライズキャリバーは神威の下位互換……補充要員にすぎない。
歴然たる実力差からシゼルは劣等感に苛まれていた。
とはいえ、ガルベナールの目論見が公となった共和国の現状は散々たるモノだ。
他国の一宰相が共和国にて、悪逆の限りをし尽くせたのは、現グランドルーラーが共謀者となっていたからである。
自身の財を肥やすため、意味のない内戦を継続していた。
その事実が発覚してから、一部の国民は暴徒化し解放軍を名乗るレジスタンスの元に集結している。
日を追うことに急速に増大する新勢力は、国家権威の簒奪へと乗り出していた。
もはや、誰の手にも負えない騒動を鎮静化するため、いち早く動き出したのが勇士学校とその生徒たちだった。
武力衝突ではなく、講和を進め法の下で然るべき判決を下す。
勇士学校は、そのつなぎ役を自ら買って出た。
だが、その努力のかいも虚しく、一度火をつけた人々から憤怒の炎が消え去ることはなかった。
最悪なことに、共和国軍が無理に沈静化を図ろうし市民へと砲身を向けたのだ。
恐怖による支配は、すでに脅しとして機能していなかった……。
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