異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百四十八話

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 北の閑泉が反徒によって陥落した。
 その一報は一夜にして国中に拡がっていった。

 アビィや大元がもっとも警戒していたのは、東の大王軍であり、低く見積もっても十数万の兵が動員されると予想されていた。
 反乱軍にとって、唯一のアドバンテージとなるものは北と東、両エリアの境にある遺跡迷宮があることだった。
 いくら飛竜を用いても遺跡の竜たちが恐れをなして上空を旋回してしまう。
 理由は明確ではないが、本能で遺跡迷宮の危険を察知していると言われている。

 その為、大王の軍勢が進軍するには北か南のどちらかを迂回しなければならない。
 ガルベナールがドルゲニア公国に入国した際に直進ではなく南側に進路を取ったのは、このような事情があったからである。

 ナンダを捕らえてから二日後……占拠した北の守護所に大元を始めとする元重臣たちが集まった。
 当然ながら、先導者であるアビィも彼らの中に加わっていた。

「諸君、これまでの尽力感謝する。まずは、この勝利に祝杯をあげたいが……事態は未だ、予断を許さない。依然として東は動こうとはしていないが、いつコチラに向かってきてもおかしくはない。そのため性急に、話を取りまとめて軍備を増強しなければならない」

「無論ですとも!」
「ナンダから奪い返した我らが街をみすみす東に渡すわけにもいかんしな」

 首尾よく大勝を収めたこともあり、重臣たちは皆、活気づいていた。
 ほぼ全員が賛同の声を上げて、大元を中心に防衛策を練っていた。
 ある程度、決まったところで、合間を縫うようにして大元が同胞の彼女に声かけしてきた。

「アビィ、本当にいいのか?」

「なんだい? セイサイ。ワタシの心配をしてくれるなんて珍しいじゃないか」

「あまり顔色が優れないぞ……ナンダのことが気がかりなのは分かるが、もうしばらく辛抱してくれ」

「さぁーて、何のことやら? あの男に関してはロッチさんとギデ君に任してあるから、ね? それよりもセイサイ、東側の動きが異常だ……ここまで動かないとなると何かを狙っているようにも見える」

「あるいは、動けない理由ができたのかもしれない。第一王子であるヒイキは、冷徹で残忍極まりない性格をしているという、出来れば関わりたくない相手だ」

「同感。カイが南にいることが救いだけど……誰も大王の軍と事を構えたいと思う奴はいない。もっとも、今回の立役者であるがこの状況をどう言うのか興味深いけどね」

 アビィは窓際まで移動し、外の様子を眺めていた。
 見詰める、その先には扉が開かれた蔵がある。
 周りの賞賛されることを嫌う英雄は、仲間たちとともにその蔵に入り浸っていた。


「ギデ、パワースポットの反応を感知しました」
 事の発端はエイルの一言から始まった。
 ナンダを倒した直後、それまでレイラインの流れを見つけることができなかったエイルが初めて場所を特定した。

「なん……だと、ワスの思っていたイメージとは違うぞ……。これがレイラインの一部なのか??」

 学者であるロッティが難色を示すのも無理はなかった。
 パワースポットとは元来、その場所を指す言葉であるのにも関わらず、エイルが反応を示したのは倒れたナンダの傍に転がっていた拳程度の石ころだった。

「メモリージェムと同じ要領では?」とランドルフが顔をのぞかせる。

「なるほど! 貴殿、なかなか賢いな。この石にパワースポットのエネルギーを吸収させていたということか!? ナンダの人ならざる練功の力も、この石のおかげだったというわけだ!」

「オッサン、感動しているところ悪いがもう良いか? エイル、石の解析を頼む」

「了解です、ギデ。解析には二時間ほどかかります。浄化作業を開始するのは結果次第となります」

「ああ、可能なら継続して浄化も頼む。僕は少しの間、外にでるがまたすぐに戻ってくる」

 ギデオンはエイルに石を手渡すと、ランドルフと共に蔵を出た。
 成り行きであるとはいえ、共和国を飛び出すカタチとなった彼にとって、その後の共和国について訊きたいことは山ほどある。
 それはランドルフとて同じ気持ちであった。

「ガルベナールはどうなった?」問うより先に答えが求められた。

「死んだよ。いや、正確には殺された……僕たちも一緒に狙われたから事故に近いが……。南側の銃皇とかいう奴に付き従う魔術師によってな」

「そうか……実は、私もあの後どうなったのか? 把握できていないんだ。起き上がれるようになって、すぐナズィールを出て来てしまった……シルクエッタさんにも内緒でな」

「いったい何が、お前にそこまでさせたんだ? 騎士団の任を放棄しても成し遂げることなのか? お前を襲った刺客は、途轍もなく強い手練れだ。再戦しても勝ち目はないかもしれない」

「それでもだ!」不安をかき消すようにランドルフが一喝いっかつした。

「きっとお前に毒されたんだろうな、私は……。役職よりも、家名の誇りを選んだんだ! 例え勝ち目がなくとも、負けっぱなしは許されない……そういう家系に生まれたのだよ」

「深くは訊かないが、いずれは理由を話してくれよ」

「時が来たらな……そうだ、これを―――本当は聖王国に持ち帰って調べるつもりだったんだが……あのエイルとかいうオートマタならコイツの解析もできるかもしれないぞ」

 ランドルフがコートの内から手帳を取り出しギデオンに差し出した。
 それは、入手してからずっと預かってもらっていたキンバリー・カイネンの手記だった。
 ここに記された内容が、どう作用するのか分からない。
 だが、四凶との関連性について書かれている可能性は大いにある。
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