245 / 366
二百四十五話
しおりを挟む
姿なき邂逅。
謎の少女と言葉だけしか交わせなかったのに不思議と胸の奥からじんわりとした温かさが拡がってゆく。
信じられないことに、あれほど感じていた手足の痛みが消し飛んでいた。
まるで、これから始まる奇跡を予期させるかのように運命の流れはギデオンの方へと向きだしていた。
意識が回復すると世界がスローモーションに展開していた。
ナンダが放つ不朽のカランドリエが、闘気で出来た指先を広げるようにして間近に迫っていた。
三十センチも満たない狭い隙間からスッと後退し抜け出す。
ギデオン自身でも理解が追いつかない―――タキサイキア現象。
自然とそうできてしまったのだから、言葉を用いても説明しようがない。
いつになく頭の中が鮮明になっていた。
――――何故、ナンダには通じるはずの極天が届かないのか? 考えている間に、並列思考が展開される。
今の自分には何が必要なのか? ヒントはロッティからもらい受けている。
遠距離のでの極天攻撃が必須だった―――ナンダとの距離が近ければ近いほど死角がなくなる。
油断も隙もないことがチオンチ強みを最大限に引き出してくる。
死角とは、通常は視界が届かない角度を指す言葉である。
しかし、練功術の場合は、それはまた別の意味を持つ。
全身をくまなく防御する為には絶えず気を循環させる必要がある。
いくら達人でも全身の隅々まで気を張り続けるのは至難の業だ。
少しでも注意がそれれば手薄な部分が出てくる、それを死角と呼んでいる。
恐ろしいことにナンダは、その見極めが正確無比であるということだ。
チオンチの能力由来のモノかは知らないが、これをどうにかしなければ、無敵状態を解除できない。
「イメージしろ。そうイメージだ……」ギデオンはナンダを見据えながら極天の起源に触れていた。
すべては、暴君ファルゴ・エンブリオとの死闘で得たものだ。
力ですべてを動かそうとしていた傍若無人の暴力の徒ではあったが……ギデオンと同格並みの戦闘センスを持っていた。
魔法と練功を意図して合成でできたのは、未だファルゴしかいない。
仮説ではあるが、もし、この新たなる魔術が実用化されるのなら人類の魔法文明はさらに一段階、進化を遂げる。
それほどまでの功績を思いつきだけで成してしまったファルゴは実に末恐ろしい存在ともいえる。
近代魔術の黎明期がすぎ、幾年月が過ぎた。
魔法は生活魔法として一般人にも広く知れ渡り利用されるようになった。
しかしながら、一部の人間は魔力を持っていても魔法を一切使用することができない。
ギデオンもまた、その内の一人であった。
幼い時分から、いくら練習しても一向に上達することはなく、下位魔法ですらろくに放てることができなかった。
「自分に向いていない」あっさりと見切りをつけた彼は、その後は剣術を徹底して鍛え上げて、魔法には見向きもしなかった。
声のヌシは確かに言っていた。
今の君ならできなかったことも自然とできるようになると……。
その言葉を借りるのであれば、やらずして匙を投げるのは愚かな行為となる。
意識を一点に集中し魔力を溜めて、魔法が発動するように強く願う。
大事なのはイメージだ。
魔法を使用する自分を客観的な視点で見えるようにすることで、現実としての魔法を生み出すことができる。
ギデオンはイメージした。自分にとっての魔法とは―――――すなわち武術だった。
「ダメだ……長年、剣術ばかりにのめり込んでいたせいで、考えれば考えるほど魔法から遠退いてゆく」
「バカな!! 貴様……今の一撃を避けたというのか!?」
騒然となるナンダを無視し、思いにふけるギデオン。
その様子が気に食わないと当然ながら、ナンダは鼻息を荒くし怒り心頭となる。
「おのれぇぇええ……貴様もワシを弱者と蔑むのか……。ここまで力の差を見せつけても、まだ認めぬというのかぁぁ!!」
左右両腕のカランドリエが、肘側へ後退するようにスライドした……。
「滅せよ、欺瞞の種よ。インフィアリアリティ・ブローバースト」
「見えた! これが僕の魔法……僕だけが使える唯一無二の力だ……」
「カァ、ハッハハハア! 何を見出したのかは知らんが、もう手遅れだ。この お お わざ―――で……どうした? なに か が――――おか し い?」
「手遅れだと? その言葉そっくりそのまま返すぞ。不遜なのはお前の方だ、ナンダ! 僕に誰を重ねて見ていた? お前が何を引きずっているのか……興味もないし、知りたくもない。ただ……今、ここで戦っているのは僕とお前だけだ。一時でもそのことを忘れた時点で勝敗は見えている」
ズドドドドッ! ドドドドッ! 軽快な音と共にチオンチの表皮に風穴が開いていた。
「へっ? いったい……何が起きた?」事態が飲み込めず、棒立ちになるナンダの身体からは血がにじみ出していた。
謎の少女と言葉だけしか交わせなかったのに不思議と胸の奥からじんわりとした温かさが拡がってゆく。
信じられないことに、あれほど感じていた手足の痛みが消し飛んでいた。
まるで、これから始まる奇跡を予期させるかのように運命の流れはギデオンの方へと向きだしていた。
意識が回復すると世界がスローモーションに展開していた。
ナンダが放つ不朽のカランドリエが、闘気で出来た指先を広げるようにして間近に迫っていた。
三十センチも満たない狭い隙間からスッと後退し抜け出す。
ギデオン自身でも理解が追いつかない―――タキサイキア現象。
自然とそうできてしまったのだから、言葉を用いても説明しようがない。
いつになく頭の中が鮮明になっていた。
――――何故、ナンダには通じるはずの極天が届かないのか? 考えている間に、並列思考が展開される。
今の自分には何が必要なのか? ヒントはロッティからもらい受けている。
遠距離のでの極天攻撃が必須だった―――ナンダとの距離が近ければ近いほど死角がなくなる。
油断も隙もないことがチオンチ強みを最大限に引き出してくる。
死角とは、通常は視界が届かない角度を指す言葉である。
しかし、練功術の場合は、それはまた別の意味を持つ。
全身をくまなく防御する為には絶えず気を循環させる必要がある。
いくら達人でも全身の隅々まで気を張り続けるのは至難の業だ。
少しでも注意がそれれば手薄な部分が出てくる、それを死角と呼んでいる。
恐ろしいことにナンダは、その見極めが正確無比であるということだ。
チオンチの能力由来のモノかは知らないが、これをどうにかしなければ、無敵状態を解除できない。
「イメージしろ。そうイメージだ……」ギデオンはナンダを見据えながら極天の起源に触れていた。
すべては、暴君ファルゴ・エンブリオとの死闘で得たものだ。
力ですべてを動かそうとしていた傍若無人の暴力の徒ではあったが……ギデオンと同格並みの戦闘センスを持っていた。
魔法と練功を意図して合成でできたのは、未だファルゴしかいない。
仮説ではあるが、もし、この新たなる魔術が実用化されるのなら人類の魔法文明はさらに一段階、進化を遂げる。
それほどまでの功績を思いつきだけで成してしまったファルゴは実に末恐ろしい存在ともいえる。
近代魔術の黎明期がすぎ、幾年月が過ぎた。
魔法は生活魔法として一般人にも広く知れ渡り利用されるようになった。
しかしながら、一部の人間は魔力を持っていても魔法を一切使用することができない。
ギデオンもまた、その内の一人であった。
幼い時分から、いくら練習しても一向に上達することはなく、下位魔法ですらろくに放てることができなかった。
「自分に向いていない」あっさりと見切りをつけた彼は、その後は剣術を徹底して鍛え上げて、魔法には見向きもしなかった。
声のヌシは確かに言っていた。
今の君ならできなかったことも自然とできるようになると……。
その言葉を借りるのであれば、やらずして匙を投げるのは愚かな行為となる。
意識を一点に集中し魔力を溜めて、魔法が発動するように強く願う。
大事なのはイメージだ。
魔法を使用する自分を客観的な視点で見えるようにすることで、現実としての魔法を生み出すことができる。
ギデオンはイメージした。自分にとっての魔法とは―――――すなわち武術だった。
「ダメだ……長年、剣術ばかりにのめり込んでいたせいで、考えれば考えるほど魔法から遠退いてゆく」
「バカな!! 貴様……今の一撃を避けたというのか!?」
騒然となるナンダを無視し、思いにふけるギデオン。
その様子が気に食わないと当然ながら、ナンダは鼻息を荒くし怒り心頭となる。
「おのれぇぇええ……貴様もワシを弱者と蔑むのか……。ここまで力の差を見せつけても、まだ認めぬというのかぁぁ!!」
左右両腕のカランドリエが、肘側へ後退するようにスライドした……。
「滅せよ、欺瞞の種よ。インフィアリアリティ・ブローバースト」
「見えた! これが僕の魔法……僕だけが使える唯一無二の力だ……」
「カァ、ハッハハハア! 何を見出したのかは知らんが、もう手遅れだ。この お お わざ―――で……どうした? なに か が――――おか し い?」
「手遅れだと? その言葉そっくりそのまま返すぞ。不遜なのはお前の方だ、ナンダ! 僕に誰を重ねて見ていた? お前が何を引きずっているのか……興味もないし、知りたくもない。ただ……今、ここで戦っているのは僕とお前だけだ。一時でもそのことを忘れた時点で勝敗は見えている」
ズドドドドッ! ドドドドッ! 軽快な音と共にチオンチの表皮に風穴が開いていた。
「へっ? いったい……何が起きた?」事態が飲み込めず、棒立ちになるナンダの身体からは血がにじみ出していた。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる