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二百四十話
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マウントポジションをとったまま、ギデオンの連続打撃が炸裂する。
秒間ごとに刻まれる音は勢いを増してゆく。
これぞ、バネのように伸縮する筋肉と鍛え抜かれた体幹の恩恵。
人一倍、優れた持久力を持つ彼だからこそ成し得る荒技だ。
「ギデ君、ダメよ! ナンダから離れてぇ!!」
形勢はコチラに傾いている……のに何故か、アビィが叫んでいる。
有利な状況は時としてあらぬ油断を生む。
ギデオンの両拳から血飛沫が飛び散る。
「どうしてだ? という顔をしているな。クククッ、小僧! 右手を庇っているな? その状態でワシを殴っても傷一つ負わせることは叶わんぞ!!」
「どうなっているんだ……? 急に、闘気が硬化した……まるで、分厚い鉄版を殴っているかのような感覚だ」
「驚くのは、まだよ!」
ナンダが身に帯びている闘気の毛皮が、瞬時に鋭い刃となり、ギデオンに襲い掛かって来る。
身を串刺しにしようと細長く伸び出した体毛の束が微かに頬を掠める。
「よく、避けたな。なかなか、勘が鋭いようだが、気の操作は雑そのもの……これでワシに死合を求めるとはな……愚か者めがぁあぁぁぁ」
窮奇の咆哮がギデオンを弾き飛ばした。
そのまま宙で一回転し、体勢を整えると、一旦は距離をおきアビィたちの傍に着地する。
「さっき言葉、どういう意味だ? この両手といい、なにが起きたんだ?」
「ナンダも言っていたでしょっ……君と奴では気の扱い方が違う。元来、練功の流れは変幻自在だ、制限なく形状や性質を変化させられるはずなのよね。ナンダはそれを上手いこと利用しているけど、君はただ、気を投げつけているだけに過ぎない」
「どうすれば、奴の皮を剥ぐことができる?」
「極天一択、天の属性は光を弱体化させるからね~、あとは君のやり方次第だよ。さてと……ワタシたちも、やるだけやりますか!」
本当ならば、自分の手でナンダを討ち取りたい。
その一念をひた隠しにしながら、アビィは晴れやかな表情を見せていた。
振り切るというよりも、どこか諦めに近い感じだ。
かけられる言葉など見つからない。何を言っても裏目に出そうな気がする。
ただ、北の守護代を討つのがギデオンの役割だとは、はっきりと自覚している。
託された想いに応えることでしか、彼女を後悔と犠牲者の呪縛から救い出す術はなかった。
巻物を片手に持ったアビィが、兵士たちの群れに飛び込んでゆく。
どれほどの兵数を揃えていても、導士一人が恐ろしくて敵わないらしい。
アビィの乱入で、兵士たちの間にパニックが生じた。
部隊を再編成している最中での襲撃に、閑泉軍の隊列がたちまち乱れてゆく。
呆気なく陣形が機能しなくなっていた。
ナンダの知略を裏をかき、奇襲に成功するアビィ。
「誰でもいい! かかってきな」
挑発を繰り返しながら、大立ち回りをするがごとく敵兵の数を減らしていた。
だが、それは戦術と呼ぶにはお粗末であり、自滅への一歩となる。
そのことを一番、理解していたのは他ならぬナンダだった。
「貴様らぁああ! 小娘の奇策に踊らされるとは何事だ。各個、連携を取り合いアビィを取り囲め! いくら霊幻であろうとも身動きが取れなければ、畑のカカシと一緒だ!」
智将の激励ほど、厄介なものはない。
たった一言で、不利になっていた部隊が息を吹き返し反転攻勢に出た。
元より、数で圧倒しているのだ。
アビィの脅威に対して冷静に対処できれば、押し負けることなどはない。
「ナンダの奴、やってくれるわ。気負い過ぎるアビィも問題だが、そうし向けているのはナンダだ」
戦況を眺めロッティが、静かに告げる。
気になる一言に、ギデオンが声をかけようとする前に、彼の方から視線を向けてきた。
「攻撃の手を休めるな、ギデ。奴に指示を出す暇さえ与えなければ、こやつら雑兵はワスとエイルでどうにかできる」
「アビィはどうするんだ?」
「怒りで我を失いかけている。下手に止めるよりも好きに暴れさせてやれ」
「あれで……怒っているのか…………僕には、普段と雰囲気が違う程度にしか分からないけれどな」
「貴殿の犬は返すぞ。とにかく、コイツを使ってナンダの隙を狙うのだ!!」
スコルを魔銃にして受け取るとロッティへ無言で頷く。
そのまま駆けだしたギデオンは再度、窮奇の討伐を試みる。
「休憩は終わりだ! 白熊! 今度はさっきのようにはいかないぞ」
「誰がシロクマだと? どこをどう見ても虎だろうがァア――!! どこに目ぇ、つけとんだぁあ」
ガルムの銃身が吼えた。黒い炎色の魔法弾がナンダの全身を駆け巡り、一気に焼き尽くそうとする。
「ダークフレイム……おい……その猟銃、あの糞犬だよなぁ? 奪い取って真っ二つにへし折ってやるからワシに寄こせ!」
「バケモノめ、闇の炎も利かないということか……」
秒間ごとに刻まれる音は勢いを増してゆく。
これぞ、バネのように伸縮する筋肉と鍛え抜かれた体幹の恩恵。
人一倍、優れた持久力を持つ彼だからこそ成し得る荒技だ。
「ギデ君、ダメよ! ナンダから離れてぇ!!」
形勢はコチラに傾いている……のに何故か、アビィが叫んでいる。
有利な状況は時としてあらぬ油断を生む。
ギデオンの両拳から血飛沫が飛び散る。
「どうしてだ? という顔をしているな。クククッ、小僧! 右手を庇っているな? その状態でワシを殴っても傷一つ負わせることは叶わんぞ!!」
「どうなっているんだ……? 急に、闘気が硬化した……まるで、分厚い鉄版を殴っているかのような感覚だ」
「驚くのは、まだよ!」
ナンダが身に帯びている闘気の毛皮が、瞬時に鋭い刃となり、ギデオンに襲い掛かって来る。
身を串刺しにしようと細長く伸び出した体毛の束が微かに頬を掠める。
「よく、避けたな。なかなか、勘が鋭いようだが、気の操作は雑そのもの……これでワシに死合を求めるとはな……愚か者めがぁあぁぁぁ」
窮奇の咆哮がギデオンを弾き飛ばした。
そのまま宙で一回転し、体勢を整えると、一旦は距離をおきアビィたちの傍に着地する。
「さっき言葉、どういう意味だ? この両手といい、なにが起きたんだ?」
「ナンダも言っていたでしょっ……君と奴では気の扱い方が違う。元来、練功の流れは変幻自在だ、制限なく形状や性質を変化させられるはずなのよね。ナンダはそれを上手いこと利用しているけど、君はただ、気を投げつけているだけに過ぎない」
「どうすれば、奴の皮を剥ぐことができる?」
「極天一択、天の属性は光を弱体化させるからね~、あとは君のやり方次第だよ。さてと……ワタシたちも、やるだけやりますか!」
本当ならば、自分の手でナンダを討ち取りたい。
その一念をひた隠しにしながら、アビィは晴れやかな表情を見せていた。
振り切るというよりも、どこか諦めに近い感じだ。
かけられる言葉など見つからない。何を言っても裏目に出そうな気がする。
ただ、北の守護代を討つのがギデオンの役割だとは、はっきりと自覚している。
託された想いに応えることでしか、彼女を後悔と犠牲者の呪縛から救い出す術はなかった。
巻物を片手に持ったアビィが、兵士たちの群れに飛び込んでゆく。
どれほどの兵数を揃えていても、導士一人が恐ろしくて敵わないらしい。
アビィの乱入で、兵士たちの間にパニックが生じた。
部隊を再編成している最中での襲撃に、閑泉軍の隊列がたちまち乱れてゆく。
呆気なく陣形が機能しなくなっていた。
ナンダの知略を裏をかき、奇襲に成功するアビィ。
「誰でもいい! かかってきな」
挑発を繰り返しながら、大立ち回りをするがごとく敵兵の数を減らしていた。
だが、それは戦術と呼ぶにはお粗末であり、自滅への一歩となる。
そのことを一番、理解していたのは他ならぬナンダだった。
「貴様らぁああ! 小娘の奇策に踊らされるとは何事だ。各個、連携を取り合いアビィを取り囲め! いくら霊幻であろうとも身動きが取れなければ、畑のカカシと一緒だ!」
智将の激励ほど、厄介なものはない。
たった一言で、不利になっていた部隊が息を吹き返し反転攻勢に出た。
元より、数で圧倒しているのだ。
アビィの脅威に対して冷静に対処できれば、押し負けることなどはない。
「ナンダの奴、やってくれるわ。気負い過ぎるアビィも問題だが、そうし向けているのはナンダだ」
戦況を眺めロッティが、静かに告げる。
気になる一言に、ギデオンが声をかけようとする前に、彼の方から視線を向けてきた。
「攻撃の手を休めるな、ギデ。奴に指示を出す暇さえ与えなければ、こやつら雑兵はワスとエイルでどうにかできる」
「アビィはどうするんだ?」
「怒りで我を失いかけている。下手に止めるよりも好きに暴れさせてやれ」
「あれで……怒っているのか…………僕には、普段と雰囲気が違う程度にしか分からないけれどな」
「貴殿の犬は返すぞ。とにかく、コイツを使ってナンダの隙を狙うのだ!!」
スコルを魔銃にして受け取るとロッティへ無言で頷く。
そのまま駆けだしたギデオンは再度、窮奇の討伐を試みる。
「休憩は終わりだ! 白熊! 今度はさっきのようにはいかないぞ」
「誰がシロクマだと? どこをどう見ても虎だろうがァア――!! どこに目ぇ、つけとんだぁあ」
ガルムの銃身が吼えた。黒い炎色の魔法弾がナンダの全身を駆け巡り、一気に焼き尽くそうとする。
「ダークフレイム……おい……その猟銃、あの糞犬だよなぁ? 奪い取って真っ二つにへし折ってやるからワシに寄こせ!」
「バケモノめ、闇の炎も利かないということか……」
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