異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
240 / 362

二百四十話

しおりを挟む
 マウントポジションをとったまま、ギデオンの連続打撃が炸裂する。
 秒間ごとに刻まれる音は勢いを増してゆく。
 これぞ、バネのように伸縮する筋肉と鍛え抜かれた体幹の恩恵。
 人一倍、優れた持久力を持つ彼だからこそ成し得る荒技だ。

「ギデ君、ダメよ! ナンダから離れてぇ!!」

 形勢はコチラに傾いている……のに何故か、アビィが叫んでいる。
 有利な状況は時としてあらぬ油断を生む。
 ギデオンの両拳から血飛沫ちしぶきが飛び散る。

「どうしてだ? という顔をしているな。クククッ、小僧! 右手を庇っているな? その状態でワシを殴っても傷一つ負わせることは叶わんぞ!!」

「どうなっているんだ……? 急に、闘気が硬化した……まるで、分厚い鉄版を殴っているかのような感覚だ」

「驚くのは、まだよ!」

 ナンダが身に帯びている闘気の毛皮が、瞬時に鋭い刃となり、ギデオンに襲い掛かって来る。
 身を串刺しにしようと細長く伸び出した体毛の束が微かに頬を掠める。

「よく、避けたな。なかなか、勘が鋭いようだが、気の操作は雑そのもの……これでワシに死合を求めるとはな……愚か者めがぁあぁぁぁ」

 窮奇の咆哮ほうこうがギデオンを弾き飛ばした。
 そのまま宙で一回転し、体勢を整えると、一旦は距離をおきアビィたちの傍に着地する。

「さっき言葉、どういう意味だ? この両手といい、なにが起きたんだ?」

「ナンダも言っていたでしょっ……君と奴では気の扱い方が違う。元来、練功の流れは変幻自在だ、制限なく形状や性質を変化させられるはずなのよね。ナンダはそれを上手いこと利用しているけど、君はただ、気を投げつけているだけに過ぎない」

「どうすれば、奴の皮を剥ぐことができる?」

「極天一択、天の属性は光を弱体化させるからね~、あとは君のやり方次第だよ。さてと……ワタシたちも、やるだけやりますか!」

 本当ならば、自分の手でナンダを討ち取りたい。
 その一念をひた隠しにしながら、アビィは晴れやかな表情を見せていた。
 振り切るというよりも、どこか諦めに近い感じだ。

 かけられる言葉など見つからない。何を言っても裏目に出そうな気がする。
 ただ、北の守護代を討つのがギデオンの役割だとは、はっきりと自覚している。
 託された想いに応えることでしか、彼女を後悔と犠牲者の呪縛から救い出す術はなかった。

 巻物を片手に持ったアビィが、兵士たちの群れに飛び込んでゆく。
 どれほどの兵数を揃えていても、導士一人が恐ろしくて敵わないらしい。
 アビィの乱入で、兵士たちの間にパニックが生じた。
 部隊を再編成している最中での襲撃に、閑泉軍の隊列がたちまち乱れてゆく。

 呆気なく陣形が機能しなくなっていた。
 ナンダの知略を裏をかき、奇襲に成功するアビィ。

「誰でもいい! かかってきな」

 挑発を繰り返しながら、大立ち回りをするがごとく敵兵の数を減らしていた。
 だが、それは戦術と呼ぶにはお粗末であり、自滅への一歩となる。
 そのことを一番、理解していたのは他ならぬナンダだった。

「貴様らぁああ! 小娘の奇策に踊らされるとは何事だ。各個、連携を取り合いアビィを取り囲め! いくら霊幻であろうとも身動きが取れなければ、畑のカカシと一緒だ!」

 智将の激励ほど、厄介なものはない。
 たった一言で、不利になっていた部隊が息を吹き返し反転攻勢に出た。
 元より、数で圧倒しているのだ。
 アビィの脅威に対して冷静に対処できれば、押し負けることなどはない。

「ナンダの奴、やってくれるわ。気負い過ぎるアビィも問題だが、そうし向けているのはナンダだ」

 戦況を眺めロッティが、静かに告げる。
 気になる一言に、ギデオンが声をかけようとする前に、彼の方から視線を向けてきた。

「攻撃の手を休めるな、ギデ。奴に指示を出す暇さえ与えなければ、こやつら雑兵はワスとエイルでどうにかできる」

「アビィはどうするんだ?」

「怒りで我を失いかけている。下手に止めるよりも好きに暴れさせてやれ」

「あれで……怒っているのか…………僕には、普段と雰囲気が違う程度にしか分からないけれどな」

「貴殿の犬は返すぞ。とにかく、コイツを使ってナンダの隙を狙うのだ!!」

 スコルを魔銃にして受け取るとロッティへ無言で頷く。
 そのまま駆けだしたギデオンは再度、窮奇の討伐を試みる。

「休憩は終わりだ! 白熊! 今度はさっきのようにはいかないぞ」

「誰がシロクマだと? どこをどう見ても虎だろうがァア――!! どこに目ぇ、つけとんだぁあ」

 ガルムの銃身が吼えた。黒い炎色の魔法弾がナンダの全身を駆け巡り、一気に焼き尽くそうとする。

「ダークフレイム……おい……その猟銃、あの糞犬だよなぁ? 奪い取って真っ二つにへし折ってやるからワシに寄こせ!」

「バケモノめ、闇の炎も利かないということか……」 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

【 完 結 】言祝ぎの聖女

しずもり
ファンタジー
聖女ミーシェは断罪された。 『言祝ぎの聖女』の座を聖女ラヴィーナから不当に奪ったとして、聖女の資格を剥奪され国外追放の罰を受けたのだ。 だが、隣国との国境へ向かう馬車は、同乗していた聖騎士ウィルと共に崖から落ちた。 誤字脱字があると思います。見つけ次第、修正を入れています。 恋愛要素は完結までほぼありませんが、ハッピーエンド予定です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...