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二百三十二話
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「アッハア……まさか、君がここまで堪え性ではなかったとは思わなかったよ」
「よく言う……僕が見て見ぬふりができないのを分かっていて巻き込んだな! こっちはロッティとの契約すらまだまとまっていないというのに」
「お喋りの続きは後よ。今はコイツら片づけるのが先決よ!」
騒ぎを聞きつけた役人たちが続々と集まってきた。
弓を持つ者が四人。剣をたずさえた者が七人。
辺りを警戒しながら、犯人を捜している。
ギデオンが狙撃したポイントは、洞窟を出てすぐ右手にある窪地からだった。
身を低くし伏せれば丁度、姿が隠せられ、敵に気づかれにくい。
またロングレンジで狙ったこともあり、すぐに出入口の方を調べようとする者はいなかった。
とはいえ、身を隠すことができる場所は限られている。
敵に居場所が特定されるのも時間の問題だろう。
ギデオンたちにとって何が一番、困難な障害となるか……それは、採掘場で重労働させられている人々だ。
ナンダの息がかかっている者たちが、彼らのそばにいる限りに、人質を取られているのと同様だ。
そうさせないためにも、残り十一人を電撃戦で処理しなければならない。
「ギデ君、弓の奴らを頼むよ。帯刀している連中はワタシがどうにかするからさ」
「待った! 奴らもバカじゃない。互いに距離を置くことで幅広く、侵入者の動きを察知し、誰かが襲撃を受けたら即座にフォローし合えるように陣取っている」
「だから何? 相手が気づくことなく事が運べばいいだけでしょ? 禁術、可視! 我を瞳に宿すことを禁ずる」
自身の身体に術を施したアビィが視界から突如として消えた。
どうやら、ギデオンの思い過ごしで済みそうだ。
気配まで絶てば、誰一人としてアビィの位置は特定できない。
「があっ!」二人目の悲鳴が上がった。
それを皮切りに残りの面子も喉元を刃物で斬られ、周囲を鮮血で染めながら散ってゆく。
弓師たちは、事態がのみこめないまま物見櫓へと退避している。
完全に防御体勢が機能していない。
隙だらけとなった相手を狩るのは、造作もないことである。
バハムートによる四連速射で役人たちを手傷を負わせ、行動不能にした。
ギデオンとアビィはものの五分足らずで採掘場を制圧してしまった。
「なっ、なんて…………ことをしてくれたんだぁぁ!! お前たち、もう生きて平穏な日々を過ごせるとおもうなよ!!」
重労働から解放されたはずの人々から拍手喝采されるどころか、罵倒が飛び交ってきた。
皆がここまで否定してくるのには、ちゃんしたと理由がある。
彼らは全員、北の守護代ナンダの報復を恐れていた。
ここいる連中は、末端の存在でしかない。
ナンダの手下は北域全域に散らばっている。
執念深く、陰湿なナンダに睨まれれば、それこそ逃げ場がなくなるとまで言われている。
一生、追われ続ける生活を誰が望むというのだろう?
例え間違った方法でも、人は追い詰められた時にこそ何かに縋ろうとする。
それが、自分を苦しめる悪であってもだ。
「無駄足だったと思う?」
「それをアンタが訊くのか……ああいう輩は放っておけよ。自分のことしか、今は考えられないんだろう。それよりアンタが何を企んでいるのか、話してもらうぞ」
ギデオンの問いにアビィは肩をすくめた。
あまり、詮索して欲しくはなさそうな身振りではあるが、一々、応じるわけにもいかない。
「ここにいる連中が何を掘っているのか? 分かるかい。不老不死の源泉を探しているんだ」
「不老不死だと、そんなのおとぎ話でしか聞いたことないぞ、馬鹿げている!!」
「そのバカをやってのけようとしているのが、ナンダなのさ。現にこの霊峰の温泉には肉体の治癒力を促進させる効能がある。奴が不老不死を求める理由は、単純に一つ。それが金になるからさ! 温泉の効能を拡大解釈して、自国他国、問わず金持ち相手に長寿の水と謳って温泉の水を売っているんだ」
「耳を疑いたくなる話だな。本当に長生きできると言い切れる保証はないだろうに。その水を買う連中の気が知れない。どうして、言葉巧みにに惑わされ信用してしまうんだ?」
眉をひそめる少年の素朴な疑問に、アビィは答えなければいけなかった。
純粋過ぎる物事の考え方は、今後、彼の理性を狂わせてしまう危険性がある。
人の心理とは何か……? それを知っているのと知らないのでは、世界の見方がまるっきり異なる。
「こういうモンは、正しいとか間違っているとかではないんだよ。いいかい、人というのは自らにとって都合の良い現実を選択しようとする生物なんだ。モノの解釈にしてもそう、無意識のうちに自分が求めている物を想像で生み出してしまうんだ。それは決して悪いことでも、過ったことでもない。ただ……この世界にはナンダのように人の心理の隙をついて悪事を働く極悪人がいる。ワタシたちは、そいつらを許さない……許してはならないんだ!!」
「よく言う……僕が見て見ぬふりができないのを分かっていて巻き込んだな! こっちはロッティとの契約すらまだまとまっていないというのに」
「お喋りの続きは後よ。今はコイツら片づけるのが先決よ!」
騒ぎを聞きつけた役人たちが続々と集まってきた。
弓を持つ者が四人。剣をたずさえた者が七人。
辺りを警戒しながら、犯人を捜している。
ギデオンが狙撃したポイントは、洞窟を出てすぐ右手にある窪地からだった。
身を低くし伏せれば丁度、姿が隠せられ、敵に気づかれにくい。
またロングレンジで狙ったこともあり、すぐに出入口の方を調べようとする者はいなかった。
とはいえ、身を隠すことができる場所は限られている。
敵に居場所が特定されるのも時間の問題だろう。
ギデオンたちにとって何が一番、困難な障害となるか……それは、採掘場で重労働させられている人々だ。
ナンダの息がかかっている者たちが、彼らのそばにいる限りに、人質を取られているのと同様だ。
そうさせないためにも、残り十一人を電撃戦で処理しなければならない。
「ギデ君、弓の奴らを頼むよ。帯刀している連中はワタシがどうにかするからさ」
「待った! 奴らもバカじゃない。互いに距離を置くことで幅広く、侵入者の動きを察知し、誰かが襲撃を受けたら即座にフォローし合えるように陣取っている」
「だから何? 相手が気づくことなく事が運べばいいだけでしょ? 禁術、可視! 我を瞳に宿すことを禁ずる」
自身の身体に術を施したアビィが視界から突如として消えた。
どうやら、ギデオンの思い過ごしで済みそうだ。
気配まで絶てば、誰一人としてアビィの位置は特定できない。
「があっ!」二人目の悲鳴が上がった。
それを皮切りに残りの面子も喉元を刃物で斬られ、周囲を鮮血で染めながら散ってゆく。
弓師たちは、事態がのみこめないまま物見櫓へと退避している。
完全に防御体勢が機能していない。
隙だらけとなった相手を狩るのは、造作もないことである。
バハムートによる四連速射で役人たちを手傷を負わせ、行動不能にした。
ギデオンとアビィはものの五分足らずで採掘場を制圧してしまった。
「なっ、なんて…………ことをしてくれたんだぁぁ!! お前たち、もう生きて平穏な日々を過ごせるとおもうなよ!!」
重労働から解放されたはずの人々から拍手喝采されるどころか、罵倒が飛び交ってきた。
皆がここまで否定してくるのには、ちゃんしたと理由がある。
彼らは全員、北の守護代ナンダの報復を恐れていた。
ここいる連中は、末端の存在でしかない。
ナンダの手下は北域全域に散らばっている。
執念深く、陰湿なナンダに睨まれれば、それこそ逃げ場がなくなるとまで言われている。
一生、追われ続ける生活を誰が望むというのだろう?
例え間違った方法でも、人は追い詰められた時にこそ何かに縋ろうとする。
それが、自分を苦しめる悪であってもだ。
「無駄足だったと思う?」
「それをアンタが訊くのか……ああいう輩は放っておけよ。自分のことしか、今は考えられないんだろう。それよりアンタが何を企んでいるのか、話してもらうぞ」
ギデオンの問いにアビィは肩をすくめた。
あまり、詮索して欲しくはなさそうな身振りではあるが、一々、応じるわけにもいかない。
「ここにいる連中が何を掘っているのか? 分かるかい。不老不死の源泉を探しているんだ」
「不老不死だと、そんなのおとぎ話でしか聞いたことないぞ、馬鹿げている!!」
「そのバカをやってのけようとしているのが、ナンダなのさ。現にこの霊峰の温泉には肉体の治癒力を促進させる効能がある。奴が不老不死を求める理由は、単純に一つ。それが金になるからさ! 温泉の効能を拡大解釈して、自国他国、問わず金持ち相手に長寿の水と謳って温泉の水を売っているんだ」
「耳を疑いたくなる話だな。本当に長生きできると言い切れる保証はないだろうに。その水を買う連中の気が知れない。どうして、言葉巧みにに惑わされ信用してしまうんだ?」
眉をひそめる少年の素朴な疑問に、アビィは答えなければいけなかった。
純粋過ぎる物事の考え方は、今後、彼の理性を狂わせてしまう危険性がある。
人の心理とは何か……? それを知っているのと知らないのでは、世界の見方がまるっきり異なる。
「こういうモンは、正しいとか間違っているとかではないんだよ。いいかい、人というのは自らにとって都合の良い現実を選択しようとする生物なんだ。モノの解釈にしてもそう、無意識のうちに自分が求めている物を想像で生み出してしまうんだ。それは決して悪いことでも、過ったことでもない。ただ……この世界にはナンダのように人の心理の隙をついて悪事を働く極悪人がいる。ワタシたちは、そいつらを許さない……許してはならないんだ!!」
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