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二百三十話
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突如として、かしこまるオートマタのエイル。
何故、自分を主として認めたのか分からないギデオンは、頭の中がホワイトアウトしていた。
「君が、その子を打ち負かしたからじゃない?」
背後からアビィの声がした。
言われてみれば、思い当たるフシはそこしかない。
だからと言ってオートマタの扱い方など知らない。
ギデオンは髪の毛をワシャと掴み、ため息をつく。
彼にとっては急にマスター呼ばわりされても困惑する案件でしかなかった。
「自分よりも強者に対して従順になるという仕組みなのか? いや、それなら戦いに敗れる度に主が変わってしまうということになる……もしかして、初期設定状態だったということか!」
「ど…………どいうことだ。何故、ワスのエイルが他の者になびく……やはり、若さか! オートマタでも若い方がいいということなんか!?」
「いや……それは、無いだろう」
ギデオンと同様、またはそれ以上にショックを受けていた男がいた。
オートマタを持ち込んできた張本人、ロッティである。
嫉妬で床をドンドン殴りつける様に、近くにいた二人も、どう声掛けすればいいのか? 戸惑っていた。
「ウダウダ、イジケてないで、直で聞けば? 本人いるんだし」
考えるのが面倒になったのだろう。
アビィが大っぴらに言う。
的確で無駄のない意見だが……エイルの言葉次第ではロッティが再起不能になるかもしれない。
ちらりと当人の方へと視線を向ける。
「構わん……ギデよ、エイルから本音を聞いてくれ。いかなる、事実も受け入れる覚悟はできておるわ」
断言した割には、ロッティの眼が泳いでいた。
あまり気乗りしないが、しこりを残しておいても仕方ない。
周囲の要望どおり「どうして、僕をマスターに選んだんだ?」そうエイルに尋ねてみた。
硝子細工のように透き通った瞳が瞬きすることなく、主を見詰める。
「それは、他ならぬセブナリス、エイルの意思です。我々の学習システムデータは他の姉妹機と共有しております。このシステムを創造主は、楯の意思と呼んでいました。その楯の意思が貴方を最適任者と選んだのです」
「つまり、僕が暴走したお前を止めたことが原因ではないというのか?」
「…………申し訳ございません。そのような記録は残っておりません。さきほども、お伝えしたとおり、このエイルを必要し、本来の役割通りに使いこなせる人物を検索した結果、マスター……貴方が選ばれたのです」
「選ばれた理由が知りたいんだが……。そういうことだってよ、おっさん! って……しっかりしろよ!!」
振り向くと白目を向いて失神しているロッティがいた。
よほど、ショックだったらしい。
どうあってもエイルのマスターにはなれないと知ってしまった以上、そのメンタルは脆く崩れてゆく。
悲壮感しか漂わないオブジェと化した科学者を見ながら、エールの入ったジョッキ片手にアビィは「乾杯」と囁いていた。
ほどほどに酔いが回っているらしく、気持ちが浮き立っている。
不謹慎な行いをしても、悪意がないから余計、厄介だ。
「ん? 何、どしたの?」
「いつまで、バスタオル一枚でいるつもりだ……風邪をひくぞ」
「はいはい、君は親みたいなことを。あっ! そうそう、明日から麓に下りるから荷支度するんだよ~君たち」
「どこへ行く予定なんだ?」
「それは着いてのお楽しみ~。じゃ、オヤスミ~」
オートマタに然程、興味がないようだ。アビィは粗方要件を伝えると満足して倉庫を出ていった。
部屋に残されたギデオンは、一人でエイルの面倒をみなくてはならない。
未だ意識の戻らないロッティに布団をかけながら、エイルの方を窺う。
立膝の姿勢のまま、一ミリも動いていない。
おそらく、ギデオンが指示を出さなければこのままであろう。
「エイル、少し辺りを散歩しよう。僕について来てくれ」
「了解しました、マスター」
「はぁ~、取り敢えずマスター呼びからどうにかしないとな」
両腕を組みつつ、項垂れながらもギデオンはエイルは外に連れ出した。
本来なら夜間帯でも、夜がないこの地域では、いつ散歩しても色鮮やかな紅葉を目にすることができる。
話をするのなら、うってつけのロケーションだが、それは人の感性であり機械には理解できない繊細な感情だ。
これもまた運命の巡り合わせなのだろう。
彼女が主と定めてしまった以上は、受け入れるしかない。
見捨てるのは簡単だった……しかし、見捨てられた者の想いを痛いほど知っているギデオンが、エイルを放っておけるわけもなかった。
とにかく対話だ。感情がないとはいえ、意思はある。
会話することで互いの理解を深め合うことは、これから共に行動する為には必要なプロセスだ。
自分で何かを決められる以上、エイルは個として成り立っていた。
そこに生物か、どうかの是非はなく隔たりもない。
ギデオンはそのように考えていた。
何故、自分を主として認めたのか分からないギデオンは、頭の中がホワイトアウトしていた。
「君が、その子を打ち負かしたからじゃない?」
背後からアビィの声がした。
言われてみれば、思い当たるフシはそこしかない。
だからと言ってオートマタの扱い方など知らない。
ギデオンは髪の毛をワシャと掴み、ため息をつく。
彼にとっては急にマスター呼ばわりされても困惑する案件でしかなかった。
「自分よりも強者に対して従順になるという仕組みなのか? いや、それなら戦いに敗れる度に主が変わってしまうということになる……もしかして、初期設定状態だったということか!」
「ど…………どいうことだ。何故、ワスのエイルが他の者になびく……やはり、若さか! オートマタでも若い方がいいということなんか!?」
「いや……それは、無いだろう」
ギデオンと同様、またはそれ以上にショックを受けていた男がいた。
オートマタを持ち込んできた張本人、ロッティである。
嫉妬で床をドンドン殴りつける様に、近くにいた二人も、どう声掛けすればいいのか? 戸惑っていた。
「ウダウダ、イジケてないで、直で聞けば? 本人いるんだし」
考えるのが面倒になったのだろう。
アビィが大っぴらに言う。
的確で無駄のない意見だが……エイルの言葉次第ではロッティが再起不能になるかもしれない。
ちらりと当人の方へと視線を向ける。
「構わん……ギデよ、エイルから本音を聞いてくれ。いかなる、事実も受け入れる覚悟はできておるわ」
断言した割には、ロッティの眼が泳いでいた。
あまり気乗りしないが、しこりを残しておいても仕方ない。
周囲の要望どおり「どうして、僕をマスターに選んだんだ?」そうエイルに尋ねてみた。
硝子細工のように透き通った瞳が瞬きすることなく、主を見詰める。
「それは、他ならぬセブナリス、エイルの意思です。我々の学習システムデータは他の姉妹機と共有しております。このシステムを創造主は、楯の意思と呼んでいました。その楯の意思が貴方を最適任者と選んだのです」
「つまり、僕が暴走したお前を止めたことが原因ではないというのか?」
「…………申し訳ございません。そのような記録は残っておりません。さきほども、お伝えしたとおり、このエイルを必要し、本来の役割通りに使いこなせる人物を検索した結果、マスター……貴方が選ばれたのです」
「選ばれた理由が知りたいんだが……。そういうことだってよ、おっさん! って……しっかりしろよ!!」
振り向くと白目を向いて失神しているロッティがいた。
よほど、ショックだったらしい。
どうあってもエイルのマスターにはなれないと知ってしまった以上、そのメンタルは脆く崩れてゆく。
悲壮感しか漂わないオブジェと化した科学者を見ながら、エールの入ったジョッキ片手にアビィは「乾杯」と囁いていた。
ほどほどに酔いが回っているらしく、気持ちが浮き立っている。
不謹慎な行いをしても、悪意がないから余計、厄介だ。
「ん? 何、どしたの?」
「いつまで、バスタオル一枚でいるつもりだ……風邪をひくぞ」
「はいはい、君は親みたいなことを。あっ! そうそう、明日から麓に下りるから荷支度するんだよ~君たち」
「どこへ行く予定なんだ?」
「それは着いてのお楽しみ~。じゃ、オヤスミ~」
オートマタに然程、興味がないようだ。アビィは粗方要件を伝えると満足して倉庫を出ていった。
部屋に残されたギデオンは、一人でエイルの面倒をみなくてはならない。
未だ意識の戻らないロッティに布団をかけながら、エイルの方を窺う。
立膝の姿勢のまま、一ミリも動いていない。
おそらく、ギデオンが指示を出さなければこのままであろう。
「エイル、少し辺りを散歩しよう。僕について来てくれ」
「了解しました、マスター」
「はぁ~、取り敢えずマスター呼びからどうにかしないとな」
両腕を組みつつ、項垂れながらもギデオンはエイルは外に連れ出した。
本来なら夜間帯でも、夜がないこの地域では、いつ散歩しても色鮮やかな紅葉を目にすることができる。
話をするのなら、うってつけのロケーションだが、それは人の感性であり機械には理解できない繊細な感情だ。
これもまた運命の巡り合わせなのだろう。
彼女が主と定めてしまった以上は、受け入れるしかない。
見捨てるのは簡単だった……しかし、見捨てられた者の想いを痛いほど知っているギデオンが、エイルを放っておけるわけもなかった。
とにかく対話だ。感情がないとはいえ、意思はある。
会話することで互いの理解を深め合うことは、これから共に行動する為には必要なプロセスだ。
自分で何かを決められる以上、エイルは個として成り立っていた。
そこに生物か、どうかの是非はなく隔たりもない。
ギデオンはそのように考えていた。
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