異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百二十九話

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 古代の魔導科学技術の粋。
 その集大成こそが、セブナリスと呼ばれる人型汎用殲滅兵器のオートマタであると古文書には記されている。
 どうして人に似せたのか? その部分は未だ解明されていない。
 セブナリスシリーズは、すべて女性型であり、この眠り姫と呼ばれる一体もその内の一つだ。
 無論、多様性に富んだ機械人形だ。
 セブナリス以外にも男性型や子供型も存在していたらしい。

 我がもの顔でロッティが説明してくれたおかげで、ギデオンも少しだけ機械マシナリーについて知ることができた。
 現在、魔力でのエネルギー供給ができない彼女は、本当に眠ったままだった。
 以外にも稼働停止している間は、まぶたを閉ざしている。

「セブナリスシリーズは、単なる兵器として製造されたわけじゃなさそうだな」

 ギデオンの何気ない一言に科学者は、作業の手を止めて「ウム」と唸った。

「貴殿もそこに至ったか! ワスも同感だ。兵器なら戦闘機能だけ付与するほうが断然、扱いやすい。コヤツには、あたかも人と同様、日常生活において必要な機能が備わっておる」

「つまり、彼女の作成者は人間に近い存在を造ろうしていた……そう考えるのが自然だろうな」

「ワスの想像では、もとは愛玩用に造られて途中で兵器として開発する必要が生じたのだろう」

「メサイヤ戦争か……人類史上初めて魔族と対立した大戦。そこに再生の女神ミルティナスや六神将たちも加わったとされている。時代的にも、オートマタがこの戦で活躍したのは間違いない」

 鼻頭に指をそえて思案するギデオンを見て、ロッティは感動すら覚えていた。
 ただの戦闘狂だと勘違いしてしまうほど、戦いに貪欲な少年がこうして科学や歴史に興味を抱いている。
 しかも、それなりの学を持っている。
 科学者にとって、学術の話題に花が咲くことは愉しみであり、有意義なことでもある。
 大抵の場合は、価値観を共有できず孤立してしまうという苦い経験から、余計に他者との間に壁や溝ができてしまいがちだ。
 だからこそ、話せる相手がいるだけでつい嬉しくなってしまう……知識人のさがである。

「よし、蜜酒を注入し終えたぞ。これは眠り姫にとって最高の燃料だ。化石燃料のように汚れたりしない、燃費も優れている! まっ、それを発見したワスの才能こそが凄まじいのだがな!」

「自己陶酔は結構だが、本気で再稼働させるつもりか? また、襲ってきたらどうするんだ!?」

「じ……自分に酔っているわけではないぞ! 案ずるな……永久炉が動いていないのなら、こちら側から強制停止をかけられる。あと、起動するか、しないか? 決定するのはワスだからな! ワス!」

「子供か……分かったよ、任せる。だから見せてくれよ、天才とやらの実力を」

「ひょひょう! 腰を抜かすなよ、それぃスイッチオン!!」

 手足を折り畳んだまま床に配備されていたクロオリ。
 その背中にあるレバーが持ち上げられるとバチバチと電流が音を立てた。
 クロオリとケーブルコードでつながっている姫に通電すると、ピロリィンという起動音と共に閉じていたまぶたが開き瞳に光沢が宿ってゆく。
 ギギィと微かに首元が震動し、やがて彼女の小さな唇が動き出した。

「システムオールグリーン、コンディションオッケィ、セーフティモード起動…………コード、002……セブナリス、エイル起動開始します!」

「うひょおおおおお!! しゃべったぁ! 初めて言葉を発したぞぉぉおお。ワスのオートマタがあぁああああああ――――!!」

「いや、落着けよ! オッサン。まだ、問題ないと決まったわけじゃないだろうが!!」

 オートマタである彼女が初めて会話し自ら名乗り上げた。
 狂喜乱舞しながらエイルを「ワスの最高傑作が完成した」と指さしまくる中年の姿は、そこそこドン引きする。
 喜ぶ気持ちは分からなくもない。
 が、こうも大ハシャギしていては家長であるアビィが黙ってはいない。
 ここへ、すっ飛んでくるのは目に見えている。

「……にしても変だな?」

「変とはいかに? とくと見よ、この光輝くボディを。本物の乙女の柔肌と何ら変わらん、スベスベだぞ!」

「それ以上は余計なことを言わないでくれ、いかがわしく聞こえる……僕が変だと言ったのは、テレパス機能を使用しなくなったことと、襲ってきた時は別人のような感じがすることだ」

「テレパス? そのような機能はコヤツにはないぞ。大方、幻聴でも聞いたのであろう! 悩みがあるなら相談に乗るぞ、のう? エイルよ」

 ロッティが触れようとして手を伸ばすと、エイルが容赦なくその手をパァンと叩いた。

「あ、いたぁぁあっ!!」

 叩かれた手の甲をさすりながらも、近づこうとすると今度は片足を踏まれた。
 ロッティは無言で、その場にうずくまり動かなくなってしまった。

 自身を修復した相手だと理解できていないようだ。
 エイルの視線は終始ギデオンだけを捉えて離さなかった。

「くっ、お礼参りのつもりか!」
 歩み寄ってくるオートマタ。
 さすがに危険を感じ、ギデオンは咄嗟に身構えた。
 すると、エイルは片膝を床につき深々と頭を下げた。

「認証完了、これより貴方をマスターとします」 
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