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二百二十八話
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「やぁ、お疲れ~ん。首尾どうだった?」
邪龍討伐を見事に果たし帰還すると、ロッジの裏手からアビィの声がした。
なるべく、気取られないように気配を抑えていたのに関わらず、容易に察知してくる鋭さ。
あらためて、三大導士の凄さに驚かされながらも、ギデオンは戦利品を片手に彼女のもとへと向かった。
辺り一面に立ち込める湯煙の中、アビィは上機嫌に手を振っていた。
「……昼間から温泉につかりながら、一杯ひっかけるとは良い御身分だな。こっちは、ようやっと討伐終了したっていうのに」
「そう愚痴らない、愚痴らない。君も一風呂どうだい? 気分、爽快! リフレッシュするよ」
「いや、アンタは恥じらいを持てくれ。よく、人前で抵抗なく肌をさらせるな」
「まあまあ、良いじゃないの~。別に減るわけでもないし」
「こっちは、気を擦り減すばかりなんだが……」
頭を垂れて、額に手をあてがうギデオンを見ながら、アビィはエールを一気に飲み干す。
無類の酒好きで、食事よりも酒を飲んでいる印象しかない。
しかも、酒豪だ。しこたま飲んでも、酔いつぶれることがない。
蜜酒については、すでにアビィには説明していた。
現物を一目見るなり、大喜びするかと思いきや「コイツはヤバイ奴じゃん」と思いっきり嫌な顔をされた。
アビィ、いわく酒の類と認めないとのこと。神酒、仙水は人体には有毒だと敬遠してきた。
飲んでも平気なのはギデオンぐらいなものだ。
ここに来てから、また蜜酒を溜め始めていたが、以前よりも一日で得られる量が増えてきた。
三日もあれば聖水瓶の半分は溜まる。
色々と試してみたが、飲めば、消耗した気を回復させる効果があることを発見した。
しかしながら、用途に制限があるため、正直なところ持て余してしまっていた。
丁度、その時に朗報が舞い込んできた。
科学者のロッティである。どうしても蜜酒が必要だとギデオンにせがんできた。
「スカラードラゴンのエリマキに、ベルキュールの羽かぁ~。素材ランクA、当分、金銭には困らないわね」
ギデオンが袋から取り出した素材を眺めながら、導士は眼元を細める。
大元は、才ある者を育て導くのが導士としての役割だと言っていた。
ならば、アビィも同じ志でギデオンの成長を促したと言っていいのであろうか?
少なくとも本人の口からは、考えを聞き取れていない。
何を想い、どうやって王位継承戦という盤上を動かそうとしているのかは、見当もつかない。
ただ、それを知っていそうな人物が近くに一人だけいる。
「じゃあ、僕は蜜酒を届けにいくから」
「ギデ君、今回の依頼は君の昇級試験も兼ねていたんだ。合格よ、おめでとう!」
「ああ、そこまで気を回してくれなくもいいさ。どのみち、僕には必要なことだからね」
「ったく、素直じゃないんだから。こういう時は、喜ぶべきだとお姉さんは思うなぁ~」
「喜ぶ? すべてが終わらない限り、それは赦されないことだ」
背を向け、ギデオンはその場から立ち去っていった。
どことなく愁いを帯びている背を見詰めながらアビィは囁いた。
「次はチオンチだよ、ギデ君」
ギデオンがその足で倉庫に向かうと中から、騒がしい音がした。
まるで倉庫内の荷が崩れ落ちたかのような物音に急ぎ扉を開けると、クロオリの下から「助けてくぇ……」と微弱な嘆きが聞こえてきた。
「また、挟まっているのか……このオッサンは」
半ば、呆れつつも練功をまとった左手でクロオリを持ち上げてやる。
床を這いつくばりながらも、ロッティはどうにか窮地を出した。
ずっと、徹夜続きで作業をしていたようだ、その眼は真っ赤に充血している。
「おおっ、ギデか! 待っておったぞ。こちらは何とか、準備が整え終わったぞ」
「どうして、クロオリの下敷きになっていたんだ?」
「うひょひょ、クロオリには眠り姫用のメンテナンスシステムが組み込んであるのよ。いやー、ワスって天才! もし、これがなければラボ以外の場所で眠り姫の補修なんぞ、できんかったわい」
「アンタ、本当に科学技術の面で飛び抜けているだな。こんな複雑な機械、大陸横断列車や魔導四輪でしか見たことがない」
「ちっち! そんな中途半端もんじゃないぞ。クロオリと姫は古代遺産でありながらも、先進的な技術で開発されている。ゆえにワスでも、ほんの数パーセントぐらいしか解析できておらんのよ。今回、お前さんが姫の動力炉を破壊してくれたおかげで、永久機関が機能しなくなっちまった。予備の動力がついていなければ、骨董品なってしまうところだったぞ!」
「それで、コイツが用入りだと言うわけか」蜜酒の入った小瓶をロッティに手渡した。
邪龍討伐を見事に果たし帰還すると、ロッジの裏手からアビィの声がした。
なるべく、気取られないように気配を抑えていたのに関わらず、容易に察知してくる鋭さ。
あらためて、三大導士の凄さに驚かされながらも、ギデオンは戦利品を片手に彼女のもとへと向かった。
辺り一面に立ち込める湯煙の中、アビィは上機嫌に手を振っていた。
「……昼間から温泉につかりながら、一杯ひっかけるとは良い御身分だな。こっちは、ようやっと討伐終了したっていうのに」
「そう愚痴らない、愚痴らない。君も一風呂どうだい? 気分、爽快! リフレッシュするよ」
「いや、アンタは恥じらいを持てくれ。よく、人前で抵抗なく肌をさらせるな」
「まあまあ、良いじゃないの~。別に減るわけでもないし」
「こっちは、気を擦り減すばかりなんだが……」
頭を垂れて、額に手をあてがうギデオンを見ながら、アビィはエールを一気に飲み干す。
無類の酒好きで、食事よりも酒を飲んでいる印象しかない。
しかも、酒豪だ。しこたま飲んでも、酔いつぶれることがない。
蜜酒については、すでにアビィには説明していた。
現物を一目見るなり、大喜びするかと思いきや「コイツはヤバイ奴じゃん」と思いっきり嫌な顔をされた。
アビィ、いわく酒の類と認めないとのこと。神酒、仙水は人体には有毒だと敬遠してきた。
飲んでも平気なのはギデオンぐらいなものだ。
ここに来てから、また蜜酒を溜め始めていたが、以前よりも一日で得られる量が増えてきた。
三日もあれば聖水瓶の半分は溜まる。
色々と試してみたが、飲めば、消耗した気を回復させる効果があることを発見した。
しかしながら、用途に制限があるため、正直なところ持て余してしまっていた。
丁度、その時に朗報が舞い込んできた。
科学者のロッティである。どうしても蜜酒が必要だとギデオンにせがんできた。
「スカラードラゴンのエリマキに、ベルキュールの羽かぁ~。素材ランクA、当分、金銭には困らないわね」
ギデオンが袋から取り出した素材を眺めながら、導士は眼元を細める。
大元は、才ある者を育て導くのが導士としての役割だと言っていた。
ならば、アビィも同じ志でギデオンの成長を促したと言っていいのであろうか?
少なくとも本人の口からは、考えを聞き取れていない。
何を想い、どうやって王位継承戦という盤上を動かそうとしているのかは、見当もつかない。
ただ、それを知っていそうな人物が近くに一人だけいる。
「じゃあ、僕は蜜酒を届けにいくから」
「ギデ君、今回の依頼は君の昇級試験も兼ねていたんだ。合格よ、おめでとう!」
「ああ、そこまで気を回してくれなくもいいさ。どのみち、僕には必要なことだからね」
「ったく、素直じゃないんだから。こういう時は、喜ぶべきだとお姉さんは思うなぁ~」
「喜ぶ? すべてが終わらない限り、それは赦されないことだ」
背を向け、ギデオンはその場から立ち去っていった。
どことなく愁いを帯びている背を見詰めながらアビィは囁いた。
「次はチオンチだよ、ギデ君」
ギデオンがその足で倉庫に向かうと中から、騒がしい音がした。
まるで倉庫内の荷が崩れ落ちたかのような物音に急ぎ扉を開けると、クロオリの下から「助けてくぇ……」と微弱な嘆きが聞こえてきた。
「また、挟まっているのか……このオッサンは」
半ば、呆れつつも練功をまとった左手でクロオリを持ち上げてやる。
床を這いつくばりながらも、ロッティはどうにか窮地を出した。
ずっと、徹夜続きで作業をしていたようだ、その眼は真っ赤に充血している。
「おおっ、ギデか! 待っておったぞ。こちらは何とか、準備が整え終わったぞ」
「どうして、クロオリの下敷きになっていたんだ?」
「うひょひょ、クロオリには眠り姫用のメンテナンスシステムが組み込んであるのよ。いやー、ワスって天才! もし、これがなければラボ以外の場所で眠り姫の補修なんぞ、できんかったわい」
「アンタ、本当に科学技術の面で飛び抜けているだな。こんな複雑な機械、大陸横断列車や魔導四輪でしか見たことがない」
「ちっち! そんな中途半端もんじゃないぞ。クロオリと姫は古代遺産でありながらも、先進的な技術で開発されている。ゆえにワスでも、ほんの数パーセントぐらいしか解析できておらんのよ。今回、お前さんが姫の動力炉を破壊してくれたおかげで、永久機関が機能しなくなっちまった。予備の動力がついていなければ、骨董品なってしまうところだったぞ!」
「それで、コイツが用入りだと言うわけか」蜜酒の入った小瓶をロッティに手渡した。
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