異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百二十六話

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「やはり、見えていますか」
 瞳を大きく見開くランドルフに大元は笑みをこぼした。
 直感が確信に変わったというところだろう。

「ランドルフ殿の気の流れは、常人とは異なる波形を描いている。普通の人間なら気の流れというモノは常にまばらだ、けれど貴方にはそれが無い。身体に沿うようにして気が滞りなく循環している」

「おっしゃっている言葉の意味、分かり兼ねますが導士様? その……気とやらが、より強くなる方法という考えで合っているのでしょうか?」

「失敬、口足らずでした。貴方が感じた通り、これこそが今、ランドルフ殿が必要とする力。我々の間では練功と呼んでいる気功術で、これが扱えないと公国では戦士とすら見做されません。はっきり言って、赤子同然です!」

 大元の厳しい物言いに、ランドルフの気持ちが揺らいだ。
 魔法とは違う、別の術式……練功というモノの存在自体は人づてに聞いたり、書物から知識として得ていた。
 しかしながら、想像していたモノと現物は、だいぶ開きがあった。
 もっと煌びやかな魔法のような力を期待していた。
 が、地味に地味を塗り重ねた淡白な闘気の寄せ集めに気持ちがえてしまう。

「お言葉ですが、本当に、それが力を得るモノに足りるか確かめても?」
 腰に帯刀していた一振りに手をかける。
 是非を問う前に白銀の刀身があらわになる。

「構いません、来なさい! もし、私に一太刀でも浴びせられれば、すぐにでも西方へ向かう方法を教えます」

 落ち葉が舞い散る瞬間ときの中で、大元が両腕を前に出して型を構える。
 武道とは異なり、素直に攻撃、防御するための型ではない。
 大元が繰り出してきたのは、すべてを制する為に編み出された拘束の型。
 気で身体の動きをカバーしつつ、捕らえたモノの自由を奪う。

 いわゆる戦術的戦法。型一つだけで、戦況を自分の意のままに運べるのが、他の武術にはない練功の強みだ。
 なぜなら、気功術は物質だけではなく、霊的な次元のモノにまで触れることができる。
 闘気を崩せば、相手の力を無効化し、精気を破壊すれば体調を狂わせることも可能だ。

 対するランベルトは、刺突ランジの態勢に入っていた。
 レイピアは本来、防御に特化した剣術である。
 それを攻撃主体に変えたのが、ナハ―ルトの一族でありフェルクンド流剣術だ。
 防御を捨て刺突の連撃により、攻撃の隙をなくす。
 今回は剣士が相手ではない。攻撃のパターンが不規則すぎて剣筋のように読みを利かせることはできない。
 いくつかある、攻撃手段の中で自身の持ち味が充分に活かせるスタイルは、やはり突きのラッシュだ。
 指環ゆびわを強く握り締め、ランベルトは地に足を踏み込んだ。

 はらりと落ち葉が音を鳴らし散ってゆく。
 それまでの静けさから空を斬り裂く刃がカキィッン! カキィッン! と打ちつける音を奏でる。
 まるで、楽団のコンダクターのごとく軽やかにレイピアを振るう。
 スキル、極限の無呼吸を使用していなくともリズミカルな剣戟が飛び交い、ランドルフが優勢を保とうとする。

 ただし、その切っ先は大元には届いていない。
 大元導士は素手だけで、すべての攻撃を受け流していた。
 ランドルフがどこを狙ってくるのか、事前に知っているかのように連撃をさばいている。

「だったら、これなら――――」
 突きからの流し斬り、両刃のレイピアだからこそできる変則的なコンビネーションだ。
 初見でこれをかわすことができる人物は、そうそういない。

「今度こそ、一撃を見舞う!!」

「そんな、小手先だけの技は却って身を危険にさらすだけだぞ」

 ランドルフの右手首がガシリと大元の手に掴まれた。
 その直後、剣先がクンと垂れ下がり剣戟が止んだ。

「参りました、完敗です。にしても……重い! レイピアではなく私の腕がいきなり重くなって上がらない」

「貴方の腕に気の塊を巻き付けたので当然です。これが、練功での戦い方。どうです? 一考の予知はあるでしょう、覚えておいても損はないですよ」

「実践だったら、私は終わっていた……大元様の言葉通り、編み笠の男と対峙するには、練功が必要になるということか……。分かりました、大元導士! この私に気の扱い方をご教授して頂けないでしょうか?」

「身体の動きに沿って気を送り込んでゆく、難しい技術ですが……貴方とは相性が良い。いいでしょう! ランドルフどのなら、すぐに練功を使えるようになることでしょう」

 スッと差し出された大元の手を握り返し固く握手を交わす。
 すると、瞬く間に右腕から嫌な重みが消えた。
 すぐに扱えると言っているが、すぐとはどれほどの時間を要することになろうか?
 考えるだけで思考が暗礁に乗り上げてしまう。
 こんな時、ギデオンならどう導士に答えるのだろうか? ふと、頭の中でよぎった。 
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