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二百二十四話

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 ギデオンが呂下りょかの街を発った数日後、その青年はやってきた。
 黒い旅の外套を羽織り、長いブロンドの髪を後ろで束ねた美白の若者。
 公国の人間にはない異国情緒ある気品を、どこか漂わせる旅人は、街の手前で行き倒れていた。

「はて、どうしたものか……近頃は、よく道端で人が倒れているが、流行はやりなのか?」

 青年を拾ったのは、またしても大元導士だった。
 アビィも飽きれるほどのお人良しである導士は、当然ながら瀕死になっている者を見捨てることができない。

「もし、大丈夫か? 旅のお方」

「み……水をいただけないだろう……か?」

 急いで声をかけてみると、青年は意識を取り戻した。
 酷い脱水症状を起こし、声はしゃがれていた。
 どうやら、訳ありの旅人のようだ。
 方角からして共和国側からやってきたようだが、よく国境線沿いの南陽門を越えてこれたものだと、大元は少し驚かされた。

「ほら、水だ。慌てず、ゆっくり飲むんだ」

 大元は竹筒を取り出すと、彼の口元に運んだ。
 慌てるなといっても、そうもいかない。
 喉の渇きに苦しんでいた者にとっては命の水だ。
 一気に飲もうとして咳込み、水を吐いてしまう。そんな青年を導士は治癒功で介抱する。

「どなたか、存じませんが感謝します……私は、ランドルフ。聖王国騎士団、護衛長のランドルフ・ナハ―ルトと申します。わけあって道中、野盗に襲われこの有様です……できれば――――」

「そう無理をなされるな、ランドルフ殿。私は大元、この街で医者の真似事をしている者です。ここでは、なんですから……近くにある知り合いのギルドに向かいましょう」

 呂下の表通り、その一画に堂々と構えている長屋があった。
 清々しいほどにオンボロな見た目をした、そのギルドに訪れる冒険者は数少ない。
 一日、数人ていどだが、建屋からはギルドマスター、カンツの豪快な笑い声が頻繁ひんぱんに聞こえてくるという。
 この街のギルドは冒険者の集いというよりも、完全に大衆居酒屋と化していた。
 客層も冒険者ではなく、真っ昼間から酒をあおりたい連中ばかりだ。

「カンツ、お邪魔するよ」

「おお~!! こりゃ、我らの大元先生のお出ましだぁ! ささ、俺が仕込んだ新作を飲んでくれ。これさえあれば、どんな疲れもイチコロよ!!」

「はぁ~、今日は相当飲んでいるな、カンツ。近くで旅人を保護した、かなり体調を崩しているから休ませたいんだが、宜しいかい?」

「宜しいも何も俺と先生の間だ、いいぜ! どうせ、ここには冒険者なんか来ないんだから宿代わりに使ってくれ、兄さん方よ。もちろん、お代があればな」

「すまない、マスター。路銀ならある、だから……この国の内情について色々と教えてほしい」

 カウンターテーブルの上にドサッと置かれた革袋にヒュ~と唇を尖らせると、カンツは急にグラスを磨きだした。
 あまりの額に気が動転し、パンパンに膨れ上がった硬貨入りの袋を直視できないでいる。

「カンツ、よもや……これほどの大金を受け取るつもりか?」

「いいだろう、大元! 本人がくれるって言っているんだ。受け取るべき分は取らないと、却って相手に失礼だぞ」

「よせ、共和国の通貨だぞ!! 受け取れば、追々、面倒事になる」

「フン、知るか! だいたい、この前の若僧が邪龍討伐の依頼を引き受けたっきり、音沙汰なしなのが悪い! いくら、霊幻のアビィが立ち会い人をかって出てくれているとは言え、邪龍を討伐できる奴なんざ、そうそういないぞ」

「名を捨てて実を取るというのか……私は、信じている。もう少し待てば、必ず吉報が入るはずだ」

 まさか、導士とギルマスが、ギデオンのことで言い争っているなどとは、思いもしないだろう。
 ランドルフが二人に注意を促すために軽く咳払いをした。
 ギスギスとした空気が少し落ち着いたところで、質問を投げる。

「編み笠をかぶった剣士を探しています。多分……公国一の腕前を持つ剣士だと思うのですがご存じで?」

「あ……ああ、アイツか。兄さん悪いことは言わない。その剣士について不用意に探るのは止めておけ!!」

 やはり、あの刺客は公国内でも名高い。
 剣士の特徴をあげただけで、ギルド内の空気がやけに重くなってゆく。
 カンツと視線を合わせると大元が重く閉ざした口を開く。

「一応、確認するが、その剣士を見つけてどうする?」

「奴には色々と貸しがあります、再戦して今度こそ打ちのめす所存です」

「命を賭しても? ランドルフ殿、すまないが今の貴方では実力不足だ。再戦を申し込んだところで、相手にされないか? 瞬殺されるかのどちらかだ」 
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