異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百二十三話

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「北に連行するか……それも、ありだねぇ~」
 ギデオンの大胆な提案にアビィが、口角を上げて笑う。
 はたから見ても、悪いことを閃いた顔である。

「それでは、サラバだ!」
 身の危険を察知した科学者は、何もかも放置し、その場から退却した。
 戦いは苦手でも逃げるのは得意らしい。あれよあれよと山の斜面を下ってゆく。

「かの者の動きを御したまえ……禁幻不動の法」

 科学者の逃走劇は、ものの数分で終了した。
 アビィが呪言を唱えると、ロッティはその場で固まったように動かなくなった。
 霊幻の術中にハマってしまうともう逃げ場はない。
 手足だけではなく、声も封じられているので罵倒すらできないロッティは項垂れていた。

「オッサンのことは僕に任せてくれ。眠り姫とクロオリを回収してからロッジへ帰る」

「オーケェイ! んじゃ、戻りましょうかねぇ~我が家へ。シユウ、帰るよ!!」

 *

 山頂のロッジに到着するまで、かなりの時間を要した。
 ロッティと二人して、物置小屋にクロオリを収納すると、ギデオンはフラフラとよろけていた。

「ったく! 小僧……無理やりワスらを連れてくるから、よっ、余計な負担がかかるんだぞ」
 背中に眠り姫を背負おうとしたロッティが、オートマタの重量に耐えかねず地に沈んでゆく。

「無理やりなのはどっちだよ……スコル、すまないがオッサンを手伝ってやってくれ」
 地面と機械人形の間でうつ伏せになっている中年男を救助すべく、魔獣は眠り姫をを口で、くわえてヒョイと持ち上げた。
 その様を見るやいなや、ロッティは顔面蒼白となり発狂してきた。

「ばっ! もっと丁寧に扱え、ワンコ!!! ああああ―――!! ワスのオートマタがよだれ塗れになってゆく」 

「難癖ばかりつけてないで、自分の物だというのなら持ち運べるように軽量化でもしろよ……」

 ギデオンは大アクビしながらロッジへと入った。
 ここには戻らない、そう決めて出ていったはずなのに、またこの扉を開くことになろうとは……。
 自分の甘さだけが原因だとは、どうしても思えない。

「すでに、逃れられない運命の輪に囚われているということか」

「ようやく、帰ってきたか! 兄ちゃん」
 部屋に入るなりシユウが出迎えてくれた。
 話によると、そろそろ大元のもとへ戻らないといけないそうだ。

「シユウ、世話になったな。先生にも宜しく伝えといてくれ」
 軽く握手を交わしながら、今度はギデオンが見送るカタチになった。

「またな、兄ちゃん! アビィさん!」威勢良く声を張り上げて竜騎士見習いの少年は、飛竜にまたがる。
 いつでも天真爛漫てんしんらんまんで明るい彼の笑顔に、たくさんの元気をもらった。
 彼が、川岸で倒れていた自分を助けてくれたおかげで、命をつなぐことができた。
 今、すぐにとはいかないが、次回、合う時はあの小さな竜騎士に恩返しをしたい。
 天に向かって翼を羽ばたかせる飛竜の背を見守りながら……そう願わずにはいられなかった。

「ん? 時差ボケみたいだね。夜がないから、いきなり眠気が出てくるのよね」
 ギデオンの変化に気づいたアビィが肘で脇腹を小突いてきた。

「ああ、どうにかならないのか? 眠くて眠くて敵わん……」

「よかったら膝枕を貸そうっか?」

「悪いが冗談に付き合えるほど、意識が保てなさそうだ」

 ウツラウツラとしていると、アビィが部屋を貸し与えてくれた。
 もとは一緒に暮らしていた父親の寝室だったそうだ。
 その部屋だけ、小奇麗に片づけてあった。
 アビィに直接、聞かなくとも彼女の父親はもう、ここにはいないのだと分かる。

「いいのか? 僕が使ってしまって……」

「気にしないで、ずっと使われていなかった部屋だから。あと替えの服も置いといたから! 父のお古で悪いけど、ボロボロになったその恰好よりはマシでしょっ!?」

「アンタも先生もどうして、僕に良くしてくれるんだ? 僕を助けたところで何のメリットもないのに」

「コラ、自惚れない。何も君だから親切にしているわけではないんだよ。むしろ、先行投資の精神だよ! ワタシたちには、導士として練功の資質がある者を導く役割があるのよ。ちょっと優しくされたぐらいでカン違いする子も多いけど、こっちは普通に接しているつもりよ」

「そうか、なら少し安心した―――――」

 ベッドに横たわるとすぐにギデオンは深い眠りへと落ちていった。
 夢の中で「―――ギデオン!」と不意に誰かに呼ばれた。
 声の主が告げてくる。まるで、この先に起こることを示唆するように語気を強め訴えかけていた。

「もうじきだ……後、少しですべてが満たされる。とうとう始まるぞ、俺たちの時代が…………恐怖が、人のすべてを支配し狂気が世界を染める、悪の時代が到来する! クハッハハハ!!」

 不吉な言葉を発しながら、嬉々として響く笑い声はどこかで聞いた覚えがある。
 自然と怒りや恐怖といった感情は湧いてこない。
 ただ、一心にお前にそんな事はさせないと念じていた。
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