異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百二十二話

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 肩を上下させながら、ギデオンは片膝をついた。
 間一髪のところで何とか押し切れたものの、体力は限界を超えていた。
 そもそも、手足の怪我が完治しきっていない状態での連戦は、かなり酷だった。
 次に敵が来ても、しばらくは戦えそうにない。

「でかしたぞ! 小僧」
 どこに潜んでいたのか? オートマタの停止を感知したロッティ・マウワが小走りでこちらに向かってくる。

「かぁー! オッサン、手伝いもせず隠れていたの? ちょっ~とズルいんじゃない?」
 ロッティが合流するなり、アビィが苦言を呈した。
 オートマタで騒ぎを起こした張本人も、さすがに懲りたようでシュンとしながら彼女に絞られていた。

「まったくもって面目ない。眠り姫の結界に追い出されて参戦出来なかったのだよ。もとより、ワスは科学者兼、技師だ。傀儡人形がなければ戦う術はないんだがな、ウヒョヒョ!」

「変わらず、その変な笑い癖は治っていないよ~だねぇ」

「ふん、貴女も口が過ぎる悪癖は変わりないだろう、アビィ。親の代からのよしみだ、西方地域に踏み込んできたのは、黙殺してやろう」

「そりゃ、どーも。アレの処理は頼んだわよ」
 アビィは親指をクィっと突き立て指示した。
 明らかに動かなくなったオートマタの回収を促している。

「言われんでもない。そうするつもりだ、アレにいくら予算をかけたと思っとる。それに――――」

 ロッティはギデオンの傍へと歩み寄っていった。
 ギデオンの視線がかすかに彼の方を向いた。

「小僧、大事ないか? クロオリを破壊する奴がいるとは……思わなんだ。意図せず、巻き込んでしまったのは済まなかった」

「謝んなよ……敵同士だろう? 僕たちは」

「それは違う。厳密には敵だっただ。貴公をみてワスは確信したのだよ。貴公の協力があれば、眠り姫を完全修復させることができるかもしれない、とな」

「コイツを治して僕に何の益があるんだよ……もう、暴走を止めるのはゴメンだね」

「あるだろう、その右腕とかな。日常で使用するには困らないだろうが、実戦で剣を振るうのは、かなり辛いはずだ……ワスはオートマタを扱っているから人体の機構メカニズムには詳しい。貴公が無理をしていたのは嫌でも分かったわい」

「ぐぅう、くっ……」図星を突かれたギデオンは、言葉通り何も言い返せなかった。
 シルクエッタの治癒術や大元の治癒功によって負傷した身体は徐々に癒えつつはある。
 だが、どうしても右腕の痛みだけは、回復するきざしが見えなかった。

「アンタの手助けをすれば、僕の右腕が回復するとでも……?」

「左様、眠り姫が本来の機能を取り戻せば、ナノ療法で傷を癒すことができる! これは、魔術の類では治療できないモノすら治してしまう、凄まじいスキルなのだ」

 予期せぬ、提案に視線は自然とアビィの方を向いていた。
 別に彼女に断わりを求める必要はないと、ギデオンは即座に視線をもどした。
 ロッティの言葉が真実だとすれば、ギデオンにとって救いにはなる。
 それに尋問して、吐かせようとしていた西側の状況をより確実に把握できるチャンスだ!

「内容次第だな。納得いくモノであれば力を貸そう。ただ、アンタに加担することによって、この王族対立にどう影響をもたらすかが重要だ。僕にとって好ましくない結果がでたら、そこで契約終了とするが……いいか?」

「構わんよ。ここでの詳細は省くが、王族の抗争とは無縁の依頼だ。貴公への依頼は至極シンプルだ。公国内にて存在が確認されている龍脈を解放してくれ。ここの龍脈は、七ヶ所のパワースポットから成っている。貴公には、現地に赴き、それぞれのパワースポットから、よどみを浄化して欲しいのだ!?」

「パワースポットだと、場所は知っているんだろうな? それに聞いた感じ、公国全土を回りきらないと達成できないんだが……」

「それは追って説明する。とにかく、問題はないから安心したまえ」

「一つ訊くが、その中で女神が手にしたという神器じんぎに関する事柄はあるか? 僕は、どうしても神器の在処を見つけ出さないといけないんだ」

「それなら、東の都にあると聞いたぞ。噂ていどで確証はないがな……早速だが、西方に来て貰えんだろうか? 旅客である貴公なら問題なく移動できるはずだ」

「ちょい待ち!」饒舌じょうぜつになって語るロッティをアビィが止めた。
 会話を中断させられ、露骨なほどに嫌な顔をする中年を相手にはせず、アビィはギデオンに耳打ちした。

「距離は、だいぶ遠いけど東の方からコチラの動きを探っている奴がいる。ワタシたちの顔は分からないだろう。でも、人数は把握できているはずだ。もし、ここで西に動けばワタシや大元は君を護ることはできない。オートマタの存在は確実に東へ筒抜けとなっている。判断するのは君だが、現時点で西に移動するのはオススメしない」

「西方地域が東方に狙われるということか……ならば、眠り姫とオッサンを北に移動させよう」
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