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二百二十話
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『歪曲マールティゥ』
息つく暇もなく、次の攻撃が始まる。
メンションホラーが、たんなる牽制攻撃だったとギデオンたちもすぐに気づいた。
二人が髑髏の相手をしている隙に、眠り姫は魔力を蓄積していた。
それだけなら、特段、珍しくはない魔術の戦法だと言えよう。
が、生物とは作りが異なる機会人形の溜め攻撃は制限がない。
魔力を溜めすぎると、どうなるのか?
通常ではありえない現象の答えが、眠り姫の背後に拡がっていた。
それは、世界という概念そのものを無視した異空間だった。
膨張し溢れだした魔素の吹き溜まりが、この世界を侵食し別の次元を生み出そうとしていた。
大量の魔素は魔力の源、原液である。
魔力以外にも不純物を多く含み、とくに降魔水呼ばれる魔素によって汚染された水分が大半を占めている。
つい、半世紀前までは人体に有害なものだとされ、精製されることもなく廃棄されていた。
それが今や、錬金術師に重宝される素材として扱われている。
眠り姫が操るスライムは、降魔水で生成されている。
ただし、彼女のもとにある降魔水は、いっさい浄化が施されていない毒の塊だった。
ジェル状の降魔水が鋭い刃に変わる。
刃といっても、それ単体ではなく刃物の集合体。
まさに、地獄にあるとされている針の山ならぬ刃の密林がそこにあった。
歪曲マールテイゥの厄介さは、猛毒の刃が地面から生えているだけではない。
ちゃんと、武器として機能し接近するモノには攻撃を加えてくる。
攻撃と防御を兼ね備えた、いばらの道にギデオンの額から嫌な汗がにじみ出ていた。
飛び掛かってくる刃を剣戟でさばいても、終わりは見えてこない。
不用意に突き進めば、完全に刃に包囲されてしまう。
誰も喜んでウニの魔物フラッターになりたいとは、思わない。
「訊いてもいいか? アンタなら、この状況をどう打破する?」
ギデオンにしては珍しく、他者に戦いの助言を求めた。
対オートマタ戦は何もかもがイレギュラーであり、適切な対処法などないように思えたからだ。
アビィは一瞬、目を丸くしたものの二ヤリと微笑し前へと進んだ。
「こういう場合は、流れに逆らわないのが一番さ。君の戦い方は、常に敵意をまき散らしている反発の力だ。それでは、狙ってくれといっているのと同じだ。動ではなく静をもって制す! そのやり方を今から見せてあげるから刮目しておきなさい」
身構えることもなく導士アビィは、マールテイゥの方へと駆け出した。
当然ながら、やって来る異物を排除しようと刃の棘が飛んでくる。
次の瞬間、ギデオンは目の前の光景に言葉を失った。
アビィは回避するどころか防ぐのことすらせず、跳躍し刃の上を走り出した。
驚くことに、いくら攻撃しようが刃は、彼女には当たらない。
まるで、狙いが定まらないかのように明後日の方へと突き刺ささってゆく。
「なぁーに、簡単なことだよ。この攻撃は生体反応……つまり、気や音を感知して動いている。ならば、己の気を消して別の場所に気の残り香をつけておけばいい。精密というのも考えもんだね~、逆手に取られればこうも融通が利かない」
得意になって語る導士だが、その声はギデオンの耳には届いていない。
あくまで独り言であり、むしろ茨の道の終点にいるに人形姫へ向けられた皮肉でもあった。
何せオートマタは、常に無表情だ。
そのくせ不足の事態には、めっぽう弱い。
赤子のように抵抗すらせず、パフォーマンスをすべて解析に回している。
人間でいうなれば、隙だらけの状態となっていた。
「実物があれば、良かったんだけど家に置きっぱだったわ。まぁ、練功で代用するんだけどね! 武撃発勁、イスカリオテの矢!!」
気で構築した弓矢は弦を引くことなく放たれる。
三大導士の一人、霊幻が撃つ矢は滅殺の一手だった。
嵐のごと渦巻く風をまといながら標的に達すると閃光が辺りを飲み込んだ。
オートマタの身体が、後方へと飛ばされてゆく。
その様は確認したアビィが舌打ちをした。
「ちっ、直撃するのは不味いと寸前で判断したか……もう一手、欲しいところだったのに」
「なら、僕がそれを埋めてみせる」
「埋めるって……ちょっ! 君、どうやってここまで来たの!?」
「どうもこうもない、アンタの真似をしただけだ。気を足下に集中させ歩行すれば刃は刺さらない、そういう事だろう?」
「ぷっ、アハハアッハア!! 頭で理解して、すぐに体得できる奴なんてカイぐらいだと思っていたけど世の中、広いねぇ~。ギデ君、とんでもない逸材だよ君!」
ギデオンの才は、公国トップの導士も抱腹絶倒しそうになるほど底が見えないらしい。
息つく暇もなく、次の攻撃が始まる。
メンションホラーが、たんなる牽制攻撃だったとギデオンたちもすぐに気づいた。
二人が髑髏の相手をしている隙に、眠り姫は魔力を蓄積していた。
それだけなら、特段、珍しくはない魔術の戦法だと言えよう。
が、生物とは作りが異なる機会人形の溜め攻撃は制限がない。
魔力を溜めすぎると、どうなるのか?
通常ではありえない現象の答えが、眠り姫の背後に拡がっていた。
それは、世界という概念そのものを無視した異空間だった。
膨張し溢れだした魔素の吹き溜まりが、この世界を侵食し別の次元を生み出そうとしていた。
大量の魔素は魔力の源、原液である。
魔力以外にも不純物を多く含み、とくに降魔水呼ばれる魔素によって汚染された水分が大半を占めている。
つい、半世紀前までは人体に有害なものだとされ、精製されることもなく廃棄されていた。
それが今や、錬金術師に重宝される素材として扱われている。
眠り姫が操るスライムは、降魔水で生成されている。
ただし、彼女のもとにある降魔水は、いっさい浄化が施されていない毒の塊だった。
ジェル状の降魔水が鋭い刃に変わる。
刃といっても、それ単体ではなく刃物の集合体。
まさに、地獄にあるとされている針の山ならぬ刃の密林がそこにあった。
歪曲マールテイゥの厄介さは、猛毒の刃が地面から生えているだけではない。
ちゃんと、武器として機能し接近するモノには攻撃を加えてくる。
攻撃と防御を兼ね備えた、いばらの道にギデオンの額から嫌な汗がにじみ出ていた。
飛び掛かってくる刃を剣戟でさばいても、終わりは見えてこない。
不用意に突き進めば、完全に刃に包囲されてしまう。
誰も喜んでウニの魔物フラッターになりたいとは、思わない。
「訊いてもいいか? アンタなら、この状況をどう打破する?」
ギデオンにしては珍しく、他者に戦いの助言を求めた。
対オートマタ戦は何もかもがイレギュラーであり、適切な対処法などないように思えたからだ。
アビィは一瞬、目を丸くしたものの二ヤリと微笑し前へと進んだ。
「こういう場合は、流れに逆らわないのが一番さ。君の戦い方は、常に敵意をまき散らしている反発の力だ。それでは、狙ってくれといっているのと同じだ。動ではなく静をもって制す! そのやり方を今から見せてあげるから刮目しておきなさい」
身構えることもなく導士アビィは、マールテイゥの方へと駆け出した。
当然ながら、やって来る異物を排除しようと刃の棘が飛んでくる。
次の瞬間、ギデオンは目の前の光景に言葉を失った。
アビィは回避するどころか防ぐのことすらせず、跳躍し刃の上を走り出した。
驚くことに、いくら攻撃しようが刃は、彼女には当たらない。
まるで、狙いが定まらないかのように明後日の方へと突き刺ささってゆく。
「なぁーに、簡単なことだよ。この攻撃は生体反応……つまり、気や音を感知して動いている。ならば、己の気を消して別の場所に気の残り香をつけておけばいい。精密というのも考えもんだね~、逆手に取られればこうも融通が利かない」
得意になって語る導士だが、その声はギデオンの耳には届いていない。
あくまで独り言であり、むしろ茨の道の終点にいるに人形姫へ向けられた皮肉でもあった。
何せオートマタは、常に無表情だ。
そのくせ不足の事態には、めっぽう弱い。
赤子のように抵抗すらせず、パフォーマンスをすべて解析に回している。
人間でいうなれば、隙だらけの状態となっていた。
「実物があれば、良かったんだけど家に置きっぱだったわ。まぁ、練功で代用するんだけどね! 武撃発勁、イスカリオテの矢!!」
気で構築した弓矢は弦を引くことなく放たれる。
三大導士の一人、霊幻が撃つ矢は滅殺の一手だった。
嵐のごと渦巻く風をまといながら標的に達すると閃光が辺りを飲み込んだ。
オートマタの身体が、後方へと飛ばされてゆく。
その様は確認したアビィが舌打ちをした。
「ちっ、直撃するのは不味いと寸前で判断したか……もう一手、欲しいところだったのに」
「なら、僕がそれを埋めてみせる」
「埋めるって……ちょっ! 君、どうやってここまで来たの!?」
「どうもこうもない、アンタの真似をしただけだ。気を足下に集中させ歩行すれば刃は刺さらない、そういう事だろう?」
「ぷっ、アハハアッハア!! 頭で理解して、すぐに体得できる奴なんてカイぐらいだと思っていたけど世の中、広いねぇ~。ギデ君、とんでもない逸材だよ君!」
ギデオンの才は、公国トップの導士も抱腹絶倒しそうになるほど底が見えないらしい。
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