異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百十九話

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 人にとって当たり前とは何か? それは個人で異なる。
 アビィにとって、その部分をどう捉えているのか?
 ちゃんと向き合って考えているのかさえも懐疑的になる。
 そう思い込むロッティも、また自己肯定という矛盾にさいなまれていた。
 結局のところ、自身と正反対の彼女の性格を否定して自分を納得させておきたいだけなのだ。
 自分の拒否反応が意義のないことだと、気づかないほど彼は愚か者ではない。

 別段、アビィが危害を加えたわけではないのに敵視されてしまう。
 天性、運命、体質とも呼べるほどに、アビィには敵が多い。
 問題は、面識がある相手よりも、素性も知らない赤の他人に目をつけられることが多いという点だ。

 はっきり言って霊幻のアビィという名は完全にアビィ自身から離れて独り歩きしてしまっている。
 導士としての飛びぬけた才能に嫉妬。その奔放さゆえのやっかみ。
 何より、誤解を招きやすい粗雑さが起因となっている。

「オートマタね……ようは魔力を空にすれば、お姫様は止まるんでしょ?」

「止まるわけないだろうが!! 無限動力炉を搭載しているんだ。魔力がつきることなく無尽蔵に動くぞ!」

「じゃあ、その無限なんちゃら~が機能しなければいいわけっしょ!?」
「だああああああ!! これだから素人は――」

 頭を抱えるロッティ。
 普通の人は困難極まることも、才ある彼女は、意図も容易いことだと言ってのけてしまう。
 確証以前に、自身の能力に絶大なる自信をもっていなければ、こうは意見できない。

「二とも離れていろ! コイツの動きは尋常じゃない!」

 依然、眠り姫と対峙したまま、ギデオンは身動きが取れずにいた。
 なにぶん、機械人形を相手にどう戦えばいいのか? ノウハウがない。
 少しでも隙を見せれば、さきほどのように凶悪な攻撃を仕掛けてくるだろう。

 無鉄砲だといわんばかりに意気込む若者の姿に、霊幻の導士は重く息をついた。

「君ねぇ! 話を聞いていたよね? その身体で、機械のお姫様は止められないわよ? それこそ、無謀な犬死にしかならない」

「だったら、そうならないように妙案を出してくれないか? アイツを放置しておくわけにもいかない」

「仕方ないなぁ。ワタシがその子を止めるよ! 君はサポートに徹してくれ……練功武装、刀剣」
 手元でプラーナを練り上げて、想い描くイメージを流し込む。
 すると、闘気の塊は細長くなり剣のカタチを成す。
 武装化は練功の中級クラスの技能である。
 扱えるようになるには、プラーナのコントロールと集中力が必須となる。

「ほい」と作製した剣をアビィが手渡してきた。
 たまたまなのか? 迷わず、得意とする剣を差し出していたことにギデオンは若干、戸惑いを覚えた。

「ボサッとしている場合じゃないみたいだよ」

 二人が眠り姫のほうへと振り向くのと同時に、黒い波動が周囲へと拡散してゆく。

「獲物を逃さない為の特殊結界の一種だね」

 辺りの空気がやけに淀んでいる……窮屈さを感じているのは、その結界の影響なのかもしれない。
 ギデオンが刀剣をもったまま、相手の出方を探る。
 その前をフラッとアビィが駆け寄ってくる。

『メンションホラー』
 オートマタの手からオレンジ色の煙が噴きだした。
 カーテン生地のように分厚い煙の層が、一ヶ所にまとまりバラの花束のようにも見える。

「あれは何なんだ……?」

「さぁ? ブーケみたいな感じだけど……正直、受け取りたくないわね」

 会話を続けられるのもここまでだった。
 花ビラが舞い散ったと思ったら煙が頭蓋骨に変化し、襲撃してきた。

「少年、アレに物理は効かない。ワタシが渡した剣で戦うんだ」

「もとより、そのつもりだ」

 一体あたり、成人した男の倍ほどの大きさがある。
 上下の顎をカタカタと鳴らしながら、雪崩込むように大口を開けてくる。
 噛まれたら生身の人間など一溜まりもない。

木犀連もくせいれん、散開!!」

 クォリスが使用していた護符とは異なる呪符に気を通し一斉にばらまく。
 数十枚の札から木犀を模した気の花吹雪が吹き荒れ、髑髏どくろたちに貼りついてゆく。
 効果てきめんだった。
 すぐには止まない闘気の花はさらに、纏わりつく。
 重量で浮遊できなくなった髑髏たちが落下し、動かなくなっている。
 この程度の応酬はまだ序の口。
 すぐに追加の髑髏が押しかけてくる。

 ヒューン――― ビュン――――

 風切り音だけがはっきりと唸る。
 一度、剣閃が走ると頭蓋骨が弾け飛び、ただの煙に戻る。
 それは剣技と呼ぶには洗練され過ぎていた。
 剣舞に近い流動性がある動きで、即座に敵を切り伏せてゆく。
「へぇー、やるねぇ~」あまりの加速度に、アビィも思わず術を解いた。

 ひっきりなしに襲い掛かってきた髑髏の大群が、ものの二分たらずで一掃されてしまった。
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