218 / 362
二百十八話
しおりを挟む
ギデオンは深読みしすぎていた。
金属の檻から出てきた少女は、何かを欲し探していたのではない。
その想いは真逆であり、その何かが居ないことを確かめていたのだった。
不要な一言により、ギデオンの意図せずかたちで眠り姫に語弊を与えてしまった。
一緒に探そうという小さな親切は、捜しているモノと関わりを持っているという誤った解釈を生み、少女の警戒心を強めた。
相手の事情など、知るわけもないギデオンは手を差し伸べようと一歩、前に近づいた。
何気ない行動は、仇となって返ってきた。
「いかん! 小僧、それ以上は近づくな!!」大声で叫ぶロッティ。
事前予知というべきか、ことが起きる前に警告が発せられた。
「くぅぅうう――!」
瞬時に半身をそらすギデオンの手前を熱線が通過していった。
ノールック、ノーモーション、ノーアラートで飛んできた凶器が、近くの岩肌を焼き切るように走ってゆく。
指先から、怪光線が出てくるなんて誰にも予想はできない。
はっきり言って、今の一撃は当たっていてもおかしくはなかった。
避けれたのは、狩猟職マタギの特性である直感力強化のおかげだ。
「おい! 話ぐらい聞いたらどう……くそっ! マジかよ、魔力値がどんどん増大している。コイツ、この山ごと消し飛ばすつもりか!? 速い……!! 術式展開の速度に追いつけないぞ」
『消えて……エルミナンスアポトーシス』
眠り姫が天に右腕をかかげると抜け殻になったクロオリの本体から粘液があふれ出してきた。
まるで、スライムのように地を這っていたのも束の間、少女の右手の上まで浮遊し一塊の球体となった。
大岩ほどのジェル状の球、表面にはクロオリに使用されていた部品と思われる金属片が漂流している。
遠目からみれば、惑星にも見えなくはないソレは、次第にマダラ模様を増殖させ、今にも爆発しそうになっていた。
球体を構成している物質は不明であるも、魔力の含有率が信じられないほどに高い。
それこそプロミネンスワンの魔導炉ですら、比ではないほど莫大な魔力を貯蔵している。
一発で国一つ無くなる魔法爆弾。
ここまで高い殺傷力と殲滅力を誇る一撃必殺技は、そうそう、お目にかかれない。
「グラバスタ―で対消滅させるしかない! 間に合うか?」
ギデオンは魔銃を構え対応せざるを得なかった。
だが、間に合わない!!
今から魔力を貯め込もうとも先にエルミナンスアポトーシスの球体が破裂してしまう。
もし、爆発が生じてしまえば、ここいら一帯はすべて消し飛んで陸地に特大の穴が口を開くのは、疑う余地もない事実だ。
突風がギデオンの頬をかすめてゆく。
チリィンと涼しい音色を奏で鈴が舞い踊る。
「禁は金となり、金は土の脈で育つ。道理返せば、金は禁となり、理を吸いつくす。我の定めし禁は、理不尽なるもの、支配者たる我の命により、すべて幻想とかす! 急急如律領!!」
細い糸のようなものが凄まじい速度で飛び交い、魔力の球体にからまってゆく。
毛糸の玉のように全体をおおうのに、ほんの2、3秒で済んでしまった。
何が起こったのか? ギデオンには皆目見当もつかなかった。
それまで、確かに存在していたエルミナンスアポトーシスが、影も形もなく消え去ってしまっていた。
魔力の痕跡どころか、微弱な力さえも検知できない。
物理的に破壊されたのではないようだ。
彼女言葉を借りれば、禁じ手。いわば、世界を滅ぼしかねない古代の術を無に帰しただけのことだ。
「僕たちの後をつけていたのか? アビィ」
霊峰トラロックの管理者である彼女をギデオンが睨みつける。
「まぁまぁ、堅いこと言いなさんなって。どこかの誰かさんが、無茶ばかりするから駆けつけてみれば案の定。ギデ君、君は大人しく行動できないのかい?」
「僕に言われてもな……半分以上はそこのオッサンの責任だ」
いきなり、指さされロッティはギョッとした顔つきになっていた。
罰が悪そうに視線をゆっくり反らしてゆく。
やはりセコイこと、このうえない……。
「なんだ、ロッチのオッサンじゃん! あの娘……アンタがさらってきたの?」
「ち、違うわ!!! 嗚呼っ……なんて厄日だ。変な小僧には出会うし、南の奴らには絡まれるわ! トドメに三大導士の一人霊幻のアビィまでやってくるとは何もかも滅茶苦茶だ」
アビィに苦手意識があるらしく、そこからのロッティは終始、自己ペースをつかめずにいた。
堅物な科学者にとって、女導士の距離感はおかしいそうだ。
気を抜いていると、他者のパーソナルスペースに入り込んでこようとする。
さすがに無断ではなく、徐々に接点を増やしながら近づこうとする余計な気遣い。
その回りくどさが、たまらなく苦痛だという。
金属の檻から出てきた少女は、何かを欲し探していたのではない。
その想いは真逆であり、その何かが居ないことを確かめていたのだった。
不要な一言により、ギデオンの意図せずかたちで眠り姫に語弊を与えてしまった。
一緒に探そうという小さな親切は、捜しているモノと関わりを持っているという誤った解釈を生み、少女の警戒心を強めた。
相手の事情など、知るわけもないギデオンは手を差し伸べようと一歩、前に近づいた。
何気ない行動は、仇となって返ってきた。
「いかん! 小僧、それ以上は近づくな!!」大声で叫ぶロッティ。
事前予知というべきか、ことが起きる前に警告が発せられた。
「くぅぅうう――!」
瞬時に半身をそらすギデオンの手前を熱線が通過していった。
ノールック、ノーモーション、ノーアラートで飛んできた凶器が、近くの岩肌を焼き切るように走ってゆく。
指先から、怪光線が出てくるなんて誰にも予想はできない。
はっきり言って、今の一撃は当たっていてもおかしくはなかった。
避けれたのは、狩猟職マタギの特性である直感力強化のおかげだ。
「おい! 話ぐらい聞いたらどう……くそっ! マジかよ、魔力値がどんどん増大している。コイツ、この山ごと消し飛ばすつもりか!? 速い……!! 術式展開の速度に追いつけないぞ」
『消えて……エルミナンスアポトーシス』
眠り姫が天に右腕をかかげると抜け殻になったクロオリの本体から粘液があふれ出してきた。
まるで、スライムのように地を這っていたのも束の間、少女の右手の上まで浮遊し一塊の球体となった。
大岩ほどのジェル状の球、表面にはクロオリに使用されていた部品と思われる金属片が漂流している。
遠目からみれば、惑星にも見えなくはないソレは、次第にマダラ模様を増殖させ、今にも爆発しそうになっていた。
球体を構成している物質は不明であるも、魔力の含有率が信じられないほどに高い。
それこそプロミネンスワンの魔導炉ですら、比ではないほど莫大な魔力を貯蔵している。
一発で国一つ無くなる魔法爆弾。
ここまで高い殺傷力と殲滅力を誇る一撃必殺技は、そうそう、お目にかかれない。
「グラバスタ―で対消滅させるしかない! 間に合うか?」
ギデオンは魔銃を構え対応せざるを得なかった。
だが、間に合わない!!
今から魔力を貯め込もうとも先にエルミナンスアポトーシスの球体が破裂してしまう。
もし、爆発が生じてしまえば、ここいら一帯はすべて消し飛んで陸地に特大の穴が口を開くのは、疑う余地もない事実だ。
突風がギデオンの頬をかすめてゆく。
チリィンと涼しい音色を奏で鈴が舞い踊る。
「禁は金となり、金は土の脈で育つ。道理返せば、金は禁となり、理を吸いつくす。我の定めし禁は、理不尽なるもの、支配者たる我の命により、すべて幻想とかす! 急急如律領!!」
細い糸のようなものが凄まじい速度で飛び交い、魔力の球体にからまってゆく。
毛糸の玉のように全体をおおうのに、ほんの2、3秒で済んでしまった。
何が起こったのか? ギデオンには皆目見当もつかなかった。
それまで、確かに存在していたエルミナンスアポトーシスが、影も形もなく消え去ってしまっていた。
魔力の痕跡どころか、微弱な力さえも検知できない。
物理的に破壊されたのではないようだ。
彼女言葉を借りれば、禁じ手。いわば、世界を滅ぼしかねない古代の術を無に帰しただけのことだ。
「僕たちの後をつけていたのか? アビィ」
霊峰トラロックの管理者である彼女をギデオンが睨みつける。
「まぁまぁ、堅いこと言いなさんなって。どこかの誰かさんが、無茶ばかりするから駆けつけてみれば案の定。ギデ君、君は大人しく行動できないのかい?」
「僕に言われてもな……半分以上はそこのオッサンの責任だ」
いきなり、指さされロッティはギョッとした顔つきになっていた。
罰が悪そうに視線をゆっくり反らしてゆく。
やはりセコイこと、このうえない……。
「なんだ、ロッチのオッサンじゃん! あの娘……アンタがさらってきたの?」
「ち、違うわ!!! 嗚呼っ……なんて厄日だ。変な小僧には出会うし、南の奴らには絡まれるわ! トドメに三大導士の一人霊幻のアビィまでやってくるとは何もかも滅茶苦茶だ」
アビィに苦手意識があるらしく、そこからのロッティは終始、自己ペースをつかめずにいた。
堅物な科学者にとって、女導士の距離感はおかしいそうだ。
気を抜いていると、他者のパーソナルスペースに入り込んでこようとする。
さすがに無断ではなく、徐々に接点を増やしながら近づこうとする余計な気遣い。
その回りくどさが、たまらなく苦痛だという。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる