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二百十八話

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 ギデオンは深読みしすぎていた。
 金属の檻から出てきた少女は、何かを欲し探していたのではない。
 その想いは真逆であり、その何かが居ないことを確かめていたのだった。

 不要な一言により、ギデオンの意図せずかたちで眠り姫に語弊を与えてしまった。
 一緒に探そうという小さな親切は、捜しているモノと関わりを持っているという誤った解釈を生み、少女の警戒心を強めた。
 相手の事情など、知るわけもないギデオンは手を差し伸べようと一歩、前に近づいた。

 何気ない行動は、仇となって返ってきた。

「いかん! 小僧、それ以上は近づくな!!」大声で叫ぶロッティ。
 事前予知というべきか、ことが起きる前に警告が発せられた。

「くぅぅうう――!」
 瞬時に半身をそらすギデオンの手前を熱線が通過していった。
 ノールック、ノーモーション、ノーアラートで飛んできた凶器が、近くの岩肌を焼き切るように走ってゆく。
 指先から、怪光線が出てくるなんて誰にも予想はできない。

 はっきり言って、今の一撃は当たっていてもおかしくはなかった。
 避けれたのは、狩猟職マタギの特性である直感力強化のおかげだ。

「おい! 話ぐらい聞いたらどう……くそっ! マジかよ、魔力値がどんどん増大している。コイツ、この山ごと消し飛ばすつもりか!? 速い……!! 術式展開の速度に追いつけないぞ」

『消えて……エルミナンスアポトーシス』

 眠り姫が天に右腕をかかげると抜け殻になったクロオリの本体から粘液があふれ出してきた。
 まるで、スライムのように地を這っていたのも束の間、少女の右手の上まで浮遊し一塊の球体となった。

 大岩ほどのジェル状の球、表面にはクロオリに使用されていた部品と思われる金属片が漂流している。
 遠目からみれば、惑星にも見えなくはないソレは、次第にマダラ模様を増殖させ、今にも爆発しそうになっていた。
 球体を構成している物質は不明であるも、魔力の含有率が信じられないほどに高い。
 それこそプロミネンスワンの魔導炉ですら、比ではないほど莫大な魔力を貯蔵している。
 一発で国一つ無くなる魔法爆弾。
 ここまで高い殺傷力と殲滅力を誇る一撃必殺技は、そうそう、お目にかかれない。

「グラバスタ―で対消滅させるしかない! 間に合うか?」

 ギデオンは魔銃を構え対応せざるを得なかった。
 だが、間に合わない!!
 今から魔力を貯め込もうとも先にエルミナンスアポトーシスの球体が破裂してしまう。

 もし、爆発が生じてしまえば、ここいら一帯はすべて消し飛んで陸地に特大の穴が口を開くのは、疑う余地もない事実だ。

 突風がギデオンの頬をかすめてゆく。
 チリィンと涼しい音色を奏で鈴が舞い踊る。

「禁は金となり、金は土の脈で育つ。道理返せば、金は禁となり、理を吸いつくす。我の定めし禁は、理不尽なるもの、支配者たる我の命により、すべて幻想とかす! 急急如律領きゅうきゅうにょりつりょう!!」

 細い糸のようなものが凄まじい速度で飛び交い、魔力の球体にからまってゆく。
 毛糸の玉のように全体をおおうのに、ほんの2、3秒で済んでしまった。
 何が起こったのか? ギデオンには皆目見当もつかなかった。
 それまで、確かに存在していたエルミナンスアポトーシスが、影も形もなく消え去ってしまっていた。
 魔力の痕跡どころか、微弱な力さえも検知できない。
 物理的に破壊されたのではないようだ。
 彼女言葉を借りれば、禁じ手。いわば、世界を滅ぼしかねない古代の術を無に帰しただけのことだ。

「僕たちの後をつけていたのか? アビィ」
 霊峰トラロックの管理者である彼女をギデオンが睨みつける。

「まぁまぁ、堅いこと言いなさんなって。どこかの誰かさんが、無茶ばかりするから駆けつけてみれば案の定。ギデ君、君は大人しく行動できないのかい?」

「僕に言われてもな……半分以上はそこのオッサンの責任だ」

 いきなり、指さされロッティはギョッとした顔つきになっていた。
 罰が悪そうに視線をゆっくり反らしてゆく。
 やはりセコイこと、このうえない……。

「なんだ、ロッチのオッサンじゃん! あの娘……アンタがさらってきたの?」

「ち、違うわ!!! 嗚呼っ……なんて厄日だ。変な小僧には出会うし、南の奴らには絡まれるわ! トドメに三大導士の一人までやってくるとは何もかも滅茶苦茶だ」

 アビィに苦手意識があるらしく、そこからのロッティは終始、自己ペースをつかめずにいた。
 堅物な科学者にとって、女導士の距離感はおかしいそうだ。
 気を抜いていると、他者のパーソナルスペースに入り込んでこようとする。
 さすがに無断ではなく、徐々に接点を増やしながら近づこうとする余計な気遣い。
 その回りくどさが、たまらなく苦痛だという。
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