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二百十四話
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銃皇を殴った瞬間、感じた妙な違和感。
指先に今も残るそれは、応力……敵の攻撃に対しての押し戻す力が働いていた。
頭の中で真っ先に浮かんだ、練功の響き。
体内の気を放出させる技法は、ギデオンとって新たなる鬼門だ。
ドルゲニア公国では練功術が民間レベルで浸透している。
仮に、今殴り飛ばした男も達人クラスの使い手だったとしたら、練功を使いこなせていないギデオンの一撃は届いていない可能性がある。
銃皇は仰け反りながらも、バク宙一回転し案の定、体勢を立て直していた。
打撃では、大したダメージは与えられないと判明した。
「ふっへぇ……や、ややっやるじゃふぇーか!」
そうでもなかった……もろに膝にきている。
まるで、生まれたての小鹿のように脚を震わせながら、銃皇は挑みかかろうとしている。
すでに気力だけでなんとかしようとする敵の行動に、ムチャだと難色を示すほかない。
「若、負けたのですか?」
「まっ、負けてふぇ~し。それよか、おまふぇの方はどうらた?」
「言いたいことは伝わりますが、喋ると悪化しますよ。こちらは、首尾は上々といったところですかね~、西側の将を説き伏せましたぞ!」
「マジで! ジャスベンダー、万能かよ!! じゃあ、残りはコイツだけだな……真意六合拳の餌食にしてやる」
鼻息を荒くしギデオンの方に敵意をむき出しにする銃皇だが、速攻で御付きの魔術師に止められてしまっていた。
何やら、言い争いに発展しているのか、ジャスべンダーと議論を重ねている。
「目的を果たしたのです。早急に本陣へと帰還すべきです」
「このまま、コイツを手放しにすれば、いずれオヤジの天敵となる 始末するなら今しかない!!」
「周りを良くご覧下さい。自慢の六鬼衆もエライことになってますでしょうに」
なかなか折れようとしない大将に、痺れを切らせたジャスベンダーが、過酷な事実を指し示した。
「ど、同士討ちだと……」
ギデオンを取り逃がした六鬼衆の三人。
そのうちの一人、スキンヘッドの男が白目をむいて地に伏せっていた。
状況からして、ギデオンを始末する為に放った二人の攻撃が仲間に当ってしまったようだ。
狐につつまれたように、ヌンチャク使いのフウガと女剣士は身動き一つ取れないまま、立ち尽くしていた。
「親方様にも敵情視察するだけだと、念を押されていたはずです……そろそろ、本陣に戻らないとパスバインにも怪しまれてしまうでしょう」
離れた場所で、部下から説得を受ける銃皇は罰の悪そうな顔を見せていた。
「運が良かったなぁ!! 不審者!。 今回はこれで引いてやるが、次回は容赦せんぞ!!」
威勢の良い言葉だけを残しながら、銃皇は兵士たちに停戦を命じた。
武装を解除すると、ギデオンの前からそそくさと撤退を始める一軍。
さすが軍隊なだけあって、統率がしっかりと取れている。
戦場から離脱する敵を見逃すしか手立てがなかった。
即刻、追撃したくとも正面には次の敵が待ち構えている。
例の右目に眼帯をした男である。
さきほどの二人が西側勢力を引っかき回していたのは、それとなく理解できていた。
問題は、この中年男だ。何が目的で戦場をうろついていたのか? 謎だらけだが邪魔なことだけは確かだった。
「嗚呼ッ―――何たる不運だぁ……ワスとしたことが、よりよって南の軍勢の言いなりになってしまうとは、嗚呼ッ――――姫様、お赦しを。ただ、食料庫の様子を見にきただけだったはずなのに…………侵入者のせいで肝を冷やしたぞ」
いい歳をこいておきながら、どうしようも大人がそこにいた……。
「何だ? このミゼラブルなクズは」思わず、辛辣な言葉が口を突いて出てしまう。
発現の内容からして西側サイドの人間であることは明らかだった。
よりよって、コイツは襲撃者たちを撃退するどころか、見逃し加勢までしている。
完全に離反した行動を取っているが、眼帯男からすれば、ギデオンもまた敵対する存在である。
「クズなどではなぁぁあ―――い!」男は大声で一喝した。
「ワスは、西方守護代マナシ様の親衛隊隊長、ロッティ・マウア。貴公は、どこの密偵だ? 誰の命を受けて我らが土地を荒らしにきた?」
「酷い言われようだな……僕はギデ。ただの冒険者だ、どこの誰にも仕えていない」
「悲しいぞ、ワスは……。普通の冒険者ならただのなどと強調したりせぬわ。そんな、安易な嘘をワスが見抜けぬと思ったのか!?」
意味の分からない理屈により、ギデオンの言葉は封殺されてしまった。
「どの口が言う」主を平気で裏切りながら自己保身に走る男の詭弁に付き合ってはいられない。
ギデオンは心底、呆れてながら拳を構えた。
指先に今も残るそれは、応力……敵の攻撃に対しての押し戻す力が働いていた。
頭の中で真っ先に浮かんだ、練功の響き。
体内の気を放出させる技法は、ギデオンとって新たなる鬼門だ。
ドルゲニア公国では練功術が民間レベルで浸透している。
仮に、今殴り飛ばした男も達人クラスの使い手だったとしたら、練功を使いこなせていないギデオンの一撃は届いていない可能性がある。
銃皇は仰け反りながらも、バク宙一回転し案の定、体勢を立て直していた。
打撃では、大したダメージは与えられないと判明した。
「ふっへぇ……や、ややっやるじゃふぇーか!」
そうでもなかった……もろに膝にきている。
まるで、生まれたての小鹿のように脚を震わせながら、銃皇は挑みかかろうとしている。
すでに気力だけでなんとかしようとする敵の行動に、ムチャだと難色を示すほかない。
「若、負けたのですか?」
「まっ、負けてふぇ~し。それよか、おまふぇの方はどうらた?」
「言いたいことは伝わりますが、喋ると悪化しますよ。こちらは、首尾は上々といったところですかね~、西側の将を説き伏せましたぞ!」
「マジで! ジャスベンダー、万能かよ!! じゃあ、残りはコイツだけだな……真意六合拳の餌食にしてやる」
鼻息を荒くしギデオンの方に敵意をむき出しにする銃皇だが、速攻で御付きの魔術師に止められてしまっていた。
何やら、言い争いに発展しているのか、ジャスべンダーと議論を重ねている。
「目的を果たしたのです。早急に本陣へと帰還すべきです」
「このまま、コイツを手放しにすれば、いずれオヤジの天敵となる 始末するなら今しかない!!」
「周りを良くご覧下さい。自慢の六鬼衆もエライことになってますでしょうに」
なかなか折れようとしない大将に、痺れを切らせたジャスベンダーが、過酷な事実を指し示した。
「ど、同士討ちだと……」
ギデオンを取り逃がした六鬼衆の三人。
そのうちの一人、スキンヘッドの男が白目をむいて地に伏せっていた。
状況からして、ギデオンを始末する為に放った二人の攻撃が仲間に当ってしまったようだ。
狐につつまれたように、ヌンチャク使いのフウガと女剣士は身動き一つ取れないまま、立ち尽くしていた。
「親方様にも敵情視察するだけだと、念を押されていたはずです……そろそろ、本陣に戻らないとパスバインにも怪しまれてしまうでしょう」
離れた場所で、部下から説得を受ける銃皇は罰の悪そうな顔を見せていた。
「運が良かったなぁ!! 不審者!。 今回はこれで引いてやるが、次回は容赦せんぞ!!」
威勢の良い言葉だけを残しながら、銃皇は兵士たちに停戦を命じた。
武装を解除すると、ギデオンの前からそそくさと撤退を始める一軍。
さすが軍隊なだけあって、統率がしっかりと取れている。
戦場から離脱する敵を見逃すしか手立てがなかった。
即刻、追撃したくとも正面には次の敵が待ち構えている。
例の右目に眼帯をした男である。
さきほどの二人が西側勢力を引っかき回していたのは、それとなく理解できていた。
問題は、この中年男だ。何が目的で戦場をうろついていたのか? 謎だらけだが邪魔なことだけは確かだった。
「嗚呼ッ―――何たる不運だぁ……ワスとしたことが、よりよって南の軍勢の言いなりになってしまうとは、嗚呼ッ――――姫様、お赦しを。ただ、食料庫の様子を見にきただけだったはずなのに…………侵入者のせいで肝を冷やしたぞ」
いい歳をこいておきながら、どうしようも大人がそこにいた……。
「何だ? このミゼラブルなクズは」思わず、辛辣な言葉が口を突いて出てしまう。
発現の内容からして西側サイドの人間であることは明らかだった。
よりよって、コイツは襲撃者たちを撃退するどころか、見逃し加勢までしている。
完全に離反した行動を取っているが、眼帯男からすれば、ギデオンもまた敵対する存在である。
「クズなどではなぁぁあ―――い!」男は大声で一喝した。
「ワスは、西方守護代マナシ様の親衛隊隊長、ロッティ・マウア。貴公は、どこの密偵だ? 誰の命を受けて我らが土地を荒らしにきた?」
「酷い言われようだな……僕はギデ。ただの冒険者だ、どこの誰にも仕えていない」
「悲しいぞ、ワスは……。普通の冒険者ならただのなどと強調したりせぬわ。そんな、安易な嘘をワスが見抜けぬと思ったのか!?」
意味の分からない理屈により、ギデオンの言葉は封殺されてしまった。
「どの口が言う」主を平気で裏切りながら自己保身に走る男の詭弁に付き合ってはいられない。
ギデオンは心底、呆れてながら拳を構えた。
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