異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百十三話

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 ひときわ、プライドが高いのか?
『銃皇』がギデオンを目の仇にしていた。
 草扱いされたことを根に持っているようだが……ことはそう単純でもない。
 コイツとは相性が悪いと、お互い出会い頭に強く感じていた。

 銃皇からすればギデオンは、不相応なほどの品位をほのめかしている怪しい輩だ。
 身分の高い者にしか分からない感性が、目の前に立っている少年を高潔な存在だと認識していた。
 いかなるボロをまとい、汚れた身なりをしていても生まれ持ったものは、隠しきれない。
 認めたくない現実を……否定したところで何も変わらない。
 微かな違いを感じ取ることができるゆえに、ギデオンを嫉妬の対象として見てしまう。

 ギデオンの方はというと、彼ではなくジャスベンダーを注視していた。
 いくら高貴な生まれであろうとも、どれだけ有能であろうとも、銃皇の方に振り向くことはしない。
 心が腐りきっている者など眼中にない……。
 戦争にかこつけて、自国民を苦しめる動機を欲しがっているだけだ。
 民がまともに生活できない領地を誰が欲しがるというのだ。
 侵略するのにしても相応の成果はなければならない。

「ん――はぁ―――ん、はぁぁあ――――」扱いの酷さに全身を震わせながら、銃皇は過呼吸になりかけていた。

「お気を確かに……なんでしたら、小職しょうしょくめが変わりましょうか?」

「いらん……余計な手出しはするな」

「御意! では、こちらはもう一匹のネズミでも駆除しましょう」

 どうにか平静を保っていられるのは、付き人のジャスベンダーの存在が大きく影響している。
 ジャスベンダーは、部下ではないが特別な食客だ。
 本来ならば、護衛して貰うのが筋だが、銃皇にとって、彼の手をわずらわせるのは不本意なようだ。
 片肘を張り自力でどうにかしようとしている。

「こんな奴、俺様が相手にする必要もない。出番だ! 六鬼衆、遊んでやれ」
 パンパンと手を打ち鳴らす音が聞こえると、 三人の若い男女が早急にやってきた。
 甲冑に身を固めた重装備。まだ、さして汚れていない装備は、一方的な戦闘をしかけている証だ。

 まだ、傷が治りきっていない状態かつ、無防備。
 ギデオンにとって彼らを相手にするほど不利益なことはない。
 妥協しても、リハビリになるのかどうかもアヤフヤだ。

「悪く思うなよ、少年。こんな所にいる君が悪いのだから」

「俺の名は、フウガ……怪我人とて、主に背くのなら貴様を斬る」

「覚悟は宜しいか? 私とて、六鬼衆の一人だ。女だからと甘く見れば痛い目をみるぞ!」

 六鬼衆のうち三人が、ギデオンを取り囲んだ。
 スキンヘッドの大男と、キザったいヌンチャク使い、そして武人気質な女剣士。
 三者三様で言葉を交わしてくるが、その実力はいかほどのものなのか?
 ギデオンの頬に汗が伝う。

「冗談キツイぞ。この至近距離で相手の攻撃を避けないといけないのか……」

「いざ! 押して参る」女剣士が開戦の合図をつげた。
「練功武装! 烈破の型」武器を取り出すのと同時に三方から攻撃が飛び出してきた。
 それぞれ、双剣、ヌンチャク、大金鎚とバラエティーに富んでいる。
 どれもが、ただの攻撃とは大きく異なる。
 練功、というドルゲニア独自の強化術で、さらに殺傷能力が高まっている。
 無理に攻撃を受け止めようとすれば、さばききれず連中の攻撃の餌食になるだけだ。

 一瞬の判断と刹那の決断が試された。
 ギデオンは姿勢を低くしながら、三人の中でもっとも効果がありあそうなフウガの軸脚を蹴り払う。
 攻撃直後で、気を緩めていたらしく、容易に崩れた。

 ズダァアアア――――ン! 轟音と共に砂塵が宙高く舞う。
 砂のカーテンに遮られ、何が起きたのか? 銃皇たちには確認できないでいた。
 ただ、地に伏す人影は見えた。

「あっけなく終わったな……」一人呟く銃皇、突然の不幸が襲いかかったきたのはその直後だ。

「そっちも終わったか? ジャスべ―――――!? ごぎゃっ!?」

 トントンと肩を叩かれ、素直に振り向いた途端、包帯で巻かれた拳が銃皇の頬にめり込んだ。
 直前まで六鬼衆と対峙していた、ギデオンが何故か、真後ろに立っていた。

「ふぎゅ……いつの間に? いったい、何者なんだ!? オマエは」

 顔面に突き刺さった左拳の手首をつかみ、引き離そうとする。
 拳を取り外そうとすればするほど、力が加わり重くなってゆく。

「ぢ……ぢぐじょぅ! 重めぇ、重すぎる!! こんな、か細い腕のどこから……ここまで凄まじい力が出てくんだよぉおお!?」

「見た目に惑わされたな。まずは、一発喰らっておけよ!!」

 再度、左拳にグッと力をこめる。ガクン! と銃皇の両膝が曲がり、その身は宙に浮きあがる。
 拳が振り抜かれると、銃皇は力負けして遥か後方まで吹き飛んでゆく。

「鍛錬がなっちゃいない……出直してこい、草男」
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