212 / 362
二百十二話
しおりを挟む
「なぁ、ジャスベンダー! こんな所じゃなくて、もっと人がたくさんいる場所を襲おうぜ!」
目つきの鋭い青年は、容姿だけみれば、どこをどう取っても上流階級の人間だった。
物騒なことばかり口走ってはいるが、歩き方一つとっても嫌に品がある。
右手に持つ乗馬用の鞭を、左の手のひらにペチペチとしきりに当てがっている。
相当、退屈なのか? 気が短いのか? 知らないが………妙にソワソワしていた。
ジャスベンダーと称される術師は、青年とは対照的にマイペースに徹していた。
周囲の一人がギャア、ギャアと騒ぎ立てても、全然、聞こえていないように振る舞っている。
相手が誰であろうと、物怖じすることもない。
鋼のメンタルを持っているようだ。
御付きの魔法使いは、紙の切れ端で折り紙をするぐらいには、リラックスしている。
「若。相手がいたら面倒になるだけです。我々の目的は警告のみ、侵略するのには人手不足です。兵糧攻めは戦の基本、早い段階で食料庫を潰しておけば後々に多大なる影響をもたらすでしょうぞ」
「ああ、まったくだ」魔術師に賛同しながら、若と呼ばれた青年は、さらに追加の兵士を差し向ける。
トータルで何人の部下を引き連れてきたのか、おおよそでしか算出できないが五十人~七十人の間ぐらいだろう。
「オマエたち! 存分に暴れろよ!! これは、王族を侮辱したマナシへの制裁だ!」
事情はともかく、若は怒り心頭といった感じで眉間にしわを寄せながら叫んでいる。
これ以上、ここに居ても新たな情報は得られそうにない。
踵を返そうとするギデオンの視線の真横に、彼と同様に襲撃者の動向をうかがう者がいた。
片目に眼帯をかけた中年の男性だった。
不味いことに相手の方も、ほぼ同時にギデオンの存在に気づいた。
間近に武装集団がいる手前、「あっ」と声を漏らすのも、躊躇われる。
慌てた男が「ミシッミシッミシシッシィ――――――」と虫の鳴き真似をし声を誤魔化しだした。
やらければいいことを、やってくれる。
秋の季節にはいない虫の鳴き声に「なんだ!! 奇声が聞こえるぞ!」と早速、疑いの声を聞くことになった。
「若、そこの茂みに隠れている奴がいますな」
「なんだと? おい! コソコソしてないで居るなら出て来い」
居ないという設定なので、当然ながら二人して隠れ続けた。
互いに「お前が出ろ」と手で合図を送るが、双方、渋って一向に事態が進展しない。
「ちぃ」耐え兼ねたジャスベンダーが軽く舌打ちした。
「出てこないようですね……我々も軽く見られたモノです。時間が押してます、でないのなら茂みごと吹き飛ばすだけですよ。ストラクトレーン!」
ジャスベンダーが魔導書を開いたまま、無詠唱で魔法を発動させた。
腕を前方へ伸ばすと瞬時に魔力が蓄積し手の平から巨大な鉄柱が飛び出してきた。
ドガガガガッガ!! と音を響かせて地面をえぐって来る一撃を咄嗟によけた。
魔力の流れを事前に感知していなければ、回避は間に合わなかっただろう。
木々を押し倒し、森林を破壊してゆく。
その物体の動きに、ギデオンはデジャヴを感じた。
「こ、これはクレーンか……あの時、ガルベナールを打ち抜いた魔法か」
確信を得たギデオンは隠れるのをやめた。
「ようやく、姿を見せたと思ったら細身の弱々しいガキじゃねぇーか!? どこから迷い込んできた?」
「そこの魔術師に訊きたいことがある! アンタ、数日前に飛んでいたグリフォンを襲っただろう?」
「おいよー、早速、俺様を無視するとは良い度胸だなぁぁあ。女みたいに小奇麗な顔しやがって……オマエのような、すかし野郎は徹底して叩きのめしてやらないと気が治まらねぇ。クケケケッ、悪ぃな!!」
「できるものなら、やってみろ雑草頭」
「はぁぁああん!? この野郎ぉお、今、何つった!? 他者の容姿をとやかく言うのは、人してなっちゃいねぇーよなぁぁああ―――!!」
ギデオンの暴言をよほど気にしたのか? 青年は頭部を両手で押さえつけながら顔を真っ赤にしていた。
確かに彼の髪は葉蘭の葉ごとく楕円形の束になっている。
「散々、他人をけなしておきながら、自分は棚上げ。どこまで被害者面するつもりなんだ、この草は……?」
「またっ! 草、言いやがってっぇぇぇええ……俺様は――「若っ!! 見ず知らずの輩に対して不要な名乗りは禁物ですよ!」
「ちぃぃ、わーたよ。危うくを口を滑らせるところだった……助かったぞ、ジャスベンダー」
魔術師に御されて、青年は素性を明かすのを間一髪でとどまった。
代わりに告げてきたのが――――
「銃皇とでも名乗らせてもらう。今後、俺様のことは、そう呼ぶがいい」だった。
「呼ぶわけねぇだろ」ギデオンは即答した。
目つきの鋭い青年は、容姿だけみれば、どこをどう取っても上流階級の人間だった。
物騒なことばかり口走ってはいるが、歩き方一つとっても嫌に品がある。
右手に持つ乗馬用の鞭を、左の手のひらにペチペチとしきりに当てがっている。
相当、退屈なのか? 気が短いのか? 知らないが………妙にソワソワしていた。
ジャスベンダーと称される術師は、青年とは対照的にマイペースに徹していた。
周囲の一人がギャア、ギャアと騒ぎ立てても、全然、聞こえていないように振る舞っている。
相手が誰であろうと、物怖じすることもない。
鋼のメンタルを持っているようだ。
御付きの魔法使いは、紙の切れ端で折り紙をするぐらいには、リラックスしている。
「若。相手がいたら面倒になるだけです。我々の目的は警告のみ、侵略するのには人手不足です。兵糧攻めは戦の基本、早い段階で食料庫を潰しておけば後々に多大なる影響をもたらすでしょうぞ」
「ああ、まったくだ」魔術師に賛同しながら、若と呼ばれた青年は、さらに追加の兵士を差し向ける。
トータルで何人の部下を引き連れてきたのか、おおよそでしか算出できないが五十人~七十人の間ぐらいだろう。
「オマエたち! 存分に暴れろよ!! これは、王族を侮辱したマナシへの制裁だ!」
事情はともかく、若は怒り心頭といった感じで眉間にしわを寄せながら叫んでいる。
これ以上、ここに居ても新たな情報は得られそうにない。
踵を返そうとするギデオンの視線の真横に、彼と同様に襲撃者の動向をうかがう者がいた。
片目に眼帯をかけた中年の男性だった。
不味いことに相手の方も、ほぼ同時にギデオンの存在に気づいた。
間近に武装集団がいる手前、「あっ」と声を漏らすのも、躊躇われる。
慌てた男が「ミシッミシッミシシッシィ――――――」と虫の鳴き真似をし声を誤魔化しだした。
やらければいいことを、やってくれる。
秋の季節にはいない虫の鳴き声に「なんだ!! 奇声が聞こえるぞ!」と早速、疑いの声を聞くことになった。
「若、そこの茂みに隠れている奴がいますな」
「なんだと? おい! コソコソしてないで居るなら出て来い」
居ないという設定なので、当然ながら二人して隠れ続けた。
互いに「お前が出ろ」と手で合図を送るが、双方、渋って一向に事態が進展しない。
「ちぃ」耐え兼ねたジャスベンダーが軽く舌打ちした。
「出てこないようですね……我々も軽く見られたモノです。時間が押してます、でないのなら茂みごと吹き飛ばすだけですよ。ストラクトレーン!」
ジャスベンダーが魔導書を開いたまま、無詠唱で魔法を発動させた。
腕を前方へ伸ばすと瞬時に魔力が蓄積し手の平から巨大な鉄柱が飛び出してきた。
ドガガガガッガ!! と音を響かせて地面をえぐって来る一撃を咄嗟によけた。
魔力の流れを事前に感知していなければ、回避は間に合わなかっただろう。
木々を押し倒し、森林を破壊してゆく。
その物体の動きに、ギデオンはデジャヴを感じた。
「こ、これはクレーンか……あの時、ガルベナールを打ち抜いた魔法か」
確信を得たギデオンは隠れるのをやめた。
「ようやく、姿を見せたと思ったら細身の弱々しいガキじゃねぇーか!? どこから迷い込んできた?」
「そこの魔術師に訊きたいことがある! アンタ、数日前に飛んでいたグリフォンを襲っただろう?」
「おいよー、早速、俺様を無視するとは良い度胸だなぁぁあ。女みたいに小奇麗な顔しやがって……オマエのような、すかし野郎は徹底して叩きのめしてやらないと気が治まらねぇ。クケケケッ、悪ぃな!!」
「できるものなら、やってみろ雑草頭」
「はぁぁああん!? この野郎ぉお、今、何つった!? 他者の容姿をとやかく言うのは、人してなっちゃいねぇーよなぁぁああ―――!!」
ギデオンの暴言をよほど気にしたのか? 青年は頭部を両手で押さえつけながら顔を真っ赤にしていた。
確かに彼の髪は葉蘭の葉ごとく楕円形の束になっている。
「散々、他人をけなしておきながら、自分は棚上げ。どこまで被害者面するつもりなんだ、この草は……?」
「またっ! 草、言いやがってっぇぇぇええ……俺様は――「若っ!! 見ず知らずの輩に対して不要な名乗りは禁物ですよ!」
「ちぃぃ、わーたよ。危うくを口を滑らせるところだった……助かったぞ、ジャスベンダー」
魔術師に御されて、青年は素性を明かすのを間一髪でとどまった。
代わりに告げてきたのが――――
「銃皇とでも名乗らせてもらう。今後、俺様のことは、そう呼ぶがいい」だった。
「呼ぶわけねぇだろ」ギデオンは即答した。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました
言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。
貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。
「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」
それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。
だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。
それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。
それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。
気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。
「これは……一体どういうことだ?」
「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」
いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。
――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる