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二百十一話
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荒れ狂う大気の流れに、老朽化した橋板がバラバラに飛び散る。
小柄なシユウは衝撃により天へと打ち上げられてしまっていた。
「シユウ―――!! 待っていろ、すぐ助ける!!」
自身の影から猟犬を放つ。
ギデオンの一部とも言えるスコルは、指示がなくとも、自らどうするべきなのかを知っている。
一匹の魔獣は崩落しかけた橋の上を迷わず駆けて、上空へと跳躍した。
ショックで失神した幼子の着物の衿を口でくわえ、その身を受け止める。
そこから首を大きくふり、主に向けて投げ飛ばした。
少々、荒っぽいが足場の確保ができない以上、これが最良策だった。
シユウを見事にキャッチし、ギデオンは即座にスコルを銃化させた。
試したことはないが、スコルの意思で魔弾をフルオート(連射)させた。
真逆の方向に撃つことで反動を利用し、弾け飛んでギデオンの方へと戻ってきた。
主たるギデオンの想いに応えたモノではあるが、魔銃に触れず銃撃することは、ガルムとの絆が深まっていたからこそ可能になったことだ。
「よく、やったぞ! スコル」
再び、獣姿となり返ってきた相棒の頭をなでてやる。
ツヤのある黒毛は触ると柔らかく、肌触りが心地よい。
褒められたスコルもまた、ベロを出しながら「ハァハァ……!」と興奮気味に息を切らせつつ尻尾を振るっている。
実に、嬉しそうだ。
「シユウのこと頼んだぞ。僕は、先に行って様子を探ってくる」
スコルの背にシユウを乗せると、ギデオンは地を蹴り駆け出した。
最初の一歩を踏み込むと瞬く間に、二百メートル近く移動し加速してゆく。
ファルゴから盗み見して体得したパーミッション・トランスは長距離移動にも役立つ。
属性ごとに癖があるらしく、雷属性であるファルゴは、超高速移動を得意とし、天属性であるギデオンは跳躍力に長けている。
走りゆく中、流れる岩山の風景の中にポツンと集落のような場所が現れた。
人がいるのは間違いない。
なぜなら、さきほどの爆発はそこから発生したものだからだ。
近づくにつれて火薬と焦げた臭いが鼻を麻痺させてくる。
村の爆発理由が分からない以上は、現地におもき調査するしかない。
この先に拡がるリコリスの群生地を抜ければ、村はすぐそこだ。
「おっと、これ以上は通行……止めぇええええ!! ブハァッァアァッ――――」
「ん? 何か蹴り飛ばしたか?」
押し寄せる空気抵抗を全身に受け、感覚が鈍くなっていたギデオンには、守備兵がいたことにすら気づけずにいた。
加速を帯びた膝蹴りは、常識では考えられないほどの凄まじい破壊力を持っていた。
若き冒険者が過ぎ去った後には、リコリスの花が静かに揺らいでいた。
近くの茂みには、与えられた任を果たせず、即刻退場させられた公国兵が不貞腐れながら横たわっていた。
村の手前までやってくると木の陰に身をひそめ村の状態を確認する必要があった。
大多数でやってきたのなら、ともかく……今回は単独での行動、できることは限られている。
集落だと思った場所は、どうやら村ではなく別の施設のようだった。
そう思い至ったのは、人の少なさと、住居のような個人の建物がまったくと言って良いほど見当たらないからだ。
おまけに、兵士の出入りが多い。
近場の倉庫が一棟、炎上し煙が立ち込めている……これで確定した。
爆発は事故によるモノではない。人為的に引き起こされたモノだ。
大きな建屋から荷を運びだしている兵士たち、それを阻止しようとどこからともなく、農民が駆けつけてくる。
内一人が、自分たちを取り押さえようとする兵士に向かって叫ぶ。
「おのれ! せっかく溜めた食料を、そう易々奪わせてなるものかぁ――――!?」
すでに、武力衝突できなくなっているほど、彼らは壊滅的なダメージを被っていた。
決死になって、公国軍の魔手から食料保存庫を防衛しようとも、圧倒的な戦力差で負けた以上、降服するのも時間の問題だ。
それでも、なお食い下がろうとしない農民たちの顔面に容赦のない蹴りが叩き込まれた。
「クッケケケケ、弱っちい癖に、反抗的な態度は人並みかよ? マァジで! 興醒めなんだが?」
開口一番で暴言を吐く、一軍の大将。
他の雑兵に比べて、あきらかに装いは違う。
軍服を着てはいるが、おおよそ戦には持ち込めない仕立ての良い上物。
軍の中心には貴族風の出で立ちをした青年。
その傍らには紺色のローブを羽織った魔術師の男がいる。
食料庫を襲撃した軍を率いていたのは、コイツら二人だ。
未だ、詳細は判明していないが西地区の軍隊でないことは確かである。
戦時下において略奪は下劣な行為だ。
何のためらいもなく、それを行う連中は実に愉し気に嗤っていた。
これ以上にないほど虫唾が走る光景だった。
小柄なシユウは衝撃により天へと打ち上げられてしまっていた。
「シユウ―――!! 待っていろ、すぐ助ける!!」
自身の影から猟犬を放つ。
ギデオンの一部とも言えるスコルは、指示がなくとも、自らどうするべきなのかを知っている。
一匹の魔獣は崩落しかけた橋の上を迷わず駆けて、上空へと跳躍した。
ショックで失神した幼子の着物の衿を口でくわえ、その身を受け止める。
そこから首を大きくふり、主に向けて投げ飛ばした。
少々、荒っぽいが足場の確保ができない以上、これが最良策だった。
シユウを見事にキャッチし、ギデオンは即座にスコルを銃化させた。
試したことはないが、スコルの意思で魔弾をフルオート(連射)させた。
真逆の方向に撃つことで反動を利用し、弾け飛んでギデオンの方へと戻ってきた。
主たるギデオンの想いに応えたモノではあるが、魔銃に触れず銃撃することは、ガルムとの絆が深まっていたからこそ可能になったことだ。
「よく、やったぞ! スコル」
再び、獣姿となり返ってきた相棒の頭をなでてやる。
ツヤのある黒毛は触ると柔らかく、肌触りが心地よい。
褒められたスコルもまた、ベロを出しながら「ハァハァ……!」と興奮気味に息を切らせつつ尻尾を振るっている。
実に、嬉しそうだ。
「シユウのこと頼んだぞ。僕は、先に行って様子を探ってくる」
スコルの背にシユウを乗せると、ギデオンは地を蹴り駆け出した。
最初の一歩を踏み込むと瞬く間に、二百メートル近く移動し加速してゆく。
ファルゴから盗み見して体得したパーミッション・トランスは長距離移動にも役立つ。
属性ごとに癖があるらしく、雷属性であるファルゴは、超高速移動を得意とし、天属性であるギデオンは跳躍力に長けている。
走りゆく中、流れる岩山の風景の中にポツンと集落のような場所が現れた。
人がいるのは間違いない。
なぜなら、さきほどの爆発はそこから発生したものだからだ。
近づくにつれて火薬と焦げた臭いが鼻を麻痺させてくる。
村の爆発理由が分からない以上は、現地におもき調査するしかない。
この先に拡がるリコリスの群生地を抜ければ、村はすぐそこだ。
「おっと、これ以上は通行……止めぇええええ!! ブハァッァアァッ――――」
「ん? 何か蹴り飛ばしたか?」
押し寄せる空気抵抗を全身に受け、感覚が鈍くなっていたギデオンには、守備兵がいたことにすら気づけずにいた。
加速を帯びた膝蹴りは、常識では考えられないほどの凄まじい破壊力を持っていた。
若き冒険者が過ぎ去った後には、リコリスの花が静かに揺らいでいた。
近くの茂みには、与えられた任を果たせず、即刻退場させられた公国兵が不貞腐れながら横たわっていた。
村の手前までやってくると木の陰に身をひそめ村の状態を確認する必要があった。
大多数でやってきたのなら、ともかく……今回は単独での行動、できることは限られている。
集落だと思った場所は、どうやら村ではなく別の施設のようだった。
そう思い至ったのは、人の少なさと、住居のような個人の建物がまったくと言って良いほど見当たらないからだ。
おまけに、兵士の出入りが多い。
近場の倉庫が一棟、炎上し煙が立ち込めている……これで確定した。
爆発は事故によるモノではない。人為的に引き起こされたモノだ。
大きな建屋から荷を運びだしている兵士たち、それを阻止しようとどこからともなく、農民が駆けつけてくる。
内一人が、自分たちを取り押さえようとする兵士に向かって叫ぶ。
「おのれ! せっかく溜めた食料を、そう易々奪わせてなるものかぁ――――!?」
すでに、武力衝突できなくなっているほど、彼らは壊滅的なダメージを被っていた。
決死になって、公国軍の魔手から食料保存庫を防衛しようとも、圧倒的な戦力差で負けた以上、降服するのも時間の問題だ。
それでも、なお食い下がろうとしない農民たちの顔面に容赦のない蹴りが叩き込まれた。
「クッケケケケ、弱っちい癖に、反抗的な態度は人並みかよ? マァジで! 興醒めなんだが?」
開口一番で暴言を吐く、一軍の大将。
他の雑兵に比べて、あきらかに装いは違う。
軍服を着てはいるが、おおよそ戦には持ち込めない仕立ての良い上物。
軍の中心には貴族風の出で立ちをした青年。
その傍らには紺色のローブを羽織った魔術師の男がいる。
食料庫を襲撃した軍を率いていたのは、コイツら二人だ。
未だ、詳細は判明していないが西地区の軍隊でないことは確かである。
戦時下において略奪は下劣な行為だ。
何のためらいもなく、それを行う連中は実に愉し気に嗤っていた。
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