異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百九話

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 破天荒とは、まさにこの人の為にあるような言葉だ。
 問題を度外視するアビィの発言に絶句せざるを得ない。

 少なくとも、他者に物事を教示する人間。
 その立場でありながら、師がグダグダしているようであれば、弟子も自然とダメになってしまう。
 大元ならともかく、彼女とはソリが合わない。
 一度そう思ってしまうと、関係を築くのは困難になる。

「申し訳ないが、僕は貴女に何かを教わるつもりはない」
 正面きって告げるギデオンに、アビィは表情一つ変えずに尋ねる。

「それは君の自由だよ。だけど、理由ぐらいは教えて欲しいなぁ~。よく、分からないのって気持ち悪いっしょ?」

「僕は、悪党を追い詰めてこの国に来てしまった。それだけなら、良かったのだが……こともあろうか、友人たちを巻き込んでしまった。ウチ一人は公国の間者に連れ去らわれてしまっている。だから、ここで足踏みしているわけにはいかないんだ! 一刻も早く見つけ出さないと、彼女がどうなるのかも分からない」

「それ、アテがあんの?」

 すべてを明かしたつもりでも、どう受け止めるのかは相手次第だ。
 ギデオンの説明を聞いたアビィの態度が急に冷ややかなモノに変わった。

「好かないなぁ、君の言い分。ワタシには、誰かのせいにして自分の行動を正当化しようとしているようにしか思えないんだけど……?」

「僕が間違っていると?」

「少なくとも、君がここにいる理由ではないよ。助ける相手がどこにいるのかも分からないままで、どうやって見つけるつもりだい? 情報を得るにしても何のコネもない。考えてごらんよ! それが、どれほど多大な時間を必要とするのかを。このまま進めば、見つけた時は手遅れだ」

 否定できない意見に、ギデオンは拳を握り締めた。
 感覚がマヒしているらしく、力が全然伝わってこない。
 アビィの厳しさが、情あっての物だと心で受け止められるほど、少年は達観していない。
 彼女の言葉に賛同することは、ある意味、主従の関係を作ってしまう。
 それが、わだかまりとなり、大きな反発を生む。

 ガタン! ギデオンの両手がテーブルを叩きつけた。

「アンタの御高説なんざ、どうでもいい。僕はもう、騙されない……絶対に誰かの都合では動かない。アンタには悪いが僕は僕の選んだ道を突き進むだけだ! 理由なんかいらない。理由に支配されたアンタらのような、ミスは犯さない!!」

「あ、兄ちゃん! どこに行くんだ!?」

 そのまま立ち上がると、ギデオンはロッジを飛び出してしまった。
 シユウが慌てて後を追う。
 独り部屋に取り残されたアビィは、こめかみを抑えながら呟く。

「耳が痛いなぁ……高潔すぎるにもほどがあるでしょ。いや……間違えたのはワタシの方なのかもしれない。あれはたんなる否定じゃない、完全なる拒絶だ……しくったなぁ、彼との距離感を間違えてしまった」

 アビィの考察はおおむね、正解に近かった。
 誰かに従事することをギデオンが頑なに拒むのは、恩師である司教エゼックトの裏切りが大きく尾を引いていた。
 それほどまで、彼は司教様を信頼していた。
 この世に、これほどまで素晴らしい方はいないと幼心に確信すらしていた。
 ギデオンにとって、裏切りとは利用されていたことではない。
 むしろ、恩師の為ならばと自ら進んで行ってきたことだ。
 彼が許せないのはエゼックト自身が信念を曲げて、悪事に加担したことである。

 ギデオンの報復は決して易い私情なんかではない。
 世界を救うはずの者が、神に背いた結果……数多の血が流されることになった。
 それでも普通の子供のように生活していれば、知らぬ世界の出来事だと遠く感じられた事だろう。
 ギデオンにはそれが無かった。
 司教の手駒として世の中の暗部を見てきた聖歌隊でも数少ない存在だった。
 彼らまた、その手を他者の血で穢してきた。

 聖王国の繁栄は多くの犠牲の上に成り立っている。
 エゼックト自身もまた、宗教国家の血肉となってしまった。

 司教という、かせがなくなり次代の英雄と評されるギデオンは、貴族たちにとって、その地位を揺るがす脅威でしかない。
 ゆえに、クロイツを筆頭する武闘派に目をつけられることとなった。
 そこから『ミルティナスの悲涙』に発展してしまった。

 大切な者を失えば、どうなってしまうのか誰よりもギデオン本人が知っていた。
 拒絶の裏に隠されているのは恐れだ。
 また、新たに大切な存在ができた時、どう向き合っていけばいいのか? 若い彼は袋小路に迷ったまま出られずにいた。
 その苦痛を分かち合えない以上は、進展はない。
 ギデオンだけではなく、アビィにも運命という名の試練は与えられていた。
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