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二百七話
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「霊峰トラロックに向かうのだろう? ならば、ついでだ。山の主に、この手紙を届けてくれないか?」
「いいのか? せっかく、治療してもらったのに」
「良くはないね~。安静にしてくれていたら一番、嬉しいんだけど……君、我慢できず一人で勝手に動くタイプでしょ? だったら無茶する前に色々とやって貰おうと思ってね」
何と皮肉が効いた依頼だろうか。
大元は、せっかちなギデオンの悪癖を見越し、暴走しないように動機を与えてきた。
手紙を届けなければいかない。
この目的が、優先事項とされる限りギデオンは自由気ままに冒険とはいかない。
地味だが、的確な方法なのは分かる。
「シユウ――――!! ギデ君を手伝いなさい!」
大元が声高く叫ぶと、飛竜に騎乗したままシユウが慌ただしく現れた。
「呼びましたか? 師匠!」
「ギデ君を飛竜でトラロックの山頂へ運んで欲しい。竜騎士になるための実践だ。いかに、護衛対象の安全を確保して任をこなせるか見せてくれ!」
「分かっただ、オイラ頑張る! さあ、兄ちゃん準備が整い次第、出発するよ」
緊張を走らせながらも、シユウの瞳は輝いて見えた。
その光が何なのか、ギデオンは良く知っている。
かって、パラディンを目指した頃の自分も似たように、瞳を輝かせていたのかもしれない。
さすがに、鏡に映る自分を見てそう思えるほど、ナルシストでもない。
知っているのは友の顔。彼もまた、シユウと同じように竜騎士を目指していた――――
「準備できたぞ……本当に乗っても大丈夫なのか?」
「ヘーキ、ヘーキ! オイラだって乗っているんだよ? 意外と怖がりなんだな」
思いがけないカタチでドルゲニア中央、霊峰トラロックに向かうことになった。
人生初のワイバーン騎乗に、ギデオンはドギマギしていた。
いくら生き物だとしても馬とは勝手が違う。
そもそも、気性の荒い竜を調伏させようという発想がおかしい。
今は、大人しくしているが、いつ暴れ出すのか考えただけでも肝を冷やす。
「いいから、早く乗るとね!」
シユウに背突かれて、ワイバーンに飛び乗った。
まるで丸太に跨いだような気分になるも、一度飛び立てば全身に心地良い風を浴び気分爽快となる。
優雅な大空の旅が始まった。
地上にいる大元へと手をふりながら、しばし別れを告げる。
シユウが手綱を手にとり引っ張るとワイバーンは前進し始めた。
この国に入ってきた時とは違い、今回は心にゆとりがある。
分厚い竜鱗を持つワイバーンも、イカツイ見た目とは異なり軽やかに天空を突き進んでゆく。
その中で眼下に広大なパノラマが開けてゆく。
例えるなら、雅やかな反物がいくつも地に広げられ、それらが折り重なった状態。
着物生地のように複雑でありながらも調和の取れた色彩の土壌がそこはある。
表情、豊かな秋模様は、どこまでも続いているが一概に全てが同じとは言えない。
よく見ると、群生している植物が地域ごとに違うのが分かる。
ギデオンたちのいる北部では、紅葉が多く見られた。
「兄ちゃん、この国のもう一つの名前を知っているか?」ワイバーンを操作しながらシユウが問いかけてきた。
「常秋の国か?」
「そうとも言えっけど、オイラたち公国民にとってはそれが当然だから、そうは呼ばんて!」
「なら、龍の大国か!? そう呼ばれていると以前、風の噂で耳にした」
「んだ! 今から、向かうトラロックは龍の巣窟が近いんだわ。少しでも道を外れれば、敵意を持った龍に遭遇する可能があるから気をつけてちょ!」
「山の主とか言ったよな? ソイツは、そこに住んでいるんだろう? だったら平気だろう。少なくとも人が生活できるんだからな」
「…………まぁ、会えば分かるべ」
言葉を濁したようなシユウの一言が刺さるも、あえて言及はしない。
それとなく、言いたいことは察していた。
呂下のギルドマスター、カンツもここには、危険な邪龍が潜んでいると話していた。
そんな場所で暮らしている人間が、普通であるわけがない。
「山頂が見えてきたな! あの場所に小屋があるぞ」
「すげぇー、目が良いのな。オイラ、何度か先生に連れられて来たことがあるけど、毎度、あん人の小屋を探すのに苦労すんのよ」
ギデオンの示した方向にワイバーンが旋回し、地上へと降下してゆく。
乗り物とは違い、急に止まるのではなく徐々に減速しながらゆっくりと着地する。
気圧差が関係しているのだろうか? 降りた途端、耳鳴りがしてきた。
上空から見えた小屋は、地上からだと、それなりに大きい山岳ロッジだった。
早速、扉をノックしてみると「はーい」と中から女性の声が聞こえた。
「いいのか? せっかく、治療してもらったのに」
「良くはないね~。安静にしてくれていたら一番、嬉しいんだけど……君、我慢できず一人で勝手に動くタイプでしょ? だったら無茶する前に色々とやって貰おうと思ってね」
何と皮肉が効いた依頼だろうか。
大元は、せっかちなギデオンの悪癖を見越し、暴走しないように動機を与えてきた。
手紙を届けなければいかない。
この目的が、優先事項とされる限りギデオンは自由気ままに冒険とはいかない。
地味だが、的確な方法なのは分かる。
「シユウ――――!! ギデ君を手伝いなさい!」
大元が声高く叫ぶと、飛竜に騎乗したままシユウが慌ただしく現れた。
「呼びましたか? 師匠!」
「ギデ君を飛竜でトラロックの山頂へ運んで欲しい。竜騎士になるための実践だ。いかに、護衛対象の安全を確保して任をこなせるか見せてくれ!」
「分かっただ、オイラ頑張る! さあ、兄ちゃん準備が整い次第、出発するよ」
緊張を走らせながらも、シユウの瞳は輝いて見えた。
その光が何なのか、ギデオンは良く知っている。
かって、パラディンを目指した頃の自分も似たように、瞳を輝かせていたのかもしれない。
さすがに、鏡に映る自分を見てそう思えるほど、ナルシストでもない。
知っているのは友の顔。彼もまた、シユウと同じように竜騎士を目指していた――――
「準備できたぞ……本当に乗っても大丈夫なのか?」
「ヘーキ、ヘーキ! オイラだって乗っているんだよ? 意外と怖がりなんだな」
思いがけないカタチでドルゲニア中央、霊峰トラロックに向かうことになった。
人生初のワイバーン騎乗に、ギデオンはドギマギしていた。
いくら生き物だとしても馬とは勝手が違う。
そもそも、気性の荒い竜を調伏させようという発想がおかしい。
今は、大人しくしているが、いつ暴れ出すのか考えただけでも肝を冷やす。
「いいから、早く乗るとね!」
シユウに背突かれて、ワイバーンに飛び乗った。
まるで丸太に跨いだような気分になるも、一度飛び立てば全身に心地良い風を浴び気分爽快となる。
優雅な大空の旅が始まった。
地上にいる大元へと手をふりながら、しばし別れを告げる。
シユウが手綱を手にとり引っ張るとワイバーンは前進し始めた。
この国に入ってきた時とは違い、今回は心にゆとりがある。
分厚い竜鱗を持つワイバーンも、イカツイ見た目とは異なり軽やかに天空を突き進んでゆく。
その中で眼下に広大なパノラマが開けてゆく。
例えるなら、雅やかな反物がいくつも地に広げられ、それらが折り重なった状態。
着物生地のように複雑でありながらも調和の取れた色彩の土壌がそこはある。
表情、豊かな秋模様は、どこまでも続いているが一概に全てが同じとは言えない。
よく見ると、群生している植物が地域ごとに違うのが分かる。
ギデオンたちのいる北部では、紅葉が多く見られた。
「兄ちゃん、この国のもう一つの名前を知っているか?」ワイバーンを操作しながらシユウが問いかけてきた。
「常秋の国か?」
「そうとも言えっけど、オイラたち公国民にとってはそれが当然だから、そうは呼ばんて!」
「なら、龍の大国か!? そう呼ばれていると以前、風の噂で耳にした」
「んだ! 今から、向かうトラロックは龍の巣窟が近いんだわ。少しでも道を外れれば、敵意を持った龍に遭遇する可能があるから気をつけてちょ!」
「山の主とか言ったよな? ソイツは、そこに住んでいるんだろう? だったら平気だろう。少なくとも人が生活できるんだからな」
「…………まぁ、会えば分かるべ」
言葉を濁したようなシユウの一言が刺さるも、あえて言及はしない。
それとなく、言いたいことは察していた。
呂下のギルドマスター、カンツもここには、危険な邪龍が潜んでいると話していた。
そんな場所で暮らしている人間が、普通であるわけがない。
「山頂が見えてきたな! あの場所に小屋があるぞ」
「すげぇー、目が良いのな。オイラ、何度か先生に連れられて来たことがあるけど、毎度、あん人の小屋を探すのに苦労すんのよ」
ギデオンの示した方向にワイバーンが旋回し、地上へと降下してゆく。
乗り物とは違い、急に止まるのではなく徐々に減速しながらゆっくりと着地する。
気圧差が関係しているのだろうか? 降りた途端、耳鳴りがしてきた。
上空から見えた小屋は、地上からだと、それなりに大きい山岳ロッジだった。
早速、扉をノックしてみると「はーい」と中から女性の声が聞こえた。
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