異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百五話

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 あまりに興奮しすぎてギルドの親父が唾を飛ばしながら慌てふためく。
 嫌な贈り物をヒョイっと避ける若き冒険者を見ながら、「おっと、失敬」として軽く咳払いする。

「俺の名は、カンツ見ての通り、ここにギルドマスターだ! 小僧、名は何という?」

 自身たっぷりに素性を明かす、オヤジにギデオンは無言のまま目を見開いていた。
 アンタがギルマスだなんて、何の冗談だ。と言わんばかりの驚きようだ。

 それもそのはず、カンツ自身の格好は鎧姿に、バケツのような兜。
 どこをどう取っても、戦場へ向かう出で立ちである。
 ベテラン冒険者と言われれば納得もできよう。
 けれど、彼以外の冒険者が、もうここには居ないのは紛れもない事実。
 自分だけでも冒険者をやらなければならない。
 ギルドを存続させるための強硬策として、このような真似をしてきたのではないのだろうか?
 見方を変えれば、これまで色々と苦心してきた姿が想像できる。

「僕の名はギデだ、冒険者としては駆け出しだが、それなりに腕には覚えはある」

「本当か? そんな、か細い腕でバケモノ相手に戦えるのか? 怪しいもんだな?」

 ギルドマスターというわりには見た目だけで人を判断する中年に、ギデオンは半ば呆れ果てていた。
 対人戦経験が少ない証拠だ。
 熟練者なら、人を外見で判断する危険性を理解しているはず。

「ギルマスなら本来、ギルドの管理をしなきゃいけないだろう。冒険者に募集をかけたりしなかったのか?」

「無論、かけたさ。けど、皆も生活がかかっている、東の公都へと赴き、手頃な仕事を得ようとするのは当然だ」

「それで、他所に冒険者を取られたわけだ。とにかく、この依頼を引き受けるから手配してくれ、悪いがアンタの思い出話に、これ以上は付き合うつもりはない」

 ギデオンはわざと冷たくあしらってみせた。

 過去に縋って生きてゆくのは自由だが、そこに巻き込まれている悠長な時間など一切ない。
 とうに過ぎてしまっていた事なのだ。
 いつもでも、同じところに留まるのではなく先を目指すしか、この落ち目のギルドを立て直す策はない。

「小僧、はっきりいってお前さんの要件は通らない。ギルドとしては、ハイクラスの冒険者でかつ体調完備ばんぜんな奴に引き受けて貰いたい。お前さんのような死に体が行っても任務失敗に終わるだけだ! 大体―――」

 カンツが口やかましく、ギデオンに選んだ依頼書いちまいを突きつけた。

 ドルゲニア中央に位置する霊峰トラロックにて、スカラードラゴンとベルキュールの二体の邪龍討伐を果たす。
 依頼書の内容には、そう記載されていた。
 一体でも、手に負えない邪龍をたった一人で倒そうだなんて、頭のネジがぶっ飛んでいるとしか言いようがない。
 この呂下の街から公国の中心部に位置する霊峰までは、直線距離でも八百キロメートル、南下しなければ辿り着くことすらできない。
 トドメに包帯だらけの身体、どう考えても長旅などできない様だ。

「何もかもが準備不足、気持ちは分からんでもないが、焦りは禁物だ。まずは大物を狙うのではなく小物相手にして、公国のモンスターになじむのベターだろうよ」

「なんか、オッサン……ギルマスみたいだな」

「いあやややあ、ギルマスだってよ! 話、ちゃんと聞いていたのか!?」

 口元に手をあてがい少しの間、考え込むギデオン。
 他の簡単な依頼を勧められたが、依然として拒み続ける。

「分かった、ひとまず出直すことにするよ」

 それだけ告げるとギデオンは、ギルドから颯爽と出てゆく。
 結局、何一つ依頼を引き受けないまま過ごすことになったが、そうした言動は決してギデオンの気まぐれではない。
 相応の考えがあってのことだ。

 ギデオンとって依頼とはするものでなく、どうかという部分に重きを置いていた。
 つまり冒険者として活躍するのではなく、冒険者という立場を利用して自分の為すべきことを果たす。
 これは、聖王国から逃げのびた時から、ずっと変わっていない。

 難易度でクエストを選んだのではない。
 クエストの内容こそが肝心だった。
 公国のことについて、少しだけ大元から教わっていた彼は、東西南北に四人の権力者がいるのを知っていた。
 選んだ、クエストが指定してきた場所こそ、どうしても足を運んでおきたい場所だった。
 霊峰トラロックは、クロスポイントだ。
 そこで、東西南北の境界線が交わる。

 つまり、戦場における最前線。がくということも相まって近隣の様子が一望できる。
 地形や景色を知ることは、この国の情勢をうかがい知ることができる絶好の機会だ。
 さらに道中、色々な人々から為になる話を聞けるかもしれない。
 それこそがギデオンの目論見だった。
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