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二百四話
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国が変われば常識、そぐわず。
呂下のギルドは、これまで見知ったものとは、一風変わった外観をしていた。
公共の施設というよりも、古民家を改装したような……まるで、誰かの家に入るような感覚に抵抗が出てしまう。
ましてや、初めて訪れる場所だ。本当にここで合っているのかも疑ってしまう。
まだ、昼間だというのにギルド近辺は物静かなものだった。
街全体を通して見ても、視界に映る景色には人影が少ない。
サビれている街並みは、どうにもできないが、心が貧しくなると人は何かをしようとする気力さえも失せてしまう。
そんな印象を受けながらギルドの戸を叩いた。
戸口が開かれると渋顔のオヤジがジロリとギデオンを睨みつけてきた。
「要件は何だ?」ぶっきらぼうに告げるオヤジは、様子からしてギルド職員らしい。
「仕事を斡旋してほしい。ギルドなんだろう? このボロい民家」
「ふむ? 済まないが、もう一度だけ言ってくれないか? 近頃は、耳が遠くなってしまってな」
「僕はセカンダリィの冒険者だ。ライセンスも、この通り持っている」
ズタズタになった法衣の内ポケットから、冒険者プレートを取り出し見せてみた。
現物を見るなり、訝しげにしていたオヤジの表情が、一転して目を見開き驚嘆したものへと変わっていた。
「マジか! えらい、久しぶりだわ。ここにホンマもんの冒険者がやってくるなどとは……お前、他所からきた奴か? 本来、接客は俺の仕事ではないが今日は特別に対応してやる」
戸をガラッと開き、オヤジが手招きする。指示されたまま建屋に入ると、すぐにまた戸に鍵がかけられた。
「ずいぶんと、警戒しているようだな。が……そんなに厳重に見張っていて、キリがないだろう」
「止む無しだ。大人の事情という奴だわ、ゆえ合ってこのギルドを守らなければならない」
ギルドの中には、いるはずの冒険者の姿が見当たらない。
そこまでは容易に想定はしていたが、問題は営業しているのかどうかに掛かっている。
「ギルドの定休日ではなさそうだな……オッサン、どうして誰もいないんだ?」
「そんなの、一つしかなかろう! 冒険者がいないからだ!!」
訊いた、傍から同じ、返答がやってきた。
オヤジは嬉々として山積みとなった書類の束を持ち出し、ギデオンの前に置いた。
「これは……? 討伐クエストの依頼みたいだが、凄い量だな」
「だろう!? 誰も討伐依頼を請け負う奴がいないんだ。ここいらのモンスターは獰猛で強いのが多いから、報酬の金額では割に合わねぇ。昔こそは腕利きの冒険者が多数在籍していて、このギルドも栄えていたが。最近じゃ、趣味で活動しようとか考える軟弱者しかおらん。今となってはヴォールゾックらがいた、あの頃が黄金期だったな」
「ヴォールゾック……か」
聞き覚えのある、その名に因縁めいたモノを感じずにはいられなかった。
ククルカン山のエルフ集落にて初めてギデオンが対峙したシオン賢者。
デッドマンズトリガーの能力により、活ける屍として、その身をデビルシードに乗っ取られたソードマンだ。
剣技だけなら、本当に強かった。
もしも、剣の魔物ではなくヴォールゾック本人が意思を持って闘っていたのであれば、勝てなかったかもしれない。
剣のくせに剣技の活かし方を理解しきれていなかった魔物が相手だったからこそ、倒せた相手だった。
「その人は、どういう冒険者だったんだ?」
今更、聞いてどうなることでもないが、その漢の名を胸の中に刻み込まずにはいられなかった。
剣士としての矜持がギデオンの心を突き動かす。
「英雄だったよ。どんな強敵にも立ち向かっていける勇気と、誰にでもわけ隔てなく気さくに接することができる人柄、このギルドにとって自慢の冒険者だった。今頃、何をしているのやら……きっと、他所の国で武功を上げて活躍しているに違いない」
昔を想い浮かべ、満足気に顔をほころばせるギルドのオヤジに対し、真実を告げることはしなかった。
何でもかんでも正直に言うのは、美徳であり自己満足でしかない。
ヴォールゾックとしての彼の一生はギデオンが出会う前から終わっていた。
むしろ、最期を見届けられたのは奇跡に等しい。
すべてを語るのは今ではない。
時期がきたら誰もが彼の軌跡を知れるように開示しようと、心に決めた。
「で、どうすんだい? 兄さん。そんな身体では満足に戦えやしないだろう」
「コイツでいい。アングラーの昇級試験もかねてやれば、ギルドとしても充分な成果を出せるはずだ」
「ははっ、冗談だろ? コイツは俗にいうS級クエストだぜ……いや、それ以上かもしんねぇぞ!!」
呂下のギルドは、これまで見知ったものとは、一風変わった外観をしていた。
公共の施設というよりも、古民家を改装したような……まるで、誰かの家に入るような感覚に抵抗が出てしまう。
ましてや、初めて訪れる場所だ。本当にここで合っているのかも疑ってしまう。
まだ、昼間だというのにギルド近辺は物静かなものだった。
街全体を通して見ても、視界に映る景色には人影が少ない。
サビれている街並みは、どうにもできないが、心が貧しくなると人は何かをしようとする気力さえも失せてしまう。
そんな印象を受けながらギルドの戸を叩いた。
戸口が開かれると渋顔のオヤジがジロリとギデオンを睨みつけてきた。
「要件は何だ?」ぶっきらぼうに告げるオヤジは、様子からしてギルド職員らしい。
「仕事を斡旋してほしい。ギルドなんだろう? このボロい民家」
「ふむ? 済まないが、もう一度だけ言ってくれないか? 近頃は、耳が遠くなってしまってな」
「僕はセカンダリィの冒険者だ。ライセンスも、この通り持っている」
ズタズタになった法衣の内ポケットから、冒険者プレートを取り出し見せてみた。
現物を見るなり、訝しげにしていたオヤジの表情が、一転して目を見開き驚嘆したものへと変わっていた。
「マジか! えらい、久しぶりだわ。ここにホンマもんの冒険者がやってくるなどとは……お前、他所からきた奴か? 本来、接客は俺の仕事ではないが今日は特別に対応してやる」
戸をガラッと開き、オヤジが手招きする。指示されたまま建屋に入ると、すぐにまた戸に鍵がかけられた。
「ずいぶんと、警戒しているようだな。が……そんなに厳重に見張っていて、キリがないだろう」
「止む無しだ。大人の事情という奴だわ、ゆえ合ってこのギルドを守らなければならない」
ギルドの中には、いるはずの冒険者の姿が見当たらない。
そこまでは容易に想定はしていたが、問題は営業しているのかどうかに掛かっている。
「ギルドの定休日ではなさそうだな……オッサン、どうして誰もいないんだ?」
「そんなの、一つしかなかろう! 冒険者がいないからだ!!」
訊いた、傍から同じ、返答がやってきた。
オヤジは嬉々として山積みとなった書類の束を持ち出し、ギデオンの前に置いた。
「これは……? 討伐クエストの依頼みたいだが、凄い量だな」
「だろう!? 誰も討伐依頼を請け負う奴がいないんだ。ここいらのモンスターは獰猛で強いのが多いから、報酬の金額では割に合わねぇ。昔こそは腕利きの冒険者が多数在籍していて、このギルドも栄えていたが。最近じゃ、趣味で活動しようとか考える軟弱者しかおらん。今となってはヴォールゾックらがいた、あの頃が黄金期だったな」
「ヴォールゾック……か」
聞き覚えのある、その名に因縁めいたモノを感じずにはいられなかった。
ククルカン山のエルフ集落にて初めてギデオンが対峙したシオン賢者。
デッドマンズトリガーの能力により、活ける屍として、その身をデビルシードに乗っ取られたソードマンだ。
剣技だけなら、本当に強かった。
もしも、剣の魔物ではなくヴォールゾック本人が意思を持って闘っていたのであれば、勝てなかったかもしれない。
剣のくせに剣技の活かし方を理解しきれていなかった魔物が相手だったからこそ、倒せた相手だった。
「その人は、どういう冒険者だったんだ?」
今更、聞いてどうなることでもないが、その漢の名を胸の中に刻み込まずにはいられなかった。
剣士としての矜持がギデオンの心を突き動かす。
「英雄だったよ。どんな強敵にも立ち向かっていける勇気と、誰にでもわけ隔てなく気さくに接することができる人柄、このギルドにとって自慢の冒険者だった。今頃、何をしているのやら……きっと、他所の国で武功を上げて活躍しているに違いない」
昔を想い浮かべ、満足気に顔をほころばせるギルドのオヤジに対し、真実を告げることはしなかった。
何でもかんでも正直に言うのは、美徳であり自己満足でしかない。
ヴォールゾックとしての彼の一生はギデオンが出会う前から終わっていた。
むしろ、最期を見届けられたのは奇跡に等しい。
すべてを語るのは今ではない。
時期がきたら誰もが彼の軌跡を知れるように開示しようと、心に決めた。
「で、どうすんだい? 兄さん。そんな身体では満足に戦えやしないだろう」
「コイツでいい。アングラーの昇級試験もかねてやれば、ギルドとしても充分な成果を出せるはずだ」
「ははっ、冗談だろ? コイツは俗にいうS級クエストだぜ……いや、それ以上かもしんねぇぞ!!」
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