異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百二話

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 ぬっ~と、視界に入り込んできたのは前歯の欠けた幼い少年だった。
 薄汚れた着物に、アザだらけの手足、どこをどう見ても生活に困窮してそうな感じがした。

「君が助けてくれたのか?」
 ギデオンが質問をすると、少年はその場で胡坐をかいて座り込んだ。
 小刻みに首を横に振いながら「オイラじゃないぞ。大元先生がアンタを見つけて手当したんだ?」
 と素直に答えてくれた。

「大元先生……それは君の知り合いか? ここはどこだ? どうして僕を助けてくた……んだ」

「アンタ、まだ辛そうだな。安心せい、ここには悪い奴はおらんとよ。回復すたら色々教えちゃるわ、オイラはシユウ。大元先生の一番弟子だ」

 シユウと名乗った少年はそう告げると立ち上がり、去っていった。
 彼の言葉通り、喋るのもままならない。
 このまま、体力が戻るまで安静にしていた方が良さそうだ。
 ギデオンは一旦、瞳を閉じた……まったくもって寝れないし、今まで寝ていたから眠気もない。
 おまけに、それとなく置きっぱなしにされた提灯ちょうちんが眩しくて仕方がない。
 眼を細めながら辺りを確認すると、傍に水瓶すいびょうがあることに気づいた。
 ずっと、水分補給してこなかったせいで、喉は張りつくような痛みを覚えていた。

 ギデオンは瓶に貼りつくようにして身体を持ち上げた。
 飲み水か、どうか? 確認もせず水瓶の上に置かれていた木杓子きしゃくしで水をすくい喉を潤す。
 水が身体全体に染み渡る感覚に、思わず有難みを感じる。
 すぐに身体が悲鳴を上げた。
 無理をして起き上がったのが悪かったようだ。
 大の字になって横たわると、そのまま気を失ってしまったようだ。

「聞こえるか、少年? 治療するから身体を横に向けてくれんか?」

 目覚めた時には、見知らぬ中年の男が隣で正座していた。
 男は微妙に人相が悪く、特に狐のような細い目元が、きな臭い第一印象を与えていた。

「アンタが大元たいげん先生か?」

「いかにも、練功師の大元という。どうして我が名を知っているのだ?」

「アンタの一番弟子が教えてくれたんでね。助けていただき感謝する……先生がいなければ、野垂死んでいたのかもしれない」

「シユウの奴か……まったく、あの子は。あいにく弟子は取らない主義でね……子供が勝手に言ったことだ、許してやって欲しい」

 大元は、見た目とは違い温和な性格をしている。
 彼の口調や態度から、そうした部分がにじみ出ている。
 そもそも、悪人ならば見ず知らずの人間など救ったりはしない。
 懸念けねんがすぎるのも考えものだなと、ギデオンは心の中で思い直した。

「治療するから、背中を見せてくれないか?」

「すまない、先生は治癒師なんですか?」

「ハハァ、そんな大そうなモノじゃないよ。治癒功で肉体の治癒能力を高めるだけさ」

 はにかみながら笑う大元の手がギデオンの背に触れる。
 少しづつ、じんわりとした温かさが手から伝わってくる。
 エンチャントした時のように何かが体内に流れ込んでくる感覚。なのに、流れてくる気はとても穏やかで心地良い。
 魔法特有の全身に電気を浴びたような痺れた感じとはまったく違う。
 次第に身体の痛みが和らいでゆく。苦痛から解放されたギデオンは少し気分が落ち着いた。

「練功ですか、凄い能力ですね。魔法は似て非なるものといったところか……」

「近代魔法は、自分の一部を削り取るようなモノだからね。過度な使用や君のように誤った使い方をすれば、今のように悲惨なことになるのさ」

「耳が痛いですね。練功は違うと?」

「そうだね、気功術は余剰した生命エネルギーを分け与えるイメージかな。無理に絞りだそうとしても枯渇していたら出てこない。それ自体が自己防衛に特化した能力なんだよ」

「そうか、だから防御や回復に多用されるのか」

「もっとも、達人になると攻撃に転用できるという話もある。練功は扱い易い力だから民間にまで浸透している。ただ、センスに大きく左右される部分もあってね、上達するのに時間がかかる人や一生、上手くならない人なんかもいるんだ」

「それは何事でも同様なのでは?」

 ギデオンの解に、大元は苦笑いしながら「なかなか手厳しいことを言うね、君は。僕は理想論者だからね。つい、皆が平等ならばと甘い妄想を抱いてしまうのさ」と返した。

 その想い自体は素晴らしいモノだとギデオンも理解していた。
 道理として受け止めたくとも、世界がそれを許さない。
 平等という名を語り、争いを生み出す悪党がいる。平等だと偽り、不平等に変える偽善者がいる。
 いずれにしても理想とは、犠牲の上に成り立つモノだ。
 人の数が多ければ多いほど、対立が増加する。
 この世界の仕組み自体が、もとから欠陥なのだ。
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