異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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二百一話

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 耳鳴りが聞こえる。
 キィィィィ――――ンと甲高い音を立てて、深い闇に沈んだ意識を引っ張りあげようとする。
 誰かが、手を掴んでいる。
 それが誰なのかは分からない。
 姿は見えないけれど、どこか懐かしさを覚える。
 仄かに伝わる手の感触が不確かな存在を確かにする。

「おぃ~す。ずいぶん、ロングタイムノーシーだったな」

 背後から声をかけられギデオンはハッとした。
 姿が透明なのは相変わらずだが、神を名乗る男がそこにいた。
 指先でフェイスラインをさすりながら思い出す。
 この男と最後に会話を交わしたのはいつ以来だろうかと。
 記憶では、共和国に向かう前にステータス画面で通信をしていた。
 共和国、入国以降は一切、音信不通だった。通信の範囲外である場所では連絡の取りようがなかったからだ。

「人の意識に入り込んで来れるのなら最初からそうすれば良かったんじゃないか? 斜華」

「ソイツがインポッシブルだったから、やり取りできなかったんだよねぇ~」

「それで、僕に何か用か? 伝えたいことがあるから無理にでも連絡してきたんだろう?」

「まぁね~、共和国では大活躍だったそうじゃん。おかげでミルティナスの記憶と神獣をゲットすることができた」

「記憶? 」不可思議な物言いをする歩帝斗にギデオンは眉を潜めた。
 いくら、悪しき者に狙われているからといって、自身の記憶まで分離させることに何の利点があるのか? 人間の価値観しか持たない彼にとっては理解が及ばない。
 それに、女神を守護していたはずの六神将は、どこへ行ってしまったのだろうか?
 サトラに出会ったのは、現世ではないし他の五将も依然、行方知れずのままだ。
 女神の事を知ろうすればするほど、謎が増えてゆく。
 依頼主にである、この神に訊いたところで彼自身も部外者であり、真実については一切、知らないので無駄な足掻きにしかならない。

「次は、神器だ。ドルゲニア公国に保管されているミルティナスの矛を探し出してくれ、コイツで全部が揃う」

「揃ったらどうなるんだ? 女神がどこにいるのか分かるのか?」

「ノンノン、逆さ。女神の方からコチラに向かってやってくる。今まで集めてきた物は女神を引き寄せる為のものだ」

 歩帝斗の説明に無表情でうなづく。
 ハッキリ言って、だからどうしたというのがギデオンの感想である。
 一先ず、次の指定されたモノを入手できれば、この厄介きわまりない依頼から解放される。
 それだけ分かれば、充分だった。

「リアクション薄いなぁ……そこはもっと驚いてくれないと、あのミルティナスに会えるチャンスなんだよ! 君たち聖王国の人間にとって彼女は崇拝の対象であるはずだぞ」

「だからこそだ。実際のミルティナスが僕たちが想い描く存在とまったく違う神だったとしたら、その失意は半端のないモノになるだろう」

「うん? どうやら時間のようだ。最後に一言だけアドバイスしておこう……ギデ、変化を恐れるな! しっかりと受け入れろ! 人間とは絶えず変わってゆくものだ。大人になるということは、そういう事でもあるんだぞ」

 いつになく、真剣な神様の言葉が次第に小さくなってゆく。
 どうやら、眠りから目覚めるようだ。
 鈍くなっていた感覚が少しずつ明瞭になってゆく。

「づぅ、はあっ! ハァ、ハァ……」最悪の目覚めだった。
 まず、全身に激痛が襲ってきた。
 視界が妙に暗く、自分がどこにいるのか分からない。
 仕方なく、嗅覚頼りで探ってみると湿った土の臭いがする。
 周囲の温度もやけにひんやりとしている。

 まずは動かなくなった身体をどうにかしないといけない。
 感覚こそ失ってはいないが少しでも動かそうならば、痛みが増してくる。
 特に、両手足は鉛のように重く自由が利かない。
 エンチャントの代償は、並みならぬダメージを身体に与えていた。

 辛うじて右腕を持ち上げると包帯でグルグル巻きにされている。手当がされている……ということは誰かが自分を見つけてここまで運んできたということだ。
 運が良かった、そう思うべきだろう。
 下手したら、そのまま野外でモンスターの餌になっていたかもしれない。

「……れか、誰か……ないのか?」
 かすれた声を張りあげて、人を呼んだ。相当、身体が弱っているようだ。
 他者に聞こえるほど声が出せているとは思えない。

 ジリッ……何かの足音が微かに響いていた。
 もし、そうなら人間であって欲しいとギデオンは心の中で願った。

 ザッ、ザッ、ザッ、音が近づいてくる。同時に目の前が急に明るくなってきた。

「おっ? 意識が戻ったのかや、兄ちゃん! 川原のそばに倒れていたから、どぜえもんかと思ったぞ」
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