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二百話
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朱い玉座に座するアナバタッタ。
部屋のしきりである、薄手の簾のよって、その顔はハッキリと見えない。
王の着席に伴い、正面を囲う四大臣を筆頭に跪く。
数百名の家臣たちも、また大臣たちに倣い片膝をついて王への忠誠心を表す。
むろん、これが公国の全兵力などと言ったら大間違いだ。
城に常駐しているのは、あくまでも一部、政務官や禁軍兵など主に上流階級出身の者たちだ。
戦地におもむく兵数を数えたら、それこそ把握しきれない。
大臣たちでさえも五万人~八万人の軍団を束ねている。
王直属の部隊となれば、軽く十万は越える。
「者共、面を上げい! これより謁見を開始する。まずは大臣、近況報告せよ」
小姓と思しき少年が声を張り上げて、王の言葉を代弁する。
四人中、二人は変わりない旨を伝えてきた。
残りの西と南の大臣たちは各々、進言してくる。
「まずは西のマナシ申してみよ!」
「ハッ、共和国に送っていた我らが密偵が帰国してまいりました。その折、消息を絶っていた姫君を発見し、連れ帰った次第でございます」
西方の守護代のマナシの一言に城内がどよめき立った。
肝心のアナバタッタの反応は、まったく見受けられない。
顔の表情こそ分からないが、動揺はおろか感動すらしない。
王にとって、実の娘であっても不都合な存在である彼女は、悩みの種にしかならない。
マナシは、その毅然とした態度にさすがは王だと感心する一方で、親としては最低だと嘆息をついた。
アナバタッタが自分の小姓に耳打ちをする。
少年はコクコクと頷きながら、言葉を告げる。
「して、そなたの望みは何だ? 無事、姫を連れ戻したのだ。相応の報酬を出そう」
「勿体なきお言葉……ならば、このマナシめのお願いを聞き入れて頂けますかな? フキ姫様を後継者として推挙しとう御座います」
「なんと! そなたはフキ姫様を王位継承者として立候補させるつもりか!? 確かに、継承権はあるとはいえ……周囲が納得するのか……?」
動揺を口にしたのは、南方の守護代だった。
彼はすでに、第一王子の推挙者となっていた。
これまで、王位争いは第一、第二、王子たちの一騎打ちになると想定していた者たちにとって、三人目の候補者が出て来るとなると状況は、ますます見えなくなってくる。
特に、まだ誰も推薦していない北の守護代が、マナシに触発されて四人目の話を持ち出してくるかもしれない。
家臣たちもどの候補者は優位であるのか? 考えあぐねていた。
単純に人気、支持などで決まれば、誰につけばいいのか分かりやすい。
だが、王が提示した資格は強者であること、もしくは強者を従わせられる者であること。
取り分け、西のマナシには配下として、あの男がいる。
公国でも最強と謳われる剣豪、リュウマ。
どういう経緯でマナシの元につき従っているのかは、誰も知らない。
現時点で言えることは……リュウマに匹敵するほどの強者を引き入れないと勝ち目がない。
南方の守護代は、同じ立場であろう東方の守護代を横目で見てみた。
すごく、涼しい顔をしていた……どうやら、相当に腕がたつ者を配下にしたようだ。
何とも言えない疎外感によって南方の守護代は焦りを覚えていた。
「――――して、そなたはどうなのだ? 何か報告したい事があったのだろう?」
小姓に言われ、我に返る。
一々、気にかけていては埒が明かない。
「恐れながら……先日、ドルゲニア南の上空にて空域を犯した不法侵入者を発見、処断いたしました」
「それは何奴?」
「報告によりますと、狂暴化した龍だったようです。どうも、共和国側から入ってきた形跡があるようです。引き続き調査をして参ります」
「大義であった、ご苦労」
ようやく、耳にした王の自身の言葉に、南方の守護代は深々と頭を下げた。
決して嬉しいからではない……王がじかに話す事は最初から決められている。
労いの言葉もうち一つである。
ならば、何を意味するのか?
答えは、真実のすべてを伝えられなかったという王への謝罪だ。
言えるはずもなかった……龍とともに別の侵入者がいてあろうことか、取り逃がしてしまったなどと。
それどころか、敵の攻撃により一軍が死にかけたなど言語道断、あってはならないことなのだ。
「どうにか、見つけ出して始末しないと……」
「おや、顔色が悪いようですが? いかがなされた?」
追跡したい気持ちは山々であるが、相手はよりによって、このタヌキ親父が守護する北方に落下していった。
そうなってしまった以上は、南側も手出しができない。
部屋のしきりである、薄手の簾のよって、その顔はハッキリと見えない。
王の着席に伴い、正面を囲う四大臣を筆頭に跪く。
数百名の家臣たちも、また大臣たちに倣い片膝をついて王への忠誠心を表す。
むろん、これが公国の全兵力などと言ったら大間違いだ。
城に常駐しているのは、あくまでも一部、政務官や禁軍兵など主に上流階級出身の者たちだ。
戦地におもむく兵数を数えたら、それこそ把握しきれない。
大臣たちでさえも五万人~八万人の軍団を束ねている。
王直属の部隊となれば、軽く十万は越える。
「者共、面を上げい! これより謁見を開始する。まずは大臣、近況報告せよ」
小姓と思しき少年が声を張り上げて、王の言葉を代弁する。
四人中、二人は変わりない旨を伝えてきた。
残りの西と南の大臣たちは各々、進言してくる。
「まずは西のマナシ申してみよ!」
「ハッ、共和国に送っていた我らが密偵が帰国してまいりました。その折、消息を絶っていた姫君を発見し、連れ帰った次第でございます」
西方の守護代のマナシの一言に城内がどよめき立った。
肝心のアナバタッタの反応は、まったく見受けられない。
顔の表情こそ分からないが、動揺はおろか感動すらしない。
王にとって、実の娘であっても不都合な存在である彼女は、悩みの種にしかならない。
マナシは、その毅然とした態度にさすがは王だと感心する一方で、親としては最低だと嘆息をついた。
アナバタッタが自分の小姓に耳打ちをする。
少年はコクコクと頷きながら、言葉を告げる。
「して、そなたの望みは何だ? 無事、姫を連れ戻したのだ。相応の報酬を出そう」
「勿体なきお言葉……ならば、このマナシめのお願いを聞き入れて頂けますかな? フキ姫様を後継者として推挙しとう御座います」
「なんと! そなたはフキ姫様を王位継承者として立候補させるつもりか!? 確かに、継承権はあるとはいえ……周囲が納得するのか……?」
動揺を口にしたのは、南方の守護代だった。
彼はすでに、第一王子の推挙者となっていた。
これまで、王位争いは第一、第二、王子たちの一騎打ちになると想定していた者たちにとって、三人目の候補者が出て来るとなると状況は、ますます見えなくなってくる。
特に、まだ誰も推薦していない北の守護代が、マナシに触発されて四人目の話を持ち出してくるかもしれない。
家臣たちもどの候補者は優位であるのか? 考えあぐねていた。
単純に人気、支持などで決まれば、誰につけばいいのか分かりやすい。
だが、王が提示した資格は強者であること、もしくは強者を従わせられる者であること。
取り分け、西のマナシには配下として、あの男がいる。
公国でも最強と謳われる剣豪、リュウマ。
どういう経緯でマナシの元につき従っているのかは、誰も知らない。
現時点で言えることは……リュウマに匹敵するほどの強者を引き入れないと勝ち目がない。
南方の守護代は、同じ立場であろう東方の守護代を横目で見てみた。
すごく、涼しい顔をしていた……どうやら、相当に腕がたつ者を配下にしたようだ。
何とも言えない疎外感によって南方の守護代は焦りを覚えていた。
「――――して、そなたはどうなのだ? 何か報告したい事があったのだろう?」
小姓に言われ、我に返る。
一々、気にかけていては埒が明かない。
「恐れながら……先日、ドルゲニア南の上空にて空域を犯した不法侵入者を発見、処断いたしました」
「それは何奴?」
「報告によりますと、狂暴化した龍だったようです。どうも、共和国側から入ってきた形跡があるようです。引き続き調査をして参ります」
「大義であった、ご苦労」
ようやく、耳にした王の自身の言葉に、南方の守護代は深々と頭を下げた。
決して嬉しいからではない……王がじかに話す事は最初から決められている。
労いの言葉もうち一つである。
ならば、何を意味するのか?
答えは、真実のすべてを伝えられなかったという王への謝罪だ。
言えるはずもなかった……龍とともに別の侵入者がいてあろうことか、取り逃がしてしまったなどと。
それどころか、敵の攻撃により一軍が死にかけたなど言語道断、あってはならないことなのだ。
「どうにか、見つけ出して始末しないと……」
「おや、顔色が悪いようですが? いかがなされた?」
追跡したい気持ちは山々であるが、相手はよりによって、このタヌキ親父が守護する北方に落下していった。
そうなってしまった以上は、南側も手出しができない。
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