異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
195 / 362

百九十五話

しおりを挟む
「部下の管理がなっておりませんな。少し、小突いただけで貴方の名を出してきたぞ、宰相殿」

「あ―――、くま? 何のことかな? 違う違う、誰かが私を陥れようとしているんだ!!」

 宰相による迫真の演技は、尚も続いた。
 これだけの状況証拠があげられているのにも関わらず、無実を主張する。

「オマエたちに街中で暴れるよう指示を出したのは誰だ?」
 ガルベナールに引導を渡すべく、ミチルシィが一匹の悪魔に問い詰める。
 首根っこを掴まれながら、悪魔はやはり老宰相を指さした。

「やめろ! 私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない私じゃなぁっぁああああああああい!!」
 血相を変えて自己擁護するが、ここに彼の弁護人はいない。
 いるとすれば、孫だけだった……その孫も自身で切り捨てしまったせいで、役に立ちそうにない。

「どこまで無能なのだ……貴様は」

「爺ちゃん、もう……これ以上は無理だ。ここは聖王国じゃないんだ! いくら爺ちゃんでも、どうにも出来ない」
 難色を示す孫の顔にガルベナールは、激昂した。
 額に血管を浮き上がらせ、何を言ってるのか、分からないほどに喚いている。
 だが、それも長くは持たなかった。

 義憤に駆られている民衆の我慢が限界を迎えてしまった。

「処刑だ! ここで絞首刑にしろ!!」
「そうよ! 私たちの家族はこの男に殺されたも同然、処刑するべきだわ」
「何が、宰相だぁ。口先だけのゲス野郎じゃねぇーか!」
「聖王国は、こんな者を大臣にするとは国として終わっておるわい」
「何処の誰だろうが、我々の故郷を滅茶苦茶したんだ。法で裁けないなら、俺たち共和国民が動くだけだ!!」
「これもまた、女神様の導き、悪党は滅するべきです」
「コイツ……反省どころか、まったく悪びれていねぇ!! こんなのを生かす価値はねぇ、そうだろ!? 皆!!」
「私たちは、オマエのしたことを許さないし赦せない。オマエ、一人のせいでどれだけの人間が犠牲になったのか、考えたことはあるのか? オマエの死をもってしても、この咎は消えぬぞ」

 民衆の意識は、処刑一色に拡がっていた。
 どれだけ、怨恨を持ち出しても、どれほど怨怒えんどを吐き出しても、ガルベナールというには理解できない。
 人の不幸を糧として生きていた存在に、もはや神ですら救いの手を差し伸べることはないだろう。
 ガルベナールは死罪――――それが妥当な処分だと、共和国民一同は判決を下した。
 ここで情けをかけてしまえば、同類の悪党がまた誕生しかねない。

 聖王国との禍根を絶つには、それしか方法がなかった。
 でなければ、ここに集まった者たちは誰一人として納得がいかない。

「静粛に! 皆さん、少し落ち着いて。ガルベナール・エンブリオンの身柄は、しばらく、私に預けて貰えないだろうか? 今日は英誕祭、祝祭日を悪党の血で穢すわけにもいかない。それに、この男の処断は聖王国側ときっちりと話合う必要がある」

「けどよ、ゴーダさん! 俺たちは、その男を絶対に許せねえー!!」
「そうだ! そうだ!」

「気持ちは痛いほど分かる、私とて皆と同じだ。しかし、一時の感情に流されないで欲しい。現状……我々には、他国と争うような国力は残ってはいない。それに、すべてを決断するのは我々ではなくグランドルーラーだ! その事を忘れないで欲しい」

 ゴーダの説得に、一旦は殺意をむき出しにしていた民衆も我に返り、どうにか矛をおさめた。
 場が静まり、勇士学校の面々が安堵したのも束の間……。

「ぐあああああっ!! 何を……するんだ」

「ふはははあっ、どうせなら最後ぐらいは約に立ってもらうぞ、ファルゴよ」

 ガルベナールによって、その均衡は崩れ去った。
 口から吐き出した入れ歯が、ゴムのように伸びファルゴの首筋を噛んでいた。
 たんに噛みついたのではない、その血をすすっている。

 血を吸収した入れ歯は再び、ガルベナールの口内へと戻る。
 まるで生きているかのような動作だ。

「惜しかったのう~。ゴーダ、そしてグラッセ。デビルシードを移植したのは、ファルゴだけではない! 私もまた保有者の一人なのだよ」

 したり顔でギデオンたちに微笑む。
 ガルベナールは車椅子から立ち上がると老人どころか、人ならざる速度で群衆の中へと飛び込んだ。

「アイツ、逃亡を謀る気か!?」

『ギデオン! 奴を追え!! ここで取り逃すわけにはいかない』

「分かっている! しかし、人混みを紛れて、どこにいるのか分からないぞ」

『こっちだ。私について来い』

 羽ばたくジェイクと共にギデオンはステージから降りた。

 ガルベナールの暴挙に人だかりの中から早くも悲鳴が上がっていた。

「とてもじゃないが、人が密集しすぎてあの中には入れないな」

『その銃、何をするつもりだ?』

「こう使うんだ! 頼むぞ、スコル!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

あなたがそう望んだから

まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」 思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。 確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。 喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。 ○○○○○○○○○○ 誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。 閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*) 何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

処理中です...