異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

文字の大きさ
上 下
192 / 362

百九十二話

しおりを挟む
「いきなり、聖獣って言われても……」
 シルクエッタが困惑するのも無理はない。
 ギデオンたちと共に舞い降りてきたのは、どう見ても普通の野鳥だ。
 全身が真っ白だということ以外は魔力すら感じられない。
 先程の神気を本当に、このミミズクが放ったとしたら、それは鳥の姿をした神ということになる。

 再会した直後に、神様をつれてきたと告げられても、状況の整理が追いつかなくなるばかりだ。
 そもそも、何を定義として聖獣と判別できたのか? 彼女には難問だった。

『そう、難しい顔はしなくもいいぞ。シルクエッタさん』

「念話? この声って……ジェイクさん?」

『そうだ。わけ合って、このような姿になってしまったが、魔導四輪を運転していたジェイクだ』

「本当に貴方が聖獣なんですね?」

 その問いに、ミミズクがひょいと首をすくめた。
 それまでケサランパサランだった彼が、どうしてミミズクになったのか?
 経緯を語るとギデオンが球体の雲を狙撃したところから始まる。
 
 ジェイクを潜り込ませた弾丸は、みごと雲の中央部分にヒットした。
 人々の畏怖が一塊となったそれは、ある意味、残留思念と呼ぶべきモノであった。
 本質的にネガティブな、その塊は触れただけで悪影響を受ける。
 触れても問題ないのはファルゴのみ、それ以外の者が接触すればたちまち精神に異常をきたす。

 ところが、ジェイクは雲の中をスイスイと泳いでいた。
 恐怖や自己否定といった怨嗟に苛まれながらも、まったくの平常運転でやり過ごしていた。
 これも、またゴールデンパラシュートの能力あってのことだった。
 信じられないことに、ジェイクは思念に幸運を前倒しさせたのだ。
 自分のもとに帰りたくとも、一度、引き離されてしまった想いは戻ることが叶わない。
 だが、本体との繋がりは依然結ばれている。

 ならばと、彼は本体の方から、幸福を回収し思念と混ぜあわせ調和することに成功したのだ。
 あとは、ゴールデンパラシュートの利息能力で思念を自身のモノとして取り込んだ。
 それにより、ケサランパサランがミミズクとして新たに生誕した。

「僕が合図したら……シルクエッタ、君は聖法で広場、すべてを浄化してくれ!」

 有無など言っていられる余裕がなかった。話を進めている合間にも惨状が街全体をおおってゆく。
 悪意による強制的な混乱……これほどにまで厄介なことになるとは誰が想定していただろうか?
 もとを辿れば、デビルシード保有者を従わせるためだけの力だった。
 そこを、つけこんできたのは悪魔のほうだ。
 もっと、残虐な使い道があることに気づいていたのだ。

「ファルゴ! ウィナーズカースの能力で、街全体から混沌と狂気を取り除け」

「……オマエら、約束を違えんなよ。ウィナーズカース!! デビルシードの脅威をジェイク・イスタムニールに分配する」

 ウィナーズカース発動と同時に、民衆の胸元からドス黒いもやが発生した。
 至る所から、一斉に靄が立ち込め濃霧ようになってきた。
 空気が汚染されてゆく中でザサンの残灰に集結しようとしている。
 思念の行進が始まった。足音は無い。
 只々、宙に浮かぶ黒い霧がこぞって迫ってくる。
 ゴールデンパラシュートが神気を解き放ち、不浄を清浄へと反転させる。
 陰と陽、二極の総入れ替え、対立する流れの中で、負の感情を失った人の群れが呆然と立ち尽くしていた。

「今だ、シルクエッタ!」

「皆、正気を取り戻して! ホーリーソング!!」

 投じられた一石が、運命という水面に波紋を広げた。
 滅びの一途を辿ろうしていた世界に新たなる道筋が刻まれた。
 治癒師からもたらされる浄化の祈りに柔らかな光。
 それまでの絶望が希望へと変わった瞬間、民衆は睡魔に誘われるかのごとく、その場に倒れ込み爆睡し出した。
 暴徒と化していた彼らが悪夢から解放され、ようやく自分らしさを取り戻した。

 悪魔たちが何故、このような行動を取ったのかは謎のままではある。
 しかし、それを気にしている暇は、ギデオンたちには無い。

「どうやら、片がついたようだね……」
 ザっと砂利を踏み鳴らし、広場に現れたのは勇士学校の理事を務めるゴーダ・マーシャルだった。

「学長……約束通り、最悪は回避しました」

「見たいだね。二人ともよくやってくれた! 後のことはナズィール地区代表の私の仕事だ。この祭りのファイナルは私が責任を持って進行役を務めさせてもらうよ」

 ゴーダは、ギデオンに対し力強く頷いた。
 それは最終イベントの準備を促す合図でもあった。

「キュアライト!」

「シルクエッタ? あまり無理をするなって……魔力だって、そんなに残っていないだろう?」

「これぐらい、大丈夫さ。君にはまだ、決着をつけないといけないことがあるんでしょう? だから、万全を期しておかないと」

「すまない、感謝する」

 よろけるシルクエッタの身体を支えながら、ステージわきに座らせる。

「しばらく、安静にしているんだぞ!」そう告げるとギデオンは劇場の方へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…

三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった! 次の話(グレイ視点)にて完結になります。 お読みいただきありがとうございました。

契約結婚のはずが、気づけば王族すら跪いていました

言諮 アイ
ファンタジー
――名ばかりの妻のはずだった。 貧乏貴族の娘であるリリアは、家の借金を返すため、冷酷と名高い辺境伯アレクシスと契約結婚を結ぶことに。 「ただの形式だけの結婚だ。お互い干渉せず、適当にやってくれ」 それが彼の第一声だった。愛の欠片もない契約。そう、リリアはただの「飾り」のはずだった。 だが、彼女には誰もが知らぬ “ある力” があった。 それは、神代より伝わる失われた魔法【王威の審判】。 それは“本来、王にのみ宿る力”であり、王族すら彼女の前に跪く絶対的な力――。 気づけばリリアは貴族社会を塗り替え、辺境伯すら翻弄し、王すら頭を垂れる存在へ。 「これは……一体どういうことだ?」 「さあ? ただの契約結婚のはずでしたけど?」 いつしか契約は意味を失い、冷酷な辺境伯は彼女を「真の妻」として求め始める。 ――これは、一人の少女が世界を変え、気づけばすべてを手に入れていた物語。

処理中です...