異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百九十一話

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 闇夜の中、天上の星から淡い桜色の光が降り注ぐ。
 天から射し込む光は帯となり、夜という名の暗幕をいくつかに分断していた。
 その輝きの合間から翼の生えたシルエットが突き出てきた。

 グリフォンに変化した、オッドだ。
 スキル幻獣化装の発動時、彼の身体能力能力は飛躍的に上昇する。
 グリフォンの場合は翼を一回、羽ばたかせるだけで、ロケットのように爆発的な推進力を得られる。
 飛行能力は人では経験することのない、新鮮な感覚だという。

 変化した後の能力に元の強さは関係ない。
 誰であろうとモデルとなる幻獣の平均能力程度には、強化される。

 ただし、一度発動させると自分の意志で変化を解除することはできない。
 一定の時間が経過すれば元に戻れるが、早くても二、三時間はそのままだ。
 慣れない獣の姿であり続けるのは、それだけで大変なことだ。
 強いストレスを感じ、疲労感も半端ない。
 普段、オッドがこのスキルを使いたがらないのは、そういった事情がある。

「クォリスたちを置き去りにしても大丈夫なのか?」

「バージェニルがいるから上手くやってくれているはずだ。それに、シルクエッタの方が状況的にヤバイ。ザサンの残灰に急行してくれ!」

「それは分かっているが……目の前のあれは何なんだよ!?」

 叫んだオッドの視線の先に、球体となった雲が浮かんでいた。
 熱気球ほどの大きさを持つ、謎の雲は回転しながら、街の中心部の方へと移動しているようだ。

「はっ! あれは、俺が奪った弱者の力だ。俺に対する恐怖が薄らいだことによって蒸気となって俺の身体から抜け出ていた奴だ……大方、主たる自分のもとに帰ろうしているんだろうよ」

 ウネの作ったつるの縄で全身、グルグル巻きにされたファルゴが、吐き捨てるように言った。
「まぁ、元に戻ろうとしても帰ることろなんてないだろうが……」

「アレは放置し続けていても大丈夫なのか?」
 空を漂う力の塊にギデオンは疑念を抱いていた。
 もしファルゴが、能力解除により得ていた力を手放した場合には、こうはなりえないはずだ。
 集合などせず、分散して主の元へと戻るのならまだしも、これでは……行き場もなく彷徨っているのと、何ら変わらない。

『お前の考えている事は、だいたい合っているぞ。アレはもう、人々から徴収した力などではなくファルゴに対する畏怖そのものだ! 一度手放した恐怖を求める者など当然、誰もいなかろう』

「オッサン……じゃあ、ここまま放置しておくとどうなるんだ?」

『存在理由がなければ消滅するだけだ。ギデオン、闘気を操作する要領で、私を球体に向かって投げてくれ! 上手くいけば、この力で地上の混乱を止めることができるかもしれない』

「いや、もっといい方法がある」

 ギデオンは神威を発動させ、魔銃を手にした。
 ワイルドカートリッジのと同様に弾丸を装填する。
 無論、ただの弾ではないケサランパサランを忍ばせた一発だ。
 銃から放たれる弾速を利用し、即座に球体へと到達させる。

 単発の銃声音が天に響き渡ると、それを皮切りにデビルシード浄化作戦が強攻された――――

 *

 シルクエッタが立つステージに、暴徒の大群が押し寄せていた。
 期待していたホーリーソングが上手く作用されず、彼女はこれまでにないほどに追い詰められていた。
 聖法の使用回数も、後わずか……もって一、二回だろう。
 群がる民衆によって囲まれ退路は完全に閉ざされてしまった。
 どう考えても、助からないと諦めれば気も楽にになるだろう。

 けれど……それでは駄目だ。
 ここで折れてしまえば、今まで時間を費やし追ってきた物が全部、無駄になる。
 シルクエッタは、その一念だけで踏ん張り続けた。

 最後まで望みを捨てることなどできなかった。

 それは、神の奇跡と見紛うほど明るく強い神気を放っていた。
 天空から地上に急降下してきたのは、翼を持つ幻獣グリフォンだった。
 そして、迫りくる暴徒たちを風圧と共に一蹴する幼馴染がそこに立っていた。

 夢の様な光景に、シルクエッタは息を飲んだ。
 つい、先程まで画面に映っていた少年が、駆けつけてくれた。
 自分の危機を救おうと、傷だらけの身体で、まだ戦い続けている。

「待たせたな、シルクエッタ」

「ギデ……オン、回復を!」

「それは後回しでいい。今は、正気を失った人々をもとに戻さなければならない……ホーリーソングは、まだ使えるよな?」

「使ったけど、全然効果がなくて……」

「それなら問題ない。の力を借りる」

「えっ? 見つけたの!?」
 驚く、シルクエッタの傍に一羽のミミズクが羽ばたきながら寄ってきた。
 彫像のように真っ白な羽毛を持つ、その姿は神の御使いと呼ぶに相応しいほどの神々しさに包まれていた。
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