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百九十話
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『こうして、世界を滅亡に導こうする悪魔の陰謀を見事、打ち破ることに成功した。
サーマリアの大地で後世まで語り継がれる伝説となった、二人の英雄。
私たちは忘れてはならない!
彼らがこの地を守ったからこそ自分たちが今、ここにいるという現実を。
我々もまた、新たなる世代のために、この地を豊かにしておかないといけないという事を。
それこそが彼らと私たちで紡いでいく軌跡なのだから――――』
激戦を制した少年の姿に、民衆は涙した。
悲しみではなく、カンゲキのあまりに涙腺が崩壊してしまった。
これこそが、彼らの見たかったラストシーンである。
「ゲスト出演のファルゴも凄かったけど、あの少年の持てる全力を出し尽くした演技、鬼気迫るものがあったな」
「そう、それな! 迫真の演技? そんな感じで一人光って見えたな」
「あれか、魔法の効果で確かに眩かったな!」
「違くて、華があるっていう奴しょ!?」
人々は皆、活劇の余韻に浸りながら、口々に感想を述べていた。
上映が終わり、画面が消えると、それまでのことがリセットされるように.彼らは再び日常へと戻ってゆく。
悪の種が体内に埋め込まれている以上、事態が良好になることはない。
取り除くことができない、この忌まわしいモノに大勢の人が犠牲となり、振り回されている。
皮肉にも、そのことを知ってしている者は数少ない。
だからこそ、真実を知っているギデオンたちが騒ぎを抑えるべく行動に移さないといけない。
「ファルゴのところに行くぞ、オッド。奴の能力でないとナズィール地区の暴動は治まらない」
「そうなのか? って、お前! 立っているのもやっとじゃねぇか!」
「相手が相手だったからな。かなり無茶をした」
フラフラに歩きながらもギデオンは、何とかファルゴのもとへ向かおうとしていた。
今にも倒れそうな足取りに、見ちゃいられないとオッドが、ため息をつく。
「しゃあーねぇな。ほれ! ウネを返すぞ。この技はあまり使いたくなかったんだが、そうも言ってられないしな」
「オッド? 何の話をしている?」
「まぁ、見てな。スキル、幻獣化装!! はぁあああああああああああ」
ファルゴがそうであったように、オッドもまた人ならざらる者へと変容を遂げる。
ただ、彼の場合は肉体自体が変化するというよりも、地肌から出てきた獣の皮がかぶさり獣に変わってゆく感じだ。
肩口から脇腹にかけて翼が生え、尻尾も生える。
両手足が逞しく鋭いに爪を持つモノになる。
頭部が鷲のモノに変わった。
体毛に覆われ人の倍となった、体躯。
その姿はフェアリーテイルでしか見たことのない幻獣、グリフォンそのものだ。
「こんな……スキルがあるのか。世の中には……」
「驚くのは後だ! 俺の背に乗れ」
「すまない、頼んだ。ファルゴは丁度、正面ゲートの前に落下したはずだ」
「任された、落ちないようにしっかり掴まってろよ!」
ギデオンを乗せたグリフォンが一気に空へと上昇してゆく。
すぐさま、プロミネンス・ワンの全体が一望できるほどの高度に達した。
「降下するぞ、姿勢を低くしろ」オッドの掛け声とともに風の抵抗を受けながら地上へと戻る。
下りた先は、ゲートの手前。
そこには、ギデオンが言っていた通り、傷だらけとなり敗者と化した彼が倒れていた。
「おい! 起きろ、ファルゴ! お前には、やって貰わなければならないことがある」
近寄るなり、その頬をはたき無理やりに起こそうとする。
「ううっ、テメェ……俺は気絶なんか、して……ねぇぞ。クッ―――、指先すら動かねえ」
「なら、話は早い! デビルシードから放たれている狂気を取り除け。お前の分配能力なら可能なはずだ」
「フン、そう言えば……そんな事を抜かしていやがったな。取り引きだ! 俺を……宰相、いや爺ちゃんのもとへと連れていけ……ならば、応じてやる」
「てめえ、ギデに敗北しておいて往生際が悪いだろうよ!」
グリフォン姿のまま身を前に乗り出すオッドに無言のままギデオンが片腕を伸ばし制した。
その様子を見て、王者だった男は力なく笑った。
「どうやら成立みたいだな……」
「気に食わないことには変わりないが、家族として会いたいというのなら連れていってやる」
「ギデ、お前……それでいいのか!? コイツ、何かを企んでいるんじゃないのか?」
「気持ちは分かるが、オッド。コイツを連れて行こう……そうしないと確実にこの街は滅びる」
「ちっ……そこまで言うのなら仕方ねぇ」
説得に応じたグリフォンは、ギデオンとファルゴを背に上空へと滑走した。
サーマリアの大地で後世まで語り継がれる伝説となった、二人の英雄。
私たちは忘れてはならない!
彼らがこの地を守ったからこそ自分たちが今、ここにいるという現実を。
我々もまた、新たなる世代のために、この地を豊かにしておかないといけないという事を。
それこそが彼らと私たちで紡いでいく軌跡なのだから――――』
激戦を制した少年の姿に、民衆は涙した。
悲しみではなく、カンゲキのあまりに涙腺が崩壊してしまった。
これこそが、彼らの見たかったラストシーンである。
「ゲスト出演のファルゴも凄かったけど、あの少年の持てる全力を出し尽くした演技、鬼気迫るものがあったな」
「そう、それな! 迫真の演技? そんな感じで一人光って見えたな」
「あれか、魔法の効果で確かに眩かったな!」
「違くて、華があるっていう奴しょ!?」
人々は皆、活劇の余韻に浸りながら、口々に感想を述べていた。
上映が終わり、画面が消えると、それまでのことがリセットされるように.彼らは再び日常へと戻ってゆく。
悪の種が体内に埋め込まれている以上、事態が良好になることはない。
取り除くことができない、この忌まわしいモノに大勢の人が犠牲となり、振り回されている。
皮肉にも、そのことを知ってしている者は数少ない。
だからこそ、真実を知っているギデオンたちが騒ぎを抑えるべく行動に移さないといけない。
「ファルゴのところに行くぞ、オッド。奴の能力でないとナズィール地区の暴動は治まらない」
「そうなのか? って、お前! 立っているのもやっとじゃねぇか!」
「相手が相手だったからな。かなり無茶をした」
フラフラに歩きながらもギデオンは、何とかファルゴのもとへ向かおうとしていた。
今にも倒れそうな足取りに、見ちゃいられないとオッドが、ため息をつく。
「しゃあーねぇな。ほれ! ウネを返すぞ。この技はあまり使いたくなかったんだが、そうも言ってられないしな」
「オッド? 何の話をしている?」
「まぁ、見てな。スキル、幻獣化装!! はぁあああああああああああ」
ファルゴがそうであったように、オッドもまた人ならざらる者へと変容を遂げる。
ただ、彼の場合は肉体自体が変化するというよりも、地肌から出てきた獣の皮がかぶさり獣に変わってゆく感じだ。
肩口から脇腹にかけて翼が生え、尻尾も生える。
両手足が逞しく鋭いに爪を持つモノになる。
頭部が鷲のモノに変わった。
体毛に覆われ人の倍となった、体躯。
その姿はフェアリーテイルでしか見たことのない幻獣、グリフォンそのものだ。
「こんな……スキルがあるのか。世の中には……」
「驚くのは後だ! 俺の背に乗れ」
「すまない、頼んだ。ファルゴは丁度、正面ゲートの前に落下したはずだ」
「任された、落ちないようにしっかり掴まってろよ!」
ギデオンを乗せたグリフォンが一気に空へと上昇してゆく。
すぐさま、プロミネンス・ワンの全体が一望できるほどの高度に達した。
「降下するぞ、姿勢を低くしろ」オッドの掛け声とともに風の抵抗を受けながら地上へと戻る。
下りた先は、ゲートの手前。
そこには、ギデオンが言っていた通り、傷だらけとなり敗者と化した彼が倒れていた。
「おい! 起きろ、ファルゴ! お前には、やって貰わなければならないことがある」
近寄るなり、その頬をはたき無理やりに起こそうとする。
「ううっ、テメェ……俺は気絶なんか、して……ねぇぞ。クッ―――、指先すら動かねえ」
「なら、話は早い! デビルシードから放たれている狂気を取り除け。お前の分配能力なら可能なはずだ」
「フン、そう言えば……そんな事を抜かしていやがったな。取り引きだ! 俺を……宰相、いや爺ちゃんのもとへと連れていけ……ならば、応じてやる」
「てめえ、ギデに敗北しておいて往生際が悪いだろうよ!」
グリフォン姿のまま身を前に乗り出すオッドに無言のままギデオンが片腕を伸ばし制した。
その様子を見て、王者だった男は力なく笑った。
「どうやら成立みたいだな……」
「気に食わないことには変わりないが、家族として会いたいというのなら連れていってやる」
「ギデ、お前……それでいいのか!? コイツ、何かを企んでいるんじゃないのか?」
「気持ちは分かるが、オッド。コイツを連れて行こう……そうしないと確実にこの街は滅びる」
「ちっ……そこまで言うのなら仕方ねぇ」
説得に応じたグリフォンは、ギデオンとファルゴを背に上空へと滑走した。
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