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百八十九話
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それは王者にとっての大誤算だった。
自分の活躍をスクリーンに映せば、より多くの賞賛が得られるとファルゴは思い込んでいた。
彼の考えに間違いなどなかった。
勇士学校きっての強者として名高いファルゴが画面に映されれば、誰もが注目し、その強さの虜となるはずだった……。
事実、最初はそれが功を奏し力の恩恵を感じられていた。
ところが、結果だけ見てみればどうだ。
突き放したはずの相手に翻弄され、自身はどんどん衰えてゆく。
どこから出てきたのかも、分からない新参者に形勢を逆転されてしまっている。
ファルゴは必至だった。
それまで築き上げてきた名声が損なわれることを恐れ、王者であることを装い続けてきた。
その甲斐あって、ファルゴは絶対なる強者だと誰もが、信じて疑わなかった。
繰り返し述べるが彼の考えは正しい。
だが、あまりにも的確すぎる持論は、同時に早計な浅慮でもあった。
その完璧なる武という物が、周囲にどのような影響を及ぼすのか? 一番、理解できていなかったとも言えよう。
民衆の注目がギデオンの方へと傾いたのには理由がある。
決して、偶然や気まぐれではない。
全身を蒼白く輝かせる少年が、あの共和国最強と謳われるファルゴと一騎打ちをしている。
それだけでも凄いが苦戦を強いられているというのに、強者を相手に何度でも立ち向かってゆく。
その姿勢が、民衆の中の何かを大きく突き動かした。
まず、叫んだのは一人の少年だった。
「蒼い兄ちゃん、頑張れ!」その声に周囲は色めき立った。
皆がファルゴを応援するとばかり思っていた彼らにとって、新たな選択肢が生まれた瞬間だった。
王者と戦うチャレンジャー。
画面越しの彼の姿は、ファルゴにはない輝きを放っていた。
それが何か? 誰にも答えられない。
いや、答えなくとも彼らの感覚はしっかりと記憶している。
蒼白い輝きが、まさしく希望の象徴であることを。
見知らぬ少年の瞳は輝く未来だけを見据えている物だと。
「もし、当たり前がくつがえったらどうなるのだろうか?」とある老人が呟いた。
変わることを極端に恐れるナズィール民にとって、平常はマンネリ、変化は刺激であった。
この英誕祭しかり、日常とは違う景色に彼らは強い興奮を覚える。
そんな彼らが、見てみたいと望んだのは王者が勝つ姿ではなく、王者を越える者が誕生する瞬間であった。
例え、芝居だとしても……。
仮面英雄や北方の悪魔よりも、通りすがりの闘士である彼にこそ英雄の初号が相応しいと思えてしまう。
彼は舞台の中で誰よりも強い意志を持っていた。
それは、自身のためだけではなく他の人に向けたメッセージでもあるように受け取られた。
いつしか、応援する側が彼の姿に励まされていた。
どんな苦難も逆境も、乗り越えた先には光がある。
だから、今こそ立ち上がれ。
何度、諦めても構わない。最後に立っていればそれでいい。
そう、言われているような気がし、ナズィールにいる人々は彼の役こそが英雄ルヴィウスではないかと話し始めた。
奇しくも、ファルゴの知名度が対戦相手を押し上げてしまった。
「こんな……こんなことがぁあああ!! 許されてたまるかぁ――」
「覚悟しろ、ファルゴ。これが、力に驕ったお前に送る僕の洗礼だ。ワイルドカートリッジ、カーミ・ターミス!!」
カートリッジから取り出された紫色の弾丸を魔銃に装填し発砲する。
頭上に向けられて放たれた弾丸が蒼白い炎に包まれ、等身大の大物武器に変化した。
ワイルドカートリッジ、第二の武器。
カーミ・ターミスは長さ2メートル近くはある特大のバトルメイスだった。
落下してくるソレをギデオンは軽々と掴んだ。
柄の部分は剣とほぼ同様の感覚で扱える太さとなっている。
「そんな物で、この俺を倒せると思っているのかぁああ!? ギデ!!」
「虚勢はいい……次の一撃で終える」
「上等!! テメェの自信ごと、ぶっ壊してやるぅ――、アスラ・マダ!!」
ファルゴの全身から、蒸気のようなものが漏れていた。
おそらく、それが人々から奪っていた力なのだろう。
すでにボロボロとなった肉体は彼が強制的に動かしているせいで、軋むような悲鳴を上げていた。
ギデオンの頭部を狙い、金剛杵が突き出してくる。
伸縮自在の法具を、脅威的な速度で振り上げられたバトルメイスが弾き飛ばす。
その力に押し負けたファルゴは大きく仰け反り、隙が生じた。
「ぶっ飛べぇえええ――――!! オーガ・バンクラプト」
鑢のごとくギザギザとしたバトルメイスが暴君の左脇腹を捉えた。
薙ぎ払いの打撃がウロコを削り落しボディへとめり込む。
「があああはああああっ……」
上空に突き飛ばされた身は、発電炉を飛び越え正門のほうへと飛び去っていった。
「すまんな、ニ撃だったわ」
因縁の対決はギデオンの勝利で幕を閉じた。
「残るはガルベナールのみ……」
そして、決着をつける時が刻一刻と迫っていた。
自分の活躍をスクリーンに映せば、より多くの賞賛が得られるとファルゴは思い込んでいた。
彼の考えに間違いなどなかった。
勇士学校きっての強者として名高いファルゴが画面に映されれば、誰もが注目し、その強さの虜となるはずだった……。
事実、最初はそれが功を奏し力の恩恵を感じられていた。
ところが、結果だけ見てみればどうだ。
突き放したはずの相手に翻弄され、自身はどんどん衰えてゆく。
どこから出てきたのかも、分からない新参者に形勢を逆転されてしまっている。
ファルゴは必至だった。
それまで築き上げてきた名声が損なわれることを恐れ、王者であることを装い続けてきた。
その甲斐あって、ファルゴは絶対なる強者だと誰もが、信じて疑わなかった。
繰り返し述べるが彼の考えは正しい。
だが、あまりにも的確すぎる持論は、同時に早計な浅慮でもあった。
その完璧なる武という物が、周囲にどのような影響を及ぼすのか? 一番、理解できていなかったとも言えよう。
民衆の注目がギデオンの方へと傾いたのには理由がある。
決して、偶然や気まぐれではない。
全身を蒼白く輝かせる少年が、あの共和国最強と謳われるファルゴと一騎打ちをしている。
それだけでも凄いが苦戦を強いられているというのに、強者を相手に何度でも立ち向かってゆく。
その姿勢が、民衆の中の何かを大きく突き動かした。
まず、叫んだのは一人の少年だった。
「蒼い兄ちゃん、頑張れ!」その声に周囲は色めき立った。
皆がファルゴを応援するとばかり思っていた彼らにとって、新たな選択肢が生まれた瞬間だった。
王者と戦うチャレンジャー。
画面越しの彼の姿は、ファルゴにはない輝きを放っていた。
それが何か? 誰にも答えられない。
いや、答えなくとも彼らの感覚はしっかりと記憶している。
蒼白い輝きが、まさしく希望の象徴であることを。
見知らぬ少年の瞳は輝く未来だけを見据えている物だと。
「もし、当たり前がくつがえったらどうなるのだろうか?」とある老人が呟いた。
変わることを極端に恐れるナズィール民にとって、平常はマンネリ、変化は刺激であった。
この英誕祭しかり、日常とは違う景色に彼らは強い興奮を覚える。
そんな彼らが、見てみたいと望んだのは王者が勝つ姿ではなく、王者を越える者が誕生する瞬間であった。
例え、芝居だとしても……。
仮面英雄や北方の悪魔よりも、通りすがりの闘士である彼にこそ英雄の初号が相応しいと思えてしまう。
彼は舞台の中で誰よりも強い意志を持っていた。
それは、自身のためだけではなく他の人に向けたメッセージでもあるように受け取られた。
いつしか、応援する側が彼の姿に励まされていた。
どんな苦難も逆境も、乗り越えた先には光がある。
だから、今こそ立ち上がれ。
何度、諦めても構わない。最後に立っていればそれでいい。
そう、言われているような気がし、ナズィールにいる人々は彼の役こそが英雄ルヴィウスではないかと話し始めた。
奇しくも、ファルゴの知名度が対戦相手を押し上げてしまった。
「こんな……こんなことがぁあああ!! 許されてたまるかぁ――」
「覚悟しろ、ファルゴ。これが、力に驕ったお前に送る僕の洗礼だ。ワイルドカートリッジ、カーミ・ターミス!!」
カートリッジから取り出された紫色の弾丸を魔銃に装填し発砲する。
頭上に向けられて放たれた弾丸が蒼白い炎に包まれ、等身大の大物武器に変化した。
ワイルドカートリッジ、第二の武器。
カーミ・ターミスは長さ2メートル近くはある特大のバトルメイスだった。
落下してくるソレをギデオンは軽々と掴んだ。
柄の部分は剣とほぼ同様の感覚で扱える太さとなっている。
「そんな物で、この俺を倒せると思っているのかぁああ!? ギデ!!」
「虚勢はいい……次の一撃で終える」
「上等!! テメェの自信ごと、ぶっ壊してやるぅ――、アスラ・マダ!!」
ファルゴの全身から、蒸気のようなものが漏れていた。
おそらく、それが人々から奪っていた力なのだろう。
すでにボロボロとなった肉体は彼が強制的に動かしているせいで、軋むような悲鳴を上げていた。
ギデオンの頭部を狙い、金剛杵が突き出してくる。
伸縮自在の法具を、脅威的な速度で振り上げられたバトルメイスが弾き飛ばす。
その力に押し負けたファルゴは大きく仰け反り、隙が生じた。
「ぶっ飛べぇえええ――――!! オーガ・バンクラプト」
鑢のごとくギザギザとしたバトルメイスが暴君の左脇腹を捉えた。
薙ぎ払いの打撃がウロコを削り落しボディへとめり込む。
「があああはああああっ……」
上空に突き飛ばされた身は、発電炉を飛び越え正門のほうへと飛び去っていった。
「すまんな、ニ撃だったわ」
因縁の対決はギデオンの勝利で幕を閉じた。
「残るはガルベナールのみ……」
そして、決着をつける時が刻一刻と迫っていた。
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