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百八十八話
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自分の世界の色彩を壊そうとする者がいる。
ファルゴにとって他者が色を持つことなど、あってはならない事だった。
自身の色とは何か? そう考えた時、自分では見えていないことに気づいた。
血のしたたるような真紅か?
悪者を象徴する黒?
清廉潔白? あり得ないだろう?
様々な思考を巡らせて、彼は解に至った。
俺の色は王者たる黄金色だ。それは、王である俺が決めたのだから何者にも、くつがえせない絶対の真実だと。
完全無敵の黄金、そこに敵はいない。
誰にも染め替えることもできない。
そもそも、他の連中はほとんど色を持っていない。
自分だけ違わないように。
一人だけ浮かないように。
変に目立たないようにしようと生きてきた結果、皆、パーソナルカラーを棄てた。
知らないうち、気づかないまま無色透明なっている。
なのに……どうして誰も見てくれていないんだと嘆いている。
観られるのは嫌悪しときながらも、孤立するのは嫌だと喚いている。
それが正しいのか? 間違っているのか? 成否の問題ではない。
単純にそれが恐ろしいことだとファルゴは理解していた。
色がない人間は、必ず誰かによって染められてしまう。
一度、染まれば落とすのは容易ではない。
偽りの色、自身を隠す為にある迷彩色、純度も統一感もない色に染まって、そこに美はあるというのか?
グチャグチャに汚された者を誰がどう見ようとするのだ。
周りは彼の中の美学に反する者ばかりだった。
だから、彼が王でなければならなかった。さもなけば、他者と同様に何かに心を染められてしまう。
その何かが、今まさに……目の前にいた。
自分とは違う、蒼き色彩を持った華奢なコイツは、いくら殴り飛ばしても殴り返してくる。
嬉しそうに笑いながら、黄金を侵蝕してくる。
本能が叫んでいた……コイツは俺を失脚させる存在だ。
このまま放置していては、玉座から引き摺り下ろされると。
「穿て! アスラ・マダ!! クシャトリア」
血走った眼で金剛杵を光速で打ち込む。
先端の鈷から飛び出た五連のヴァリィトラァがギデオンを滅多打ちにしてゆく。
「知、治、差、迷、変、五智により、煩悩を喰らいつくせぇぇぇぇ――――!!!」
ありったけの力をこの奥義に注いだ。
あと、一撃だ……もう一歩で片が付く。
実力の差など、最初から明白だった――――
「だからよぉ……何でテメェは、血塗れになっても立っていられるんだ? 諦めてさっさと楽になれば、いいだろうに!!」
「何を言っているのか? 分からないな、ファルゴ。ここからだろ? ようやく、身体が覚えてきた……そろそろ全力でいくぞ!」
「ハッ? 覚えただと!? 強がるのも大概にしろ。満身創痍のお前に、これ以上何ができるんだ?」
「何がって…………それ以上のことだよ」
両手を握り、正眼の構えをとるギデオン。
剣がないのに、見えない一振りを持っているように見えてしまうほど、綺麗な型を作っていた。
「どうした! 威勢ばかりか? 来るなら、さっさと来い」
挑発の声を尻目にギデオンを深く息を吐いた。
全身を巡る血流、その流れを掴んでこそ、今で届かなかった境地へと踏み込むことができる。
焦らず、ゆっくり、確実に、血の流れに沿って闘気を送る。
「よし、掴んだ!」
「て……テメェ…………どこまでも、ふざけた野郎だな。どうして、プラナーも扱えない奴がそこに至る!! ソイツは……極天だ……何故だ!? 何故? オマエがぁあああ、俺より先に進んでいるんだぁぁああ――――!!」
ファルゴの身体が宙に浮いていた。
察知するより先に相手の蹴りが、彼の脇腹をウロコごと破砕していた。
「あーかいばぁ……ブラキオ」
蹴り上げようとする暴君の足は、ギデオンによって先に踏みつけられていた。
「ぐああああっ……」
骨が軋む音を聴きながら、力任せに脅威を突き飛ばす。
脅威だと感じるのは、ありえない色を持った男が傍にいるからだ。
輝いていた……文字通り、その身を焼き尽くさんばかりにギデオンの全身が蒼白く発光し、闘気を放っている。
魔法であるエンチャントを用い、生身で属性付与することは例え、一瞬だったとして肉体の損傷は激しい。
それを防ぐべくギデオンは、この土壇場で魔力を闘気に変換する術を完璧にマスターしてしまった。
練功の基礎すら知らないまま、戦闘センスだけで常識を反転させた。
それゆえ、粗削りも良いところだ……が、攻撃は確実にファルゴの肉体にダメージを与えている。
「やってくれたな……ぶっちゃけ度肝を抜かれたが、何度やってもテメェは俺には勝てない!! ウィナーズカースの能力で…………なっ、んだと!?」
「ようやく、気づいたか。その力が弱っていることに! 無駄に僕を殴り過ぎて金メッキが剥がれたようだな、撮影された映像を通してお前に対する視聴者の意識が変わってきたようだぞ」
力が抜けてゆく感覚に、暴君の心が揺らいだ。
ファルゴにとって他者が色を持つことなど、あってはならない事だった。
自身の色とは何か? そう考えた時、自分では見えていないことに気づいた。
血のしたたるような真紅か?
悪者を象徴する黒?
清廉潔白? あり得ないだろう?
様々な思考を巡らせて、彼は解に至った。
俺の色は王者たる黄金色だ。それは、王である俺が決めたのだから何者にも、くつがえせない絶対の真実だと。
完全無敵の黄金、そこに敵はいない。
誰にも染め替えることもできない。
そもそも、他の連中はほとんど色を持っていない。
自分だけ違わないように。
一人だけ浮かないように。
変に目立たないようにしようと生きてきた結果、皆、パーソナルカラーを棄てた。
知らないうち、気づかないまま無色透明なっている。
なのに……どうして誰も見てくれていないんだと嘆いている。
観られるのは嫌悪しときながらも、孤立するのは嫌だと喚いている。
それが正しいのか? 間違っているのか? 成否の問題ではない。
単純にそれが恐ろしいことだとファルゴは理解していた。
色がない人間は、必ず誰かによって染められてしまう。
一度、染まれば落とすのは容易ではない。
偽りの色、自身を隠す為にある迷彩色、純度も統一感もない色に染まって、そこに美はあるというのか?
グチャグチャに汚された者を誰がどう見ようとするのだ。
周りは彼の中の美学に反する者ばかりだった。
だから、彼が王でなければならなかった。さもなけば、他者と同様に何かに心を染められてしまう。
その何かが、今まさに……目の前にいた。
自分とは違う、蒼き色彩を持った華奢なコイツは、いくら殴り飛ばしても殴り返してくる。
嬉しそうに笑いながら、黄金を侵蝕してくる。
本能が叫んでいた……コイツは俺を失脚させる存在だ。
このまま放置していては、玉座から引き摺り下ろされると。
「穿て! アスラ・マダ!! クシャトリア」
血走った眼で金剛杵を光速で打ち込む。
先端の鈷から飛び出た五連のヴァリィトラァがギデオンを滅多打ちにしてゆく。
「知、治、差、迷、変、五智により、煩悩を喰らいつくせぇぇぇぇ――――!!!」
ありったけの力をこの奥義に注いだ。
あと、一撃だ……もう一歩で片が付く。
実力の差など、最初から明白だった――――
「だからよぉ……何でテメェは、血塗れになっても立っていられるんだ? 諦めてさっさと楽になれば、いいだろうに!!」
「何を言っているのか? 分からないな、ファルゴ。ここからだろ? ようやく、身体が覚えてきた……そろそろ全力でいくぞ!」
「ハッ? 覚えただと!? 強がるのも大概にしろ。満身創痍のお前に、これ以上何ができるんだ?」
「何がって…………それ以上のことだよ」
両手を握り、正眼の構えをとるギデオン。
剣がないのに、見えない一振りを持っているように見えてしまうほど、綺麗な型を作っていた。
「どうした! 威勢ばかりか? 来るなら、さっさと来い」
挑発の声を尻目にギデオンを深く息を吐いた。
全身を巡る血流、その流れを掴んでこそ、今で届かなかった境地へと踏み込むことができる。
焦らず、ゆっくり、確実に、血の流れに沿って闘気を送る。
「よし、掴んだ!」
「て……テメェ…………どこまでも、ふざけた野郎だな。どうして、プラナーも扱えない奴がそこに至る!! ソイツは……極天だ……何故だ!? 何故? オマエがぁあああ、俺より先に進んでいるんだぁぁああ――――!!」
ファルゴの身体が宙に浮いていた。
察知するより先に相手の蹴りが、彼の脇腹をウロコごと破砕していた。
「あーかいばぁ……ブラキオ」
蹴り上げようとする暴君の足は、ギデオンによって先に踏みつけられていた。
「ぐああああっ……」
骨が軋む音を聴きながら、力任せに脅威を突き飛ばす。
脅威だと感じるのは、ありえない色を持った男が傍にいるからだ。
輝いていた……文字通り、その身を焼き尽くさんばかりにギデオンの全身が蒼白く発光し、闘気を放っている。
魔法であるエンチャントを用い、生身で属性付与することは例え、一瞬だったとして肉体の損傷は激しい。
それを防ぐべくギデオンは、この土壇場で魔力を闘気に変換する術を完璧にマスターしてしまった。
練功の基礎すら知らないまま、戦闘センスだけで常識を反転させた。
それゆえ、粗削りも良いところだ……が、攻撃は確実にファルゴの肉体にダメージを与えている。
「やってくれたな……ぶっちゃけ度肝を抜かれたが、何度やってもテメェは俺には勝てない!! ウィナーズカースの能力で…………なっ、んだと!?」
「ようやく、気づいたか。その力が弱っていることに! 無駄に僕を殴り過ぎて金メッキが剥がれたようだな、撮影された映像を通してお前に対する視聴者の意識が変わってきたようだぞ」
力が抜けてゆく感覚に、暴君の心が揺らいだ。
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