異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百八十六話

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 冷気が漂う最中、影が揺らいだ。
 変容したファルゴが、一瞬にしてオッドとの間を詰めて狙ってくる。

「くたばれや!!」

「させるかよ!!」

 鋭いうろこに覆われた腕が肘打ちを放ったところにギデオンの回し蹴りが炸裂する。
 湾曲した脚の動きに追随し、天属性の闘気がアーチを描き、ファルゴの身を焦がす。

「くっ、これは……」ギデオンは思わず目元を歪めた。
 これまで、容易に決まっていた一撃が、硬い鱗に阻まれてしまっていた。
 それどころか、属性攻撃も身体から飛び出てきた鱗で弾いている。

 これもウィナーズカースの能力の一部なのか? ギデオンには見当もつかない。
 ファルゴの身体に生えた鱗は、魔物のソレと何ら変わりない。
 歪でドス黒いカサブタようにも見えた。

 あと、何回、動くのか? 分からない拳でファルゴを殴り飛ばし、同時にカウンターの一発を顔面で受ける。
 殴っては殴られ、蹴っては蹴り返されるの応酬。
 防御無視のぶつかり合い。
 両者、一歩も引かない格闘戦はナズィールに空に強大な映像として映し出されていた。

『皆さん、お待たせしました! いよいよ、第二部の開幕です!! 甦りし北方の魔人と対する古代の戦士フラッド。両者が死闘を繰り広げる最中、突如として若き勇士が乱入~。亡国の勇者か!? はたまた、新たなる敵か!? 謎多き少年闘士。その真を確かめるべく、フラッドは武器を手に彼に加勢するのであります!』

 映像とは別に、女学生の声が頭の中で鮮明に響いてきた。
 気のせいなどではなく、周囲の人々もまったく同じ反応を見せていた。

 最初に映像が出た時、ここはもうパニックに陥った人々でごった返していた。
 どこからか火の手があがり、悲鳴が絶えず聞こえる。
 路上では多くの人が理由もなく取っ組み合い、誰かれ構わず暴力を振るっている。
 通りに面して立ち並んだショップには大勢の強盗が押しかけ、金目のものはすべて強奪されてしまった。

 まさに、この世の地獄絵図だが……その瞬間は奇跡と共にやってきた。
 舞い踊る、金色の綿毛。闇夜の空から突如、大群で降ってきた小さな妖精、ケサランパサラン。
 何を意図して出現したのかは、ともかく、彼らは宙に浮いたまま早急に移動を開始し出した。

『皆さん、画面に注目してください! そう、注意して見てください。何もかも委ねて天上のスクリーンを見る、もしくは瞳を閉じてくださーい。戦う男たちの光景が見えるはずです。あなたの元にやってきた、その精霊こそ電波受信するアンテナなのです』

 たった一声で、それまで続いていた騒動が嘘のように静まりかえった。
 暴動自体が沈静化したのでなく、暴徒が動きを止めているだけの様だ。
 皆、食い入ように天上のスクリーンを注視している。
 無意識の支配。
 セクティーボイスを耳にすれば、誰もがそうせざるをえなくなる。

「道が開けている、これなら中央広場に戻れる……」

 シルクエッタは一人、魔笛の解呪方法を探っていた。

 傷ついた人々を、その都度治癒する。
 ここに来るまで、一体、何人の負傷者を面倒をみたのだろうか?
 人数が多過ぎて正直、憶えていない。

 呪いを解く鍵……。
 彼女が真っ先に思いついたのはガルベナールから直接、訊きだすことだった。
 デビルシードを世に生み出したほどの重鎮だ。
 何か知っているはずだ、と睨んだ。

 ガルベナールは改修工事中の劇場の中に監禁されていた。
 シルクエッタがその場所に訪れた時は、すでに、意識は朦朧としていたが、何とか龍番いの笛が持つ呪いを解く方法を訊き出すことに成功した。

 注意すべき点は二つ。
 体内で暴走したデビルシードを抑えるにはウィナーズカースの能力で制御すること。
 完全に精神を汚染されたモノは、治癒魔法で浄化する必要があること。

 前者はギデオンたちに頼むとして、治癒魔法の方はシルクエッタ自身でどうにかするしかなかった。
 どの魔法を使えば、治療できるのか? まったく当てがないわけではない。
 おおよそは絞り込めていた。

 問題は一度に治せる人数が限られていることだ。
 この街の住人全員となると、最低でも治癒師を50人は揃えないといけない。
 誰を優先し、どこで魔法を使うのか? シルクエッタは頭を悩ませた。

 本当に、効果があるのか? 試すには、やはり人が多く集まる場所がいい。
 彼女の選んだの場所は、劇場を出た先にある中央広場の特設ステージだった。
 ここなら障害物も少なく、見晴らしもいい。
 それに、自我を失った学校の生徒たちもチラホラ見受けられる。
 手にした杖を握りしめてシルクエッタは、ステージに上がった。 
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