上 下
185 / 298

百八十五話

しおりを挟む
「この煙!? 毒の類か?」
 不意をつく攻撃に、さしもの学年トップも警戒の姿勢を見せた。
 その様を見ながら、草仮面フラッドが気の抜けた声音で即答する。

「ん、二酸化炭素を凍らせた奴だけど?」

「あああ゛!! テメェ――、マジで何しに来たんだよ!?」

 予想の斜め上を行く、フラッドの行動に早々に翻弄され始める暴君。
 眉間にシワを寄せるのも無理ない。
 毒を貰うどころか、反対に毒気を抜かれてしまう始末。
 こんな奴を相手にするだけ時間の浪費にしかならないと、彼の眼が訴えている。

「僕の方を見るなよ、ファルゴ。コイツが何をしているのか? 僕でも把握できていないんだ。で……何をしている、オッド?」

「何って! 生徒会書記の女がライブ配信? をやるって、うるせぇーんだ。そうでも、しねぇと、お前らのどんちゃん騒ぎに気づいて、集まってきたヤジウマが、この施設に押しかけてくるんだわ」

「小僧!! 言い方に気をつけろよ……誰がどんちゃん騒ぎだ! コイツは俺とギデの死合だ、遊びなんかじゃあない」

 オッドの一言は火に油を注ぐようなモノだった。
 額に血管を浮き上がらせながらファルゴが、殺気混じりのプラナーをオッドの方へと飛ばしていた。
 鈍感なのか? タフなのか? 当人は至って普通だった。 
 気を当てられることもなく、ライブの準備に勤しんでいる。

 地面に撮影機材であるボックスレンズを設置し、その中にメモリージェムをさし込む。
 ……これで撮影はできるようになる。あとは、残り三か所、同様にボックスレンズを置けばいい。
 作業を進めながら、オッドは激怒する彼を一瞥いちべつした。

「でも、愉しんでいたんだろう?」

「……ふっ、ふあははっははっはは――――!!! 面白いことを垂れ流してきやがった。オッドとか言ったな。俺に対して、そんな態度を取れる奴は滅多にいねぇ……覚えたぞ、貴様の名」

 今度は、芯を捉えたような鋭い返答。
 ファルゴは、彼に何かを見出したようだ。
 それまでとは、打って変わり膝を叩きながら爆笑していた。

「それよりも、オッド。今、街の中で暴動が起きているはずだ! こんなことをしている場合は……」

「落ち着けって、らしくもねぇ。だからこそだ、書記のセクティーは、人の無意識を操るの能力がある。ライブ配信を通してアイツの音声を流せば、少なくとも暴徒たちの行動を抑えることができるはずだ」

 悪くはない発想だった。
 確かに、ライブ映像を送れば、ナズィール地区全体にセクティーの声が広まるはずだ。
 ただし、オッドは肝心なことを失念していた。

「どうやって、街中の人々に映像を送るんだ?」

「そいつは、ビュワーとかいう機材を用いてだな……あっ! ちょっと待っていろ、アイツに聞いてみるわ」
 オッドたちの計画はわりとアバウトだった。
 ビュワーと呼ばれる空間映写機は、メモリージェムに記憶された内容を何もない空間や上空に映し出すスクリーンとしての機能を有している。
 大変優れたの機材だが、その分、とても高価で希少。
 ナズィール地区が保有している数は、全部で三台しかない。
 これでは、一部の者たちにしか映像が届かない。

 狂気という名のパンデミックを退けるためには、もっと確実な方法で人々に視聴して貰う必要があった。

『ライブ中継か。どうやら、風向きがこちらに向いてきたようだぞ、ギデオン! 彼らが撮影する映像を利用しない手はないぞ』
 話を聞いていたジェイクが、ギデオンの肩の上でポンポン飛び跳ねていた。
 何やら、秘策があるような口ぶりだ。

『どういう意味だ? 他に、ビュワーのようなモノがあると言うのか?』

『そこは、私に任せてくれ。上手くいけば、暴動の鎮静化だけではなく、ファルゴのウィナーズカースの力を弱らせられるかもしれない』

『オッサン、それは都合が良過ぎやしないか……?』

『良くなるか、どうかはここからだ。お前がファルゴを圧倒しなければ、何も変わらない……ここが正念場だぞ!』


「なるほど、実に共和国民らしい考え方だ。派手好き、バカ騒ぎ好きと、つくづく頭の中身がお花畑のようだな」
 マイナス79度の冷気を浴びながら、暴君の肉体が少しずつ変貌してゆく。
 皮膚がウロコのように硬貨し浅黒く変色してゆく。
 瞳が爬虫類のソレと似通った細長いモノとなる。
 ファルゴの筋肉がはち切れんばかりに膨張してゆく。

「いいだろう、その茶番に付きやってやる。その代わり、連中のトラウマになるような凄惨な光景を見せつけてやる」

「ファルゴ……お前、その姿は一体!?」

「貴様には関係ねぇー。知りたければ、力を示して俺を越えてみろ!!」

 対ファルゴ戦は、最終局面に突入した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気が付くと見知らぬ部屋にいた。 最初は、何が起こっているのか、状況を把握する事が出来なかった。 でも、鏡に映った自分の姿を見た時、この世界で生きてきた、リュカとしての記憶を思い出した。 記憶を思い出したはいいが、状況はよくなかった。なぜなら、貴族では失敗した人がいない、召喚の儀を失敗してしまった後だったからだ! 貴族としては、落ちこぼれの烙印を押されても、5歳の子供をいきなり屋敷の外に追い出したりしないだろう。しかも、両親共に、過保護だからそこは大丈夫だと思う……。 でも、両親を独占して甘やかされて、勉強もさぼる事が多かったため、兄様との関係はいいとは言えない!! このままでは、兄様が家督を継いだ後、屋敷から追い出されるかもしれない! 何とか兄様との関係を改善して、追い出されないよう、追い出されてもいいように勉強して力を付けるしかない! だけど、勉強さぼっていたせいで、一般常識さえも知らない事が多かった……。 それに、勉強と兄様との関係修復を目指して頑張っても、兄様との距離がなかなか縮まらない!! それでも、今日も関係修復頑張ります!! 5/9から小説になろうでも掲載中

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...