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百八十三話

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 上位三属性の光、闇、天。
 うち一つの天属性の魔力を解き放つ一撃がファルゴを地に叩きつけた。

 天属性を象徴する蒼き闘気。
 それは、相克そうこく関係となる地属性を持つファルゴにとっては最悪の相性だった。
 雷と地の二重属性持ちの彼は、攻撃は雷属性魔法、防御は地属性の練功と珍しい能力の使い分けをしていた。
 長年の間、そうしてきた結果、その癖はすっかり身体に染みついてしまっていた。
 意識して抑えようとしても、ことさら上手くはいかない。
 ヴァリィトラァのように、二つの術式、属性を組み合わせることができるのは攻撃だけだ。

 ファルゴにとって攻撃は最大の防御であった。
 天属性の相手と一戦交える場合は相手に攻撃させないのが一番有効な方法だと考えていたからだ。
 敵を接近させない広範囲攻撃で牽制けんせいすれば、無理やり突っ込んでくるような馬鹿は、ほぼいない。
 いても、致命傷を負うことになる。

「なのに……テメェはことごとく覆してきやがる」

 ファルゴからすれば、ギデオンは頭のネジがぶっ飛んでいる人間だった。
 常識的に回避行動を選択する場面であっても、彼は真逆の攻撃が激しい方へと進んでゆく。
 ギデオンの最低限の動作でことを成そうとする様は、彼には受け入れられない。
 メリット以上にデメリットが多く、理に適っていない……

「オッサン!! 今だ」

 ……はずなのに、気づけば流れがギデの方へと向いている。
 まんまとゴールデンパラシュートの接触を許してしまった。
 無様な自身に彼は腸が煮えくり返る思いを受けていた。

『意外にも繊細な奴だな』


「ゴールデンパラシュートか!? 一体どこから聴こえてきている?」

『どこもかしこもない。ファルゴ、私はお前の意識の語りかけているのだ』

「意識だと? それが真実だとしても、どうして俺の能力を見破ることに繋がる? まさか、教えてくれなどと懇願するわけでもねぇんだろう?」

 ファルゴの嫌味はジェイクに笑い飛ばされた。
 勝手に、人の心の中に入り、言いたいことだけを言いまくる声が、ファルゴの神経を絶えず逆なでしてくる。
 まさに怒り心頭……戦闘中にこれだけの侮辱を受けた彼が黙っているわけがない。

『貴様、必ず見つけだしてグチャグチャにしてやる』

『そうかい? なら、さっさと得意の能力で回復する必要があるな』

『言われなくても、やってやる! 回復だ! ウィナーズカース』

 全身の傷口がスッと消え去ってゆく。
 当たり前ではない出来事が、当たり前のように繰り返されることほど、不気味な物はない。

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!! 消えやがれぇええぇ!」

 復活したファルゴが真っ先にケサランパサランを殴り飛ばした。
 その衝撃により毛玉が儚く宙で砕け散る。

「次はテメェだ!」

 再び、立ち上がったファルゴに悲劇が襲った。
 意識が刈り取られるような衝撃が全身に回ったかと思えば、彼自身が回転しながら発電炉の外壁に衝突していた。
 その間、わずか二秒……先の戦闘であれほど優勢だったのが嘘のようだ。

「ダウンを奪ったからって攻撃の手を緩めるとでも思っていたのかよ。この攻撃の対処法を見いだせなければ、ファルゴ! お前に勝ち目はない」

「言っただろう……ウィナーズカースは無敵だ!! テメェに勝機が訪れることは一切ねぇ…………!?」

 自身の勝利を信じて止まない暴君。
 その発言を崩したのはギデオンの肩口からひょっこりと姿を現わした毛玉だった。
 元々、エーテル体で構成されているケサランパサランに物理攻撃など通用しない。
 冷静さを欠いたファルゴのミスだった。
 もし、プラーナや魔力が伴う攻撃だったらゴールデンパラシュートの毛玉は消滅していたであろう。
 追い詰められることに慣れていない、彼の弱さが浮き彫りになってきた。

「……もう、種は割れたぞ。お前のウィナーズカースはの能力だ。他者に自分のダメージを分け与え、ほぼ零の状態にすると、他者から力を奪い取り自分の糧とする、この二種類の分配により、その力は成り立っている」

「チッ! どうやって知ったのかは分からねぇが、知ったところでどうにもできないぞ」

「そうだな。お前が常時、暴君として振る舞っていたのも、それが起因している。ウィナーズカースは、その力をオーディエンスに認めさせ、敵わないと屈服させることでトリガーとなる。力をつければつけるほどに、力の回収率が上がってくる。本当に厄介な能力だ……最終的には最強の戦士を完成させるんだからな」

「ククッ、フハッハアアアアア――――!! これで、分かったろう! オマエたちにあるのは、敗北と絶望のみだぁああ!!」
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