異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十九話

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 今まで、これほどの脅威を感じる好敵手がいただろうか?
 恵まれすぎた男の悲痛な叫びは、悲しみではなく怒りに込められていた。
 ずっと、意味を求めてきた……自分が何者で、どこへと歩んでゆくのか。

 答えは、他者との境界線から見る自身の内側にある。
 などと何処かの哲学者が述べていた気もしなくはない。
 要は俯瞰ふかんだ。周囲から得た情報をもとに自分という者を見つめ直せというアドバイスだ。

 ファルゴに、それは当てはまらない。
 何故なら比較できる対象が見つからないからだ。
 どこまで走り続けても追う背中がない。
 また、追いかけてくる者も誰もいない。
 彼は本当の意味での孤高だった。

 それが自身の望みだったら救いはあった。
 運命が彼に微笑むことはない。「力ある者は、同程度の責任を背負え」とまくし立てるだけだ。
 気づけば、世界は白と黒のモノクロームとなっていた。
 どいつもこいつも、黒く染まり個としての価値を示さない。
 稀に白いのもいるが、何もない抜け殻か、無知のままで生き続けている人形のような輩だ。

 ファルゴは自分以外の色彩を求めていた。
 誰かを染めるのではなく、自身を偽ることなく主張する毛色。
 独自の色を放つ者を探していた。
 条件は分からない、けれど並みならぬの人生を突き進んできた者こそ宿るとファルゴは考えていた。

 自身の前に立ち塞がる男、異性でないことには面を喰らったが、色を宿していることは変わらない。
 蒼穹のように澄んだ蒼色と内に潜む紺色、二色間で織りなすグラデーションが彼の瞳に映るギデオンの色だ。

「オラァ! まだまだ、これからだぞ」

 ファルゴの拳が煌めく。
 閃光のラッシュがギデオンを覆いつくす。
 足元に転がっていた鉄パイプを咄嗟に拾いあげ、先端部分で拳の軌道をそらす。
 どれだけ高速で動いていても拳は二つしかない。
 パリィの出来損ないではあるが、ギデオンが得意とする受け流し法だ。
「クリティカル・パス」名もなき剣戟に彼はそう名づけた。

 少しずつ遅延してゆく攻撃の流れ、その隙をついて鉄パイプが暴君のコメカミに届いた。
 魔術で劣っていても、剣技なら通じる。
 わずかにズレた体幹の動き合わせ、銃口を突き出す。

「くらえ、ドレッドノート!!」

 バハムートの速射機能を最大限に活かし複数の魔力弾をほぼ同時に放つ。
 散弾するリコシェット・セフィーロとは対の収斂しゅうれんし一塊となる弾丸群。
 計七発に相当する一撃を胸元に受け、着用していたスーツが弾け飛ぶ。
 集の力は、鉄壁を誇るファルゴのガードでも無効にはできない。

「むぐぐっ……俺の練功を破壊してきやがった。なるほど、その辺の馬鹿よりは戦い方を知ってやがる」

「インファイトが得意なのは、何もお前だけじゃないぞ」

「はっ! だったら、アウトで行くぜぇ。来い! ヴァリィトラァ」

 ギデオンに向けてかざすてのひらから、プラーナで形成された竜頭が出現する。
 前回、放ったものとは半分以下のサイズだが、非情に厄介な技であることには変わりない。
 超高速の光龍が一直線に伸びてくる。
 その速さはギデオンの反応速度でも追いつかない。
 寸でのところで、バハムートの砲撃が光龍に直撃し、直角を描いて上昇してゆく。

「これで終わりだと思うなよ!」

 第二、第三のヴァリィトラァが放出された。
 こうなると、手当たり次第に連射して弾幕を張るしかない。
 考え方としては確かに半分正解だ。
 実際、ギデオンの放った攻撃は二体の龍にヒットした。
 ただ、対応策としては甘さが際立っていた。
 弾幕を通過したヴァリィトラァの威力は落ちることなく、ギデオンを身体を貫いた。
 肩と脇腹、それぞれ一発ずつ喰らい、白のシャツを真っ赤に染めてゆく。

「クッ……ハァハァッ。まだだ! この程度、痛くもなんともないぞ!!」

「虚勢か。立っているのがやっとだろ? 見えるぞ! テメェの色が、ドンドン色あせてゆくのが」

 パーミッショントランスからの飛び膝蹴り、プテラノ・フリッカーがギデオンに迫る。
 それに合わせ、肩の傷口を押えていた手を振るうギデオン。
 飛散した血液がファルゴの視界を遮った。

「……ディストーションドライバー」

 脆弱な声とは、正反対の鉄パイプによる痛烈な打撃が暴君の腹部を陥没させていた。

「がはっ! なんだ、この一撃は……そうか、テメェー。エンチャントを使うのか!?」

 吐血しながら、ファルゴは笑っていた。
 それは、邪なモノではなく屈託のない少年のような笑みだった。

「うおおおっらああああ!!」
 全力を込めた正拳突きがギデオンの頭部を殴りつけた。

 流血を飛ばしながら、数歩ずつ後退してゆくハンター。
 銃を手放すことなく、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。
 人並み外れた破壊力の前に、ギデオンでさえも太刀打ちできないというのだろうか?
 意識は、すでに途絶えてしまっている。
 そんな彼の姿を眺めながら、暴力の使者は近づいてくる。
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