169 / 366
百六十九話
しおりを挟む
今まで、これほどの脅威を感じる好敵手がいただろうか?
恵まれすぎた男の悲痛な叫びは、悲しみではなく怒りに込められていた。
ずっと、意味を求めてきた……自分が何者で、どこへと歩んでゆくのか。
答えは、他者との境界線から見る自身の内側にある。
などと何処かの哲学者が述べていた気もしなくはない。
要は俯瞰だ。周囲から得た情報をもとに自分という者を見つめ直せというアドバイスだ。
ファルゴに、それは当てはまらない。
何故なら比較できる対象が見つからないからだ。
どこまで走り続けても追う背中がない。
また、追いかけてくる者も誰もいない。
彼は本当の意味での孤高だった。
それが自身の望みだったら救いはあった。
運命が彼に微笑むことはない。「力ある者は、同程度の責任を背負え」とまくし立てるだけだ。
気づけば、世界は白と黒のモノクロームとなっていた。
どいつもこいつも、黒く染まり個としての価値を示さない。
稀に白いのもいるが、何もない抜け殻か、無知のままで生き続けている人形のような輩だ。
ファルゴは自分以外の色彩を求めていた。
誰かを染めるのではなく、自身を偽ることなく主張する毛色。
独自の色を放つ者を探していた。
条件は分からない、けれど並みならぬの人生を突き進んできた者こそ宿るとファルゴは考えていた。
自身の前に立ち塞がる男、異性でないことには面を喰らったが、色を宿していることは変わらない。
蒼穹のように澄んだ蒼色と内に潜む紺色、二色間で織りなすグラデーションが彼の瞳に映るギデオンの色だ。
「オラァ! まだまだ、これからだぞ」
ファルゴの拳が煌めく。
閃光のラッシュがギデオンを覆いつくす。
足元に転がっていた鉄パイプを咄嗟に拾いあげ、先端部分で拳の軌道をそらす。
どれだけ高速で動いていても拳は二つしかない。
パリィの出来損ないではあるが、ギデオンが得意とする受け流し法だ。
「クリティカル・パス」名もなき剣戟に彼はそう名づけた。
少しずつ遅延してゆく攻撃の流れ、その隙をついて鉄パイプが暴君のコメカミに届いた。
魔術で劣っていても、剣技なら通じる。
わずかにズレた体幹の動き合わせ、銃口を突き出す。
「くらえ、ドレッドノート!!」
バハムートの速射機能を最大限に活かし複数の魔力弾をほぼ同時に放つ。
散弾するリコシェット・セフィーロとは対の収斂し一塊となる弾丸群。
計七発に相当する一撃を胸元に受け、着用していたスーツが弾け飛ぶ。
集の力は、鉄壁を誇るファルゴのガードでも無効にはできない。
「むぐぐっ……俺の練功を破壊してきやがった。なるほど、その辺の馬鹿よりは戦い方を知ってやがる」
「インファイトが得意なのは、何もお前だけじゃないぞ」
「はっ! だったら、アウトで行くぜぇ。来い! ヴァリィトラァ」
ギデオンに向けてかざす掌から、プラーナで形成された竜頭が出現する。
前回、放ったものとは半分以下のサイズだが、非情に厄介な技であることには変わりない。
超高速の光龍が一直線に伸びてくる。
その速さはギデオンの反応速度でも追いつかない。
寸でのところで、バハムートの砲撃が光龍に直撃し、直角を描いて上昇してゆく。
「これで終わりだと思うなよ!」
第二、第三のヴァリィトラァが放出された。
こうなると、手当たり次第に連射して弾幕を張るしかない。
考え方としては確かに半分正解だ。
実際、ギデオンの放った攻撃は二体の龍にヒットした。
ただ、対応策としては甘さが際立っていた。
弾幕を通過したヴァリィトラァの威力は落ちることなく、ギデオンを身体を貫いた。
肩と脇腹、それぞれ一発ずつ喰らい、白のシャツを真っ赤に染めてゆく。
「クッ……ハァハァッ。まだだ! この程度、痛くもなんともないぞ!!」
「虚勢か。立っているのがやっとだろ? 見えるぞ! テメェの色が、ドンドン色あせてゆくのが」
パーミッショントランスからの飛び膝蹴り、プテラノ・フリッカーがギデオンに迫る。
それに合わせ、肩の傷口を押えていた手を振るうギデオン。
飛散した血液がファルゴの視界を遮った。
「……ディストーションドライバー」
脆弱な声とは、正反対の鉄パイプによる痛烈な打撃が暴君の腹部を陥没させていた。
「がはっ! なんだ、この一撃は……そうか、テメェー。エンチャントを使うのか!?」
吐血しながら、ファルゴは笑っていた。
それは、邪なモノではなく屈託のない少年のような笑みだった。
「うおおおっらああああ!!」
全力を込めた正拳突きがギデオンの頭部を殴りつけた。
流血を飛ばしながら、数歩ずつ後退してゆくハンター。
銃を手放すことなく、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。
人並み外れた破壊力の前に、ギデオンでさえも太刀打ちできないというのだろうか?
意識は、すでに途絶えてしまっている。
そんな彼の姿を眺めながら、暴力の使者は近づいてくる。
恵まれすぎた男の悲痛な叫びは、悲しみではなく怒りに込められていた。
ずっと、意味を求めてきた……自分が何者で、どこへと歩んでゆくのか。
答えは、他者との境界線から見る自身の内側にある。
などと何処かの哲学者が述べていた気もしなくはない。
要は俯瞰だ。周囲から得た情報をもとに自分という者を見つめ直せというアドバイスだ。
ファルゴに、それは当てはまらない。
何故なら比較できる対象が見つからないからだ。
どこまで走り続けても追う背中がない。
また、追いかけてくる者も誰もいない。
彼は本当の意味での孤高だった。
それが自身の望みだったら救いはあった。
運命が彼に微笑むことはない。「力ある者は、同程度の責任を背負え」とまくし立てるだけだ。
気づけば、世界は白と黒のモノクロームとなっていた。
どいつもこいつも、黒く染まり個としての価値を示さない。
稀に白いのもいるが、何もない抜け殻か、無知のままで生き続けている人形のような輩だ。
ファルゴは自分以外の色彩を求めていた。
誰かを染めるのではなく、自身を偽ることなく主張する毛色。
独自の色を放つ者を探していた。
条件は分からない、けれど並みならぬの人生を突き進んできた者こそ宿るとファルゴは考えていた。
自身の前に立ち塞がる男、異性でないことには面を喰らったが、色を宿していることは変わらない。
蒼穹のように澄んだ蒼色と内に潜む紺色、二色間で織りなすグラデーションが彼の瞳に映るギデオンの色だ。
「オラァ! まだまだ、これからだぞ」
ファルゴの拳が煌めく。
閃光のラッシュがギデオンを覆いつくす。
足元に転がっていた鉄パイプを咄嗟に拾いあげ、先端部分で拳の軌道をそらす。
どれだけ高速で動いていても拳は二つしかない。
パリィの出来損ないではあるが、ギデオンが得意とする受け流し法だ。
「クリティカル・パス」名もなき剣戟に彼はそう名づけた。
少しずつ遅延してゆく攻撃の流れ、その隙をついて鉄パイプが暴君のコメカミに届いた。
魔術で劣っていても、剣技なら通じる。
わずかにズレた体幹の動き合わせ、銃口を突き出す。
「くらえ、ドレッドノート!!」
バハムートの速射機能を最大限に活かし複数の魔力弾をほぼ同時に放つ。
散弾するリコシェット・セフィーロとは対の収斂し一塊となる弾丸群。
計七発に相当する一撃を胸元に受け、着用していたスーツが弾け飛ぶ。
集の力は、鉄壁を誇るファルゴのガードでも無効にはできない。
「むぐぐっ……俺の練功を破壊してきやがった。なるほど、その辺の馬鹿よりは戦い方を知ってやがる」
「インファイトが得意なのは、何もお前だけじゃないぞ」
「はっ! だったら、アウトで行くぜぇ。来い! ヴァリィトラァ」
ギデオンに向けてかざす掌から、プラーナで形成された竜頭が出現する。
前回、放ったものとは半分以下のサイズだが、非情に厄介な技であることには変わりない。
超高速の光龍が一直線に伸びてくる。
その速さはギデオンの反応速度でも追いつかない。
寸でのところで、バハムートの砲撃が光龍に直撃し、直角を描いて上昇してゆく。
「これで終わりだと思うなよ!」
第二、第三のヴァリィトラァが放出された。
こうなると、手当たり次第に連射して弾幕を張るしかない。
考え方としては確かに半分正解だ。
実際、ギデオンの放った攻撃は二体の龍にヒットした。
ただ、対応策としては甘さが際立っていた。
弾幕を通過したヴァリィトラァの威力は落ちることなく、ギデオンを身体を貫いた。
肩と脇腹、それぞれ一発ずつ喰らい、白のシャツを真っ赤に染めてゆく。
「クッ……ハァハァッ。まだだ! この程度、痛くもなんともないぞ!!」
「虚勢か。立っているのがやっとだろ? 見えるぞ! テメェの色が、ドンドン色あせてゆくのが」
パーミッショントランスからの飛び膝蹴り、プテラノ・フリッカーがギデオンに迫る。
それに合わせ、肩の傷口を押えていた手を振るうギデオン。
飛散した血液がファルゴの視界を遮った。
「……ディストーションドライバー」
脆弱な声とは、正反対の鉄パイプによる痛烈な打撃が暴君の腹部を陥没させていた。
「がはっ! なんだ、この一撃は……そうか、テメェー。エンチャントを使うのか!?」
吐血しながら、ファルゴは笑っていた。
それは、邪なモノではなく屈託のない少年のような笑みだった。
「うおおおっらああああ!!」
全力を込めた正拳突きがギデオンの頭部を殴りつけた。
流血を飛ばしながら、数歩ずつ後退してゆくハンター。
銃を手放すことなく、ゆっくりと崩れ落ちてゆく。
人並み外れた破壊力の前に、ギデオンでさえも太刀打ちできないというのだろうか?
意識は、すでに途絶えてしまっている。
そんな彼の姿を眺めながら、暴力の使者は近づいてくる。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
H.I.S.A.H.I.T.O. みだりにその名を口にしてはならない小説がある。
あめの みかな
ファンタジー
教会は、混沌の種子を手に入れ、神や天使、悪魔を従えるすべを手に入れた。
後に「ラグナロクの日」と呼ばれる日、先端に混沌の種子を埋め込んだ大陸間弾道ミサイルが、極東の島国に撃ち込まれ、種子から孵化した神や天使や悪魔は一夜にして島国を滅亡させた。
その際に発生した混沌の瘴気は、島国を生物の住めない場所へと変えた。
世界地図から抹消されたその島国には、軌道エレベーターが建造され、かつての首都の地下には生き残ったわずかな人々が細々とくらしていた。
王族の少年が反撃ののろしを上げて立ち上がるその日を待ちながら・・・
※この作品はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
記憶も記録もありません…全てを消された放浪者(わたし)は、わけもわからずスローライフしてます❗️
Ⅶ.a
ファンタジー
主人公、ライラは目覚めると、記憶も、名前も、過去もすべてを失っていた。荒涼とした大地に立ち尽くす彼女は、自分が誰で、何故ここにいるのか一切わからないまま、ただ一人で歩み始める。唯一の手がかりは、彼女の持つ一冊の古びた日記帳。だが、その日記帳もほとんどのページが破られ、読める部分は僅かしか残っていない。
日記の数少ない記述を頼りに、ライラは静かな村「エルムウッド」にたどり着く。この村はまるで時間が止まったかのように穏やかで、住人たちは皆、心優しく、彼女を温かく迎え入れる。ライラは村人たちと一緒に日々の生活を送りながら、自分の過去を取り戻すための手掛かりを探していくことになる。
村での生活は、彼女にとって新鮮で驚きに満ちていた。朝は鶏の世話をし、昼は畑で野菜を育て、夕方には村の人々と共に夕食を囲む。そんな日々の中で、ライラは次第に自分の心が癒されていくのを感じる。しかし、その穏やかな日常の中にも、彼女の失われた記憶に関する手掛かりが少しずつ現れてくる。
ある日、村の古老から語られた伝説が、ライラの記憶の一部と奇妙に一致することに気づく。かつて、世界には大きな戦争があり、その中で多くの記憶と記録が意図的に抹消されたという。ライラの失われた記憶も、その戦争に関わっているのではないかと推測する。古老の話を聞くたびに、彼女の中に何かが目覚め始める。
エルムウッド村でのスローライフは、ライラにとっての癒しとともに、自分を取り戻すための旅路でもある。村人たちの温かさに触れ、日々の小さな喜びを見つける中で、彼女は少しずつ自分の居場所を見つけていく。彼女の過去が何であれ、今を生きることの大切さを学びながら、ライラは自分の未来を描き始める。
物語は、ライラがエルムウッド村での生活を通じて成長し、自分の本当の姿を見つける過程を描く。喪失された記憶、抹消された記録、そして全てを消された放浪者としての彼女が、新しい生活の中でどのように自分を再発見していくのか。ライラの冒険と共に、読者はほっこりとした温かい気持ちになりながら、彼女の物語に引き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる