異世界アウトレンジ ーワイルドハンター、ギデ世界を狩るー

心絵マシテ

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百六十八話

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 砂塵をまき散らし、ゴーレムが沈んでゆく。
 一時の静寂に包まれた中、地に倒れ沈黙するバミューダの姿があった。

「来たか……」
 ファルゴが振り返ると、ひょろ長く人並みサイズまで縮小した自身の悪意がフラフラとやってきた。
 黒炎に身を焦がしながらも、主の元へと戻ろうと本能だけで動いている。

「ふん、ずんぶんとコテンパンにやられたようだな。マッチ棒みたいになりやがって…………まぁ、いい。戻れ!」

 ファルゴが手をかざすと炎ごとダイダラボッチが吸収されてゆく。
 何事もなかったような面持ちで、若干離れた通路先を眺める。
 期待に応えるかのように、半壊した建屋の合間から二つの足音が近づいてくる。

 噴き出した蒸気の向こうからギデオンとクォリスが現れた。
 強敵を視認したファルゴはに握った拳をバキバキと鳴らしながら、口角を吊り上げる。
 待ちに待った瞬間が、じきに訪れる。
 遊園地のアトラクションを待っていた子供のように瞳を輝かせ勢いづく。

 それは、ギデオンの方でも変わらない。
 越えなければならない壁としてファルゴがいた。
 ガルベナールの野望を打ち砕き、極悪非道の所業を世に明かすには、この男を倒さないといけない。
 いくら、ガルベナールの悪事を表沙汰にしようとも、ファルゴが事実をウヤムヤにすれば全部なかったことにされてしまう。
 多大な影響力を持つ存在に敗北を叩き込まなければならない。
 それこそが、ファルゴという暴走機関から力を奪い去る唯一の方法だ。

「クォリス、少し離れていてくれ……戦いが始まる」

「うん……気をつけて」

 クォリスが離れるのと同時に、両者間で開幕のパーミッショントランスが炸裂した。
 互いに間合いを詰めたために行き違いとなりながらも、銃と拳が火を噴き激突する。

「ちっ、気に食わねぇ。俺の技を、完全に使いこなしてやがる……認めたくねぇが、テメェの戦闘センスは一級品だ。だがよぉ、魔法適性面では恵まれなかったようだな。パーミッショントランスのように無属性の魔力操作ならともかく、テメェ自身の攻撃には属性がまったく付与されていねぇーよな」

「今日は、ずんぶんとお喋りなんだな……お前の言う通り、僕は属性魔法が使えない。その代わり、この相棒が魔力弾を放って弱点を補ってくれている。それで、問題はない」

 銃をかかげ語るギデオンを見て、ファルゴが地面にツバを吐き捨てた。
 拳に溢れんばかりのプラーナをのせながら、あからさまな不満をぶちまけるようにして殴りかかってきた。

「ギガノレイダァ―――!!」
 闘気が実寸よりも肥大化した拳を作り出す。
 見かけだけではない。
 高純度の集積した生命エネルギーが、膨大な質量に変換されギデオンを抹殺しようとする。
 地面を撃ち抜くと、一瞬にして陥没し窪地が出来上がった。
 被弾はまぬがれても、威力は災害クラス、破壊力だけでも狂気じみている。
 全身を打ちつける衝撃をこらえながら、ギデオンは歯を食いしばる。
 少しでも気を抜けば、どこまでも吹き飛ばされて肉塊になってしまいそうだ。

「うおおおおおおおららあああ――――」
 反撃となる銃撃が暴君を打ちのめす、バハムートから回転を加えた魔力弾が乱射される。
 まるで、マシンガンのように掃射音がとめどなく響き続ける。

「んな、豆鉄砲で! 俺を止められると思うなぁぁあ――よ」

「ぐがっ!!」
 ダイノハンマーが腹部を突きあげる。
 経験したことのない衝撃に、苦痛の声すらまともに出てこない。
 身体を折り曲げながら、ギデオンはその場で胃液を吐き出した。
 地べたに、うずくまる彼にファルゴが問う。

「ギデだったか? テメェ、本気で言ってんのか?」

「なっ――んのことだ……」

「さっきの話だ。何が問題ねぇんだよ? 魔法が使えなくても構わないなんて、つまらねえことをほざきやがって。テメェのそれは怠慢だ。不得意なことから目をそむけて自身の可能性をみすみす、捨ててやがる。最初に言ったよなぁ? 俺にテメェの極限を見せてみろって。有り余る才能も使わねぇのならないのと一緒だ」

「かくいう……お前はどうなんだ? 偉そうに講釈ばかり立ててくるけど、必死になって何かを成し遂げようとしたことはあるのか……?」

「俺だぁ? 俺がテメェらと同格なわけがないだろう。生まれたときから人よりも才覚が上回っていたんだ。いくら手を抜いてやっても負けやしねぇ。鬱憤うっぷんが常につきまとっている感覚が分かるか!? わかりゃしねぇだろう……それもこれもテメェらが弱すぎるせいだ! もっと、本気でかかってこい。でなければ、俺を倒すことなど夢のまた夢だ」
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